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探求同盟−死体探し編− 作者:光夜

第16回   16
 夜十時、風呂上りにコップを片手に縁側に出た。中身は水、水以外は夜に飲まないことにしている。意味はない、習慣だった。あのあと、俺の体調は一転して好調になった。本当に、あの名前も知らない、顔も覚えていない三年を倒しただけであいつは引っ込みやがった。
 だが、その感覚が残っているか、俺の体は未だに軽い感覚を感じている最中だった。時間がたてば、今朝と同じように普段の体に戻るかもしれない。だが少し惜しい感じがした。あいつを感じるのは苛立たしいが、この体のコンディションは維持していたい。だが、これは本当にこのままで大丈夫なのだろうか。
 「なんじゃい、不景気な顔などして。何かあったのか、わが孫よ」
 「孫の心配よりも自分の心配をしろよ、爺さん。この間まで風邪引いていたくせに」
 「かっかっか、あの程度で参るわしではないわ。そんな事よりも、不景気な顔をしている割には上機嫌じゃの」
 「・・・・・いつになく、体調がいいだけだ」
 「なに、体調がいい?」
 それを聞いた爺さんは俺のことを上から下まで眺めると、こう言った。
 「去年の、今頃か少しまえじゃったか?同じように体調の良い時があったじゃろ。そのときは、確か学校に入ったばかりで、しかも何かしら事件が起きていたらしいが・・・・」
 「勘がいいと、その内死神に目を付けられるぞ」
 「やかましい、今回は何があったんじゃ。また明ちゃんに迷惑をかけておるんじゃないだろうな」
 口やかましいのは、いい加減なれた。だが、去年から某かあると明、明、とうるさいんだよ爺さん。そんなに無口で無愛想な孫より、愛嬌のある明るい孫娘が良かったのか・・・・・
 「まだ、迷惑はかけていない。これからかけるかも知れねぇが、そんな事はわからない。ただ、爺さんの言うとおり、一年前みたいな、ちょっとした事件が起きた」
 「今度はなんじゃ、誰かが不思議な怪我でもしたか?それとも―――――」
 「死体を盗まれた」
 「・・・・・・・罰当たりな」
 さすが聖職者。まずそれを言うのは当然だった。
 「死体、といっても日本には土葬できる許可は下りないから、盗まれたのは骨の入った骨壷か?」
 「その骨壷の入った桐の箱と一緒だ。墓は、本当に空っぽだと」
 「ますます罰当たりな」
 聖職者らしい言葉だが、聞き飽きた。それに、病み上がりでそんなに元気なら本堂に行ってお経でも読んでろ。
 「この間ニュースでやっていた事件だ。その墓の住人の子供が、同級生だった、それだけだ」
 「それだけで、頼まれたのか」
 「ああ」
 「お前は、よく短期だといわれるが、それは正当に怒る時間帯をお前はちゃんと把握しているが故の勘違いじゃな。お前は、誰よりも気は長い、向こうから関わってこなければ何もしない、蜂と同じじゃ。だから、言われてもいない事を、自ら進んでやろうと、時には思うじゃろうて。ほんに、優しい心の持ち主じゃよ」
 爺さんまで、それを言うのか。俺は、そこまで自分が他人に気を使っていると思ったことはない。ただ、平穏で、静かで、当たり障りのない生活を送りたいだけだ。二度と、誰かを傷つけるのは嫌なだけだ。
だって言うのに、どいつもこいつも、暇さえあれば俺に喧嘩を売って負ければ更に喧嘩を売ってくる。おかげで俺は悪者扱い、怖いもの扱い、本当にくだらねぇ。
「お前は、お前であればそれでいいんじゃよ。誰に認められる必要もないんじゃ、唯一の人間にさえ受け入れられさえすれば、人間はそれで十分に生きていける」
「なんだよ、唯一の人間っていうのは・・・・」
「ほっほっほ、人間は、身近すぎると有り難味を忘れる動物じゃてな。気づければ、それで十分じゃ。まあ、わしはお前のすることに口は出さんしお前も気兼ねなく生活せい。怪我と病気さえしなければ、それでいい。ただまあ、あまり体調が頻繁に良くなったときは、わしに話すがええ」
そういうと、笑いながら居間から出て行った。食えねぇ、一生かかってもあの爺さんだけは食えねぇし、勝てる気もしねぇ。俺の体調がいい事は不自然だと、爺さんは知っている感じだ。
霊感がないくせに、ギリギリ人間性は見抜けるところが、人間臭い。霊感もないくせに、よく寺の住職なんてやってられるよな、本当。なにが身近すぎて有り難味を忘れるだ。
忘れちゃいねぇよ。忘れられるわけもない・・・・・。まだ、一年、たったの一年しか経っていない。認めてもらいたいわけじゃねぇ、ただ、俺を救ってくれそうなやつに、人一倍の人間になってもらいたいだけだ。
今日は、もう寝る。細かいことは明日、明に任せることにした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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