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探求同盟−死体探し編− 作者:光夜

第23回   23
 「ロック&スミス、五年前に結成されたインディーズバンド。プロ転換を断ったこともある所らしいね」
 大塚と、あの名前も知らない三年が言うとおり、確かにそのバンドはあった。インディーズ、ようはプロではないがバンドとして活動している連中ということらしい。よくわからないがアマチュアとは違うのだろうか。
 「そのバンドが、結成五周年を記念して作ったのが、件のキーホルダーらしいね。あの飾りはケツアルコアトルじゃなくて、単純にいいデザインだと思ってバンドのマークにしたイラストみたいだね。紛らわしい」
 「じゃあなにか、裏の番号も関係ないのか?」
 光夜の質問に僕は手元にある二枚の飾りをひっくり返した。片方は『1915』と掘られたもの、そしてもう一つは『No.1638』と彫られたもの。どうやら本当にシリアルナンバーだったらしいね。
 「このキーホルダー、全部で二千個作られていて、そのうちはじめの四つはバンドのメンバーが所持していて、残り1996個はファンに抽選でプレゼントしたみたいだよ。だから、裏の番号は本当にシリアルナンバーだったって言うこと。ケツアルコアトルとは、全く関係なかったね」
 残念、と普通に笑って明は言う。何が残念なのかは知らない。ともかく、手がかりはそれなりに揃ってきた。可能性も出てきたということだ。
 「とはいえ、全部で二千個だ。どうやってその『1915』の人間を探す。そこからの手がかりはどこにもないぞ」
 「ああ、それならまだ大丈夫。こういう個人で活動している人たちってファンを離したくない人たちだから、こう言うのも作ってるんだよ」
 カチカチ、と画面内のボタンを押し続ける明。いろんな画面が出てきては次の画面に覆いかぶさられ、最後に出てきたのは、何かの表だった。それも結構長い。
 「これ、キーホルダーが当たった人たちのリストだよ。番号と、ハンドルネームだけだけどね」
 確かに、その表は上から若い順に並んでいた。そして隣にはおおよそ戸籍登録が出来そうにない妙な名前が合わせて並んでいた。話じゃ上から四人がバンドのメンバーらしい。興味はない。問題は・・・・
 「で、これが『No.1915』が当選した人のハンドルネーム。『スミスキー』だって」
 ロック&スミス、スミスが好きだから、だろうか。本当に、妙な連中が多いな、世の中。
 「個人のことだ、どうせどこに住んでいるかなんてわからないだろう」
 「うん、そうだね。いくらなんでも、ここまでが限界だよ」
 明はパソコンから手を離して、どうしようと呟いた。
 「行き詰まりか、仕方がない。また、別なものを探すしかないな」
 「うーん、そうでもないかもよ。希望は薄いけど、まだやれることはあるかもしれない」
 言いながら、画面の一部を消しながら、別な画面を開いた。それは、個々に訪れる人間たちが思い思いに意見を交換する、所謂掲示板というものだった。そこには、発言者の名前が大量に書かれている。もちろん、あの『スミスキー』とか言う名前もあった。
 「ここではね、顔が見えない人どうしで楽しく会話をするんだ。同じものが好きなら、意気投合するのは早いからね。マナーさえ守れば誰だって参加が出来るって言うし。それにね、人間って不思議なイキモノでさ、文章でしかコミュニケーションをとっていないのに、『OFF会』って言って、現実に待ち合わせて出会うって言うこともするんだ」
 「人の趣味に口はださねぇよ。で、その掲示板で何をししようってんだ」
 「ようは、僕らもここに書きこんで、ここの人たちと仲良くなろうってう事なんだよ。そうすれば、個人で会おうって言うことにもなるんだけど。目的の人と仲良くなれるって言う保証はないのが難点だね」
 当たり前だ。キーホルダーを貰った人間だけで二千人近い、抽選に漏れた人間はそれ以上にいる。そんな中からたった一人と友好を作れるとは思えない。
 「でも、この『スミスキー』って言う人、ここの発言数が多いみたいだから、巧くすればこの人と友好が出来るかもしれない」
 「・・・・・時間は掛かるが、それが最短か。なら、やるしかないだろう」
 「だよね、だめもとでやるしかないよね」
 明はそういうと、適当に名前を決めて掲示板内で発言を始めた。

