とりあえずメンバーは、ステージのある外に出た。ステージを目の前にして考えることは一つ、どうやって運ぼうか。 「でかいな、意外と・・・」 「そうだな」 シンと孝太は互いを見て溜め息を出す。 「まあ、そう言わずさっさと運びましょう、そうすればあとは楽なのでしょう?」 確かに必要なのはステージのみ、後はその上でチャンバラをするだけなのだから。 「そうそう、ローゼン君の言う通りだよ、早く運んじゃおシン君」 「そうだな」 シンがステージの端を持とうとすると孝太が呼び止めた。 「まて斑鳩」 「どうした孝太?」 持ち上げ様と曲げた体を起すシン。 「いや、どうしたじゃなくて何で青山と進藤まで居るんだよ」 孝太は腕を組んだ姿勢で隣に控えている銀と薫を見た。そうなのだ、何故かこの二人はいつの間にかここに居たのだった。 「気にしないでもいいよ藤原君、こっちの方が楽そうだったから」 「そうそう、それに力仕事はあたし達の方が向いてるし」 「いや、そうじゃなくて―――――」 何か言おうとした孝太の横から唯が割り込む。 「わあ、ありがとう二人とも、これで作業もすぐ終わるよ」 心底ありがたそうな顔で唯はぺこりとお辞儀をした、どういたしまして、と二人もそれに答えた。 「・・・・・まあ、仕方ねえか」 孝太は言う事を止めて頭を掻いた。 「それじゃあ運ぼう」 葵の開始の声と共に皆はステージの下に均等に並ぶ、淵に手をかけて力を入れる。 「せーっの!」 掛け声と共にステージが持ち上がった。そのまま息を合わせて目的の場所まで運ぶ、校門から昇降口までは一直線に道を作ってその横に出店が並ぶ予定なので必然的にステージは昇降口の横に配備される。 「よし、ここなら人も集まるだろう」 一仕事終えた孝太はそのままよっとステージに上がる。 「なるほどな、この広さなら二対二でやってもまだあまるな」 感心した顔でステージの上を歩く、後からトンと音がした、振り返るとシンも上ってきていた。 「確かに、チャンバラ程度なら出来そうな広さだ、まあ実際の先頭はこう狭いと不利だが」 まあなと孝太も賛同する。 「孝太ー、あたしも上りたいよー」 下から呼ぶ声がして孝太が覗くと、ピョンピョンと飛び跳ねて上りたい事をアピールしている唯が手を伸ばしている。 「ああ、階段が無いからな、ほれ」 そう言って手を差し伸べる孝太、それに離されんと強く握る。 「いくぞ」 そう言って孝太は唯を引き上げる、が少し勢いが強かったか上った瞬間唯のバランスが崩れてステージに倒れそうになる。 「きゃっ!」 「おっと、悪い、すこし勢いがかかっちまった」 それを庇って、受け止めた孝太。 「あ、ありがとう孝太・・・」 「早いとこ階段も用意しないとな」 下を見ながら孝太は言った。 「葵も上がるか?」 二人の様子を見てシンも下にいる葵に声を掛けた。 「うん、上がってみたいかな」 「判った、じゃあ掴まってくれ」 そう言って葵に手を差し伸べる、その手に掴まったことを確認してシンは引っ張り上げた。 「よいしょ、あっ!」 と、同じように今度は葵が足元の金具につまずき転びそうになるが、目の前にシンが立っているので自然とそこに飛び込む形になった。 「大丈夫か葵」 「う、うん、ちょっとビックリしちゃった、ありがとうシン君」 体を離し葵は周りを見る。 「結構高いねここ」 「そうだな、チャンバラの時には落ちないように注意しないと」 「でもよ、階段はどうするんだ?無い所を見るとつくるのか?」 孝太はステージの端を指差していった、するとそこから声が。 「そうでもないようですね、この下に階段が入ってますよ」 ローゼンの声がステージの下から聞こえて来た、四人はそろって下を見ると階段を出しているローゼンの姿が目に入った。 「あ、ホントだ階段あったね」 唯がそう言うと孝太が横からうんざりした声で言う。 「何だよ、あれだけ重かったのはこの階段の所為かよ、出して運べばもっと軽かったのに」 損したとばかりにがっくりと肩を落とす。 