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探求同盟−死体探し編− 作者:光夜

第2回   2
 さて、困ったね。こうなってしまったのは仕方がないとしても、僕だけじゃあどうにもならないよ実際。こんな事、僕にどうしろって言うんだろう。目の前には十箱のダンボール、縦、横、奥行き、全てが五十センチの引越し用のあれ。そんな箱の中にはぎっしりと隙間なく詰め込まれたハードカバーの本や漫画の本、参考書に、雑誌に、その他色々。
 「自分たちの仕事だって言うのは判るけれど、春休み前にこれは重労働だねぇ。どうしよう」
 僕―――――桐嶋 明(キリシマ アキラ)は現在とても困った状況に陥ってしまった。必然的に仕事量は多いことだって認めはするけど、だからって休み明けにこんな光景を見たいとは思わないよ。今更遅いけれど、同好会の内容を変えてみたくなった。まあ、無理だろうけどね。
 廊下の奥、そこには『第二事務室』という昔使われていた部屋があり、現在は同好会の部室となっている。使用しているのは『書籍同好会』という聞きなれない同好会。本を読むの?と聞かれれば半分当たり、半分はずれ。この同好会の活動内容は「担任の楽を手伝う」というものである。判り憎いよね、今のは僕の感想、実際は図書委員会が定期的に大量購入する本の代わりに処分される本の記録取りが活動内容。単純作業である、紙に題名と作者と委員会で登録された番号と概要を書くだけ。この学校は必ず部活、もしくは同好会に所属しないといけない帰宅部泣かせな決まりがあって、僕も当初はそれを煩わしく思っていた。
 そんな折に担任の先生が現在の同好会を作ることを勧めてきた。紙に文字を書くだけで後は何もしなくて言いというのならいいだろう、とその時はとても浅はかな考えでオーケーしてしまった。しかし、現実は厳しかった。この同好会の活動内容の真実、それは勧めてきた担任が任されていた仕事だったというなんとも理不尽な事実だった。
 つまり、僕は先生の面倒な仕事を一挙に押し付けられたのだ。なるほどと頷ける、こんなに大量の本の確認なんて教職の合間に出来るほど簡単ではない。だったら生徒に任せてしまおう、という考えはあんまり褒められないが観点は認めるしかない。たぶん、僕も同じことを考えると思うから。
 で、そう言う訳で連休前に全て済ませたと安心していた矢先、連休明けに部屋を覗いてみれば、箱が増えているという始末。なんでも質のいい書籍が格安で手に入る時期らしく、読まれなくなった本を一掃し入れ替えるそうだ。本来は学期末や新学期にこういう入れ替えは行われる、僕も次の学期までに前の分を終わらせてとても安心していたのに・・・・、これじゃあ新学期になっても十箱の分すら終わらないじゃないか!
 「考え無し過ぎだよね、図書委員会」
 無駄口を叩いても仕方がない。また今日から紙との戦が始まる、気合を入れないといけないね。僕は帰り遅くなっても大丈夫、一人暮らしだし。そこの所はこの同好会に丁度いい人材といえる。嬉しくないけどね。
 「よーし、あとで光夜にも言っておこう。どーせ家でも暇なんだろうから手伝ってもらわないと」
 一応部屋の確認を済ませて出ようとしたとき扉ががらりと開かれた。何事かと振返ると、飛び込んでくる鋭い目。獣かと思ったが、次の瞬間には見慣れた顔だと理解した。
 「あ、光夜、おはよう」
 「ああ」
 ぶっきら棒に挨拶を済ませると、僕の足元に置かれているダンボールに目を移す。と、あからさまに嫌な顔になった。ああ、これだけで状況を理解してくれるなんてこちらとしてはとても助かったりする。
 「こいつは、先週終わらせたやつをまとめた箱か」
 でも現実を受け入れたくないので光夜は理想を口にした。理想とは届かないから理想であり、光夜はそれを知らずに口にしてしまった。
 「現実から逃げたいのは判るよ、でも自分すら騙せない嘘は返って虚しいよね。と言うわけで、新しい仕事だよ」
 これは当然の結果とばかりに、僕は光夜に新しい書類束を見せた。別に今からするわけじゃないのに光夜はわざわざ手にとってくれた。おや、もしかしてやる気があるのかな?だとしたら嬉しいなぁ、僕としても心強い。光夜は本当にやる気があるようで、鞄を置いて早速行動に移った。紙の束を片手に入り口付近へ移動してそのままゴミ箱へ―――――って!?
 「はいストーップッ!何してんの光夜っ」
 「ち、ばれたか」
 「あからさま過ぎだよ。はい、こっちに戻る」
 光夜はだるそうな足取りで戻ってくると紙束を机に放り出す。やる気なんて始めからないんだよね、やっぱり。光夜に期待という言葉は似合わない。
 「今度はいつまでかかることやら」
 「そう言わないでよ、おかげで僕らが派手なことしてもそれなりに融通が利くんだから。ポイント稼ぎだよ、ね。さ、教室に行こう、細かいことは放課後でいいからさ」
 光夜はしばし考えて頷いた。あ、逃げる計画立てたな、絶対に逃がさないんだから。ホームルーム蹴ってでも待ち伏せしてやる。
 「なんだ、寒気が・・・・」
 「どうかしたの光夜?」
 「いや、なんでもねぇ」
 納得しない顔で光夜は踵を返す。変なところで勘が鋭いからこっちも下手なことは考えられないなぁ。それよりも、本当にこの本の山をどう処理しようかな。やることは紙に文字を書くことだけで、どう考えても効率はよくなりそうにないし。その効率を浴する方法を探しているうちに、さっさと書いたほうが手っ取り早いなんて行き着いたら、それこそ本当に効率の問題外の話だよね。
 「まあ、いいか、いつも通りで」
 「おい、いい加減に教室行くぞ」
 光夜が外で痺れを切らしていた。そうだね、細かいことは昼休みや放課後でもいいや。
 「今行くよ」
 部屋の電気を消して廊下に出る。戸締りは必要ない、というかこの部屋に鍵はない。あるのは申し訳程度の金具のフックのみ。何もない部屋でよかったよ、本当に。
 始業のチャイムが校内に響く。その頃には二人ともそれぞれの教室に向かっていた。まあ、気張らない程度に行こう。どうせ僕らが卒業すれば関係ないもんね。あとは先生次第。
 さて、今日もまた退屈な授業が始まったのはいいけれど。なんで一時間目から保険なんだろう。基本的に保険の授業は男女別で行われることが多い。それはまあ、一緒に授業を受けると学生にまだまだ刺激の強い内容があったりするからである。
 とはいえ、今日は男女合同で教室に居る。ということは衛生とか、生活とか、そういう内容なのかもしれない。と、思いきやそんな事はなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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