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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

最終回   最終週7 続く
 「…………」
 「来たみたいだな」
 強風とも思えないがそれなりに髪を揺らす程度の風が吹いている。ローゼンは鬱陶しそうにゆれる髪を手のひらで抑えた。季節は冬、それに今は夜だ。場所が屋上となれば寒いはずだ、がそんなことを感じさせないほど二人は落ち着いている。
 「それで、そろそろ時間だが。始めていいのか」
 イリスは夜景に目を向けていたが振り返ると尋ねる。なぜ、これから自由意志での戦闘にローゼンを介するのだろうか。
 「ご自由にどうぞ、と言うよりも聞く必要は無いでしょう、あなたが始めることなのですから」
 「む………」
 至極当然のことを言われ黙ってしまった。自分でも思うのだろうなぜ『そんなこと』を訊いたのか。日付が変わるまで残り一分。イリスは自分の疑問などどうでもよいかのように屋上の縁に立つ。
 「まあいい、今回で全てを終わらせる。閉店大サービスだ」
 言って、いつのまにか両手に五つずつコアを持っている。
 「こいつは今までと少し違うぜ。一々ほかの物を媒介にする必要はない、そんなものこの間使ったので最後だからな」
 「……(ピク)」
 そこでローゼンが反応した。だが、そんなことを考えるより気にすることが耳に届いてきた。
 「本当の意味で来たようですね。やっとあなたも始められそうですよ、まったく人揃え等気にせず始めればよいのに。あなたも礼節をおもんじる心があるんですか?」
 ローゼンは感情の無い声でそう言った。
 「あ?何を言っているんだおまえ…下らないなそんなこと」
 イリスはそれ以上聞きたくないのかのように怒気をこめた。ローゼンはやれやれと肩をすくめた。遠くからは金属の階段を上る高い音が夜の空気に響いた。
 かん、かん、かん。そして彼はやってきた。全てを終わらせるための山を登り全てを終わらせるための地へたどり着いた。時間はちょうど日付が変わったところだ。
 「イリス………」
 視界にはローゼンも捕らえた。此処に居ることに予想はついていた、だが今視界にはイリスしかいない。
 「ははは、やっと来た。じゃあ―――――――――始めよう」
 そう言って街中に持っていた全てのコアを投げ放った。飛ぶように闇へ消えてゆく十の水晶は完全にアトランダムに飛び散った。だが一つだけ先ほど来た通り道へ行くものが見える。
 「!」
 息を呑んでその光景を見る。
 「安心しろあれはルール説明用だ、お前には俺から教えてやるよ」
 「ルール……」
 「ああ、タイラントのことも聞きたいだろうからなまずはそれからだ。あいつは後からくる、その前に余興を楽しもうじゃないか。簡単だ、十個壊せたらタイラントを呼んでやる。それだけだ」
 言って、心底楽しそうに笑った。
 「なら、俺が此処にきても意味はなさそうだな」
 シンはばら撒かれたコアを壊そうと来た道を戻ろうと踵を返した、が。
 「そう言うなよ、少し話そうじゃないか。あいつも何か言いたそうだしな」
 くい、とローゼンを顎で指す。
 「そうですね、言いたいことはあります。今まで言えなかったことやこれから知っていただくこと、沢山です」
 ローゼンの声には感情が無くただあるがままを口にしているように聞こえた。それがシンには甚く不快に感じた。何だか機械と向かい合っているような、感情など要らない会話が頭に連想された。
 「断る、俺はお前たちを倒せさえすればいい。それ以外の情報や他の物なんかいらない」
 言って、二人と目を合わせることなく階段に足を掛けようとして―――――――
 「俺とローゼンが兄弟でも、か?」
 耳に聞き捨てなら無い言葉が聞こえてきた。ぴたりと足を止めると今度こそシンはローゼンと目を合わせた。だが、彼の目はいまだ機械のままだった。
 「で、とどのつまり」
 孝太は呆れた風なそれでいて強張った声で言った。後ろには唯と葵が控えている。三人の目の前には先ほど空から降ってきた一つのコアだった。瞬間的に目の前で膨張したと思ったら次の瞬間には人の形と成っていた。最初孝太はすぐさま斬りかかろうとしたのだがどうも相手の様子がおかしく斬る瞬間に違和感を覚えて立ちすくんでしまったのだが予想は核心となった。見ればコアは人形と成ったもののその体格は人間でいう栄養失調状態の痩せこけた者のようだ。押せばその場で絶命しそうなほど危ういものだった。十の内この一つは孝太にメッセージを伝えるために用意されたものだった。
 『……街に…じゅ、十個の―――――生命体が……………居る――――――――倒し、たら……来い』
 栄養失調とはこう言う事だ。今にも死にそうなコアは本当に危うい声で覚束ないルールを説明した。
 「街に十個って、こいつも含めてか?だとすると後九個だろう。こいつ放って置いても死にそうだし」
 孝太は二人を先に行かせ目の前の動かなくなったニンギョウを無視して歩き出す。「…………………………………………………………………………………ギ、ギ!」 
 だが、孝太が過ぎた瞬間ニンギョウは小刻みに震え声を発した。そして腕を刃物のように変え腕を後ろへなぎ払う。ニンギョウとは名ばかりにこいつもやはりHVDだ。孝太の背中に鋭い刃が一閃を引く。
 ざくり、胴と脚を分裂し孝太を斬ったと思った瞬間。まるで、デジャヴュの様にそれは自分に起こった。視界は白く体は砂のように崩れ夜風に流れていった。
 「悪い、危険が無いとは言えやっぱコアはコアだな、いやHVDだっけか?俺が囮で良かった」
 孝太は一応念を入れて自分が盾になる位置を用意し二人を行かせた。結果、ニンギョウは攻撃用のHVDだった。ニンギョウに変わりなくとも間違えばこの場でゲームオーバーだったのだ。
 「さて、あと九個。残り九匹だな」
 このままシンのところまで行きたかったがルールが解った以上このまま二人と同行するのはまずいな。
 「よし、葵は斑鳩の所へ行け、唯も一緒にな」
 孝太はそう言って別の道を歩こうと切り返す。
 「待ってよ、私も行く」
 唯もついて行こうと孝太の後を追うが立ち止まった孝太は振り返った。
 「駄目だ、お前も行け」
 孝太は拒否を伝える。
 「何でよ、孝太一人じゃ心配だよ」
 「あのなあ、俺だってお前が心配だよ。でもな今の俺じゃあ自分ひとりを守るのが精一杯なんだ」
 そう言って左のギプスに視線を落とす。
 「あ………」
 孝太が言ったと同時に唯も声を詰まらせた、あれは自分を守った為にできた代償だこれ以上孝太に迷惑を掛けられない、と瞬間的に理解した。
 「……解った、待ってる」
 そう言って葵の元へもどうとする唯を見て孝太は溜息をはいた。
 「あのなあ、言っておくが迷惑なんて思ってねえぞ。ちゃんと戻ってくるから大人しくしていろよ」
 孝太は言った後すぐに振り返り歩き出す。
 「あ――――――――、うん待ってる!」
 唯も頷いた。
 長い夜の幕開けは孝太の上げられた片腕が始まりを告げた。







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Novel Editor by BS CGI Rental
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