「まあまあ、すんじゃったことは気にしない気にしない、それよりも銀君と薫ちゃんは?」 キョロキョロと下を見るが先ほどまで居た銀と薫の姿が何処にも無い、するとローゼンが体を起して四人を見上げた。 「ああ、彼等でしたら『ここの仕事は終わったから、教室に戻る』と言って先ほど戻られましたけど」 「結局力仕事しに来ただけか、まあそれはありがたいが」 別段気にするでもなく孝太は立ち上がる。 「んじゃ、階段を用意するか、降りるぞ」 その声と同時に三人も立ち上がった。 「でも、どうやって降りるの?――――え?」 降り方を口にした唯の体がふわっと持ち上げられた、孝太が抱えたのだ。 所謂『お姫様抱っこ』というやつである。 「こうすればすぐに降りられるぞ」 「え、だ、大丈夫だよ、一人で降りられるよ孝太!」 「何言ってんだよ、降りたときにスカートがめくれるだろうが」 「うう・・・」 そういわれると反論の余地が無いのか唯は黙ってしまった。 「先に行くぞ孝太」 隣では既に葵を抱きかかえているシンがいた、おうと返事をするとシンは軽い身のこなしでステージから降りた。 すたっと、音も無く着地、多分抱えられている葵も着地には気づいていないだろう。 「怖くなかったか葵」 「大丈夫、どっちかというともう少しこのままがいいかな」 あははと楽しそうに笑う、それに答えるためにシンも笑いそのまま葵を抱えたままでいる事にした。 「よし、俺たちも降りるぞ」 「う、うん・・・・」 覚悟を決めた唯、だがやはり怖いのだろうか孝太の首に手を回している。 それを見た孝太はなるべくゆっくりとステージからジャンプした。 シンのように音も無くという着地では無かったが落下感も無かった。 「あ、あれ?もう降りたの・・・?」 「まあな、どうだった」 「どうって、飛び降りた感じがしなかったけど・・・」 それを聞くと孝太はへへと愉快そうに笑う、それもそのはず、唯が怖がって目を瞑っている間に孝太は、ステージに越し掛けそのまま降りたのだから。少しでも唯の恐怖感を減らすための孝太なりの配慮だった。 「と、そろそろ首の手外してくれないか、締め付けられて結構痛いんだがお姫様」 あえて最後の言葉を強調して孝太は唯に言った。 「あ、ごめん孝太、痛かった?」 慌てて首から手を離す、痛いと言っている相手に痛くないかと聞くのは心配の表れだろう、唯は眉をハの字にして孝太を見上げる。 「冗談だ、痛くない」 断言する孝太、それを聞いた唯の表情は見る見るうちに不機嫌のそれになっていく。 「むっ、何よ孝太、結構心配したのに冗談って、薄情者!」 むきーっとばたばたと暴れる唯、終いには。 「もう知らない、孝太なんかキライ」 とそっぽを向かれてしまった。 「悪い悪い、そう機嫌悪くなるなよ唯、もうふざけねえからさ」 「本当?孝太いつもそう言ってるじゃない」 「本当だ本当、俺を信じろ、な?」 「・・・・」 唯は不機嫌な顔のままご機嫌取り用の笑顔をした孝太をじっと見る。 「・・・・もうしないなら許す」 「さんきゅ」 そう言って孝太はいつもの笑顔に戻った。唯の不機嫌もなくなっている。 と、後から声が聞こえて来た。 「どうでも、いいですけど、はやく、手伝ってください〜」 振り返ると階段を持とうと力を入れているローゼンが居た。 「「「「あ、忘れてた、ごめん」」」」 「そんな〜」 がっくりと肩を落とすローゼン、だが顔はいつものように笑顔なので表情は読み取れない。 「それじゃあ階段を取り付けようか」 そう言ってローゼンの持とうとしていた階段に手を掛ける。 「そうだね、早く終わらせて教室に戻らないと」 そう言って葵も加わる。 「よし、んじゃやるか、いくぞ唯」 「おっけー、張り切っていってみよー」 結局なんだかんだ言いながらも結構息の合っている五人だった。
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