 『初めまして、キリアといいます』

 キリシマアキラ・・・・キリア?名前の付け方は人の自由だ、俺は何も言わずにその続きを見守った。

 『ロック&スミスの曲を偶然友達から借りて、一気にファンになってしまいました。インディーズバンドとかについては初心者で、よく解らないことも言うかもしれないけど、よろしくお願いします』

 たん、と最後に決定ボタンを押して掲示板内に明の打った文字が表示された。これで、とりあえずは様子見ということに成りそうだ。
 「一応はこれで終わり、一日一回くらいのペースで発言すれば、一週間くらいで会うところまで持ってこれるかもね。こういう所を利用する人間って積極的なほうが普通みたいだし」
 「・・・・お前の見解はどうでもいいが、無駄に知識があるって言うのはこういう深い部分も含むもんなのか?」
 「え?あー、どうかな?僕は何となく吸収しちゃった知識だから、本当に必要なとき―――――今みたいなときじゃないと使用しないけど、あって悪いものじゃないしね。だとしても、知識の探求は必要だよ。深い浅いじゃなくて、為になるかならないか、って僕は思うな」
 明の知識に無駄を見たことはない。俺が言ったのは建前だ。本心はこれだけ覚えて、なぜ人と関わる術を覚えないのか、そこだった。だが、こいつは昔から、それもだいぶ小さいときから異質さを見せていた。それが鬱陶しかったのか、中学三年の後半ごろ一人暮らしを半ば強制的にさせられることになったらしいが、深くは聞いていない、聞きたくもない。明は、明でしかない。それ以上でも以下でもない。
 「あって悪いものじゃない。まあ、そうだな」
 俺はそこで黙った。これ以上考えるのは無意味だからだ。適当に座っていつもの作業に戻ろうとした。
 「あ、もう時間だね」
 「あ?・・・ああ、もうこんな時間か」
 時計を見れば運動部も引き上げる頃合の時間だった。あの三年どものおかげで全然作業が出来なかったじゃねぇか。仕方がない、と俺は手に取った紙束をまとめて箱に入れた。やる気はもうない。
 「じゃあ、今日はこれまでだね」
 そういうと、パソコンの電源を切って手早く鞄にしまった。薄いタイプ故に重さは軽いのだろう。明は軽々と鞄を持ち上げた。
 「消灯よし、ものは片付けたね。じゃあ戸締りをして、おしまい」
 いつもの時間、いつものように、俺たちは部屋を後にして帰った。結局のところ、今日は明がやった数枚分しか作業は進まなかった。あの箱の中は厚い本しかない。ならば、一回の作業を行えば直ぐに終わるはずだ。だがここ最近は連続して時間を潰され、結局数冊分しか進んでいない。時期的に、そろそろまた図書委員が動き出す頃合だ。
 さっさと片付けて、次に備える休息が欲しいところだった。昨日今日でだいぶ時間は潰した。今日の段取りで次に依頼の作業を行うには時間が掛かるはずだ。しばらくは、静かに過ごせそうだ。
 「あら、今帰るの?」
 と、普段ならありえない声をかけられるという事が起こった。立ち止まって、何事かと振り返れば見たこともない女が一人、こちらを見ていた。俺は知らない、だが明はその女を見て挨拶していた。
 「あ、古西さんも今から帰るの?」
 そのやり取りを見て、件の『明の友達』だと理解した。なるほど、あれがそうか。俺は、無意識のうちにその女を観察していた。普段なん見も知らない人間に興味はないが、明の友達になる人間がどういう人間か、そこの部分に興味があった。
 第一印象は勝気そうな女。次に、面倒見がよさそうな女。総合的に見て明には十分見合っていると、勝手に判断した。だからどうしたという感じだ。誰が誰と親しくなろうと、人の自由だ。入らない考えは相手を疑心に追い立てることになる。
 その証拠に、しばらく見られ続けた所為で、向こうは俺に微妙な顔を向けていた。そして、何を思ったか―――――
 「あー、そうそう、ちょっと話があるのよ。いい?」
 「え?うん、いいけど・・・・」
 言いながら、俺に振り返る。ああ、そういうことか。俺は一度コニシとか言う女に目配せする。俺の考えを悟ったのか、向こうも小さく頷いた。まあコミュニケーションは必要だろう。面倒見がいいという見解も、強ち間違ってはいないようだった。
 「構わない。一緒に帰る決まりはないだろう」
 「あ、うん。ありがとう。じゃあ、また明日ね」
 「ああ」
 明は小走りでコニシの所まで行くと、最後に振り返って手を振ってきた。俺はそれを見届けると踵を返して先に帰ることにした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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