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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第48回   最終週5
 「……………」
 「ははは…………」
 ローゼンが言うには日付が変わると同時に彼は動くと言った。なのでそれまでに大まかな戦闘のプログラムは立てて起きたかったのだが、そうもいかないらしい。先ほどから畳に座っているのはシンと葵だけで二人はと言うと――――――――
 「へえ、中はこうなっていたのか。初めて見たぜお前の家の中」
 「向こうが居間で、こっちが和室、反対が台所。二階もあるんだよね」
 二人して中の間取りを観察していた。先ほどから三十分も掛かっている。何がそんなに珍しいのか襖をあけまくっている。いいかげん話のひとつでもしなければ埒があかない。
 「探索は後でもできるから、とりあえず座ってくれ二人とも」
 シンは手招くように二人を呼んだ。
 「お、わりいわりい。で、何を話すんだっけ」
 孝太はすぐさま座ったのだが唯はいまだに部屋のあちこちを見渡している。正直目障りだ。
 「唯、落ち着いて。また来た時に観察すればいいでしょう」
 それを葵が抑える。さて、これで話が進みそうだ。
 「うん、最初に言って置くがどう考えてもあの異常な連中に作戦なんか立てても通じるわけがない、と思う」
 いつになく消極的なシンの物言いに三人とも目を疑った。まあ仕方ないだろう、相手が相手なのだそういう言葉も出るだろう。
 「ああそうだな、斑鳩の言いたいこともわかる。俺だってあんなやつ論理で止められるなんて思っていないさ」
 そうだろうな、とまたも消極的な返事。
 「詰まるところ、いつも通りでいいんだな斑鳩?敵が出たらさっさと片付ける」
 孝太の賛同はうれしいがそれでは駄目だとシンは頭を抱える。
 「今までなら、そういうことも大方目を瞑ってきた。でも今は孝太が怪我をしているんだ。そんないいかげんな戦いは避けるべきだ」
 あ、そうか、と唯が孝太のギプスに目をやった。孝太自身それを気にしていたかどうか疑わしいが多分そんなことも気にせず敵に突っ込んでいくだろうとその場の誰もが思った。
 「ああ、そういやそうだな。無視して戦にいくところだったぜ」
 などと楽しそうに言って捨てた。やはりそうか、とシンは肩を落とす。
 「孝太、頼むから心配だけはさせないでくれ。俺一人で始めたことを孝太は一緒に解決してくれようと思ってくれるのは嬉しいけれど、元を正せば孝太がそれをする理由はないんだから怪我を忘れてまで危ないことだけはするな」
 シンも言い聞かせるように、そして自分の過ちを追及するように言い聞かせた。が
 「何をいまさら、そりゃあ斑鳩が始めた事かもしれない、というよりそうだ。でも俺が手を貸す理由はあるぞ」
 待ったのポーズでそう言う孝太、首をかしげるよりも片眉を上げるほうが先になったシンは聞き返した。
 「理由って、何かあったか。少なくとも孝太が俺のために怪我をする理由は―――――」
 「あーあー、そこが間違いだ。今更ながら勘違いも甚だしいぞ」
 孝太はだめだなあ、みたいなポーズで言った。シンはちょっと頭に来た。いったいいつから他人の抜けたところを指摘する話になったのか。
 「じゃあ、なんだよ」
 シンは少し声のトーンを落として聞いた。
 「はあ、あのなあ斑鳩。俺だってタダで命をかけるほどお人好しじゃあないぞ、命の危険をかけるためにはそれ相応の理由があるに決まっている」
 「だから、なんだよ」
 孝太は、自分で言うのが恥ずかしいのか少し目をそらしたあと口を開いた。
 「……まあ、簡潔に言えばお前に惚れたとでも言うのかな」
 そう口にした瞬間、三人の動きが止まった。孝太は一層シンと目を合わせないように壁を睨んだ。と、そんな孝太の隣から。
 「こ、孝太、まさかそっちのシュミが……私がいるのに……」
 なにやら唯が誤解を招くようなことを言ってきた。見れば葵もこわばった顔で孝太を見ている。
 「ああ、いや、孝太。気持ちは嬉しいが俺には葵が……」
 と、シンまで間に受けて孝太から目をそらす。
 「!―――――な、なわけあるかああああああああーーーー!………」
 キーンと近所迷惑な大声が部屋に響いた。孝太は肩で息をしている。そんなに疲れたのか?
 「こ、孝太、解っているって。そのぐらい俺も弁えているから」
 「はあ――――、はあ、ああ、そうだろうな」
 「だからさ、ちゃんと言ってくれ。そうだな、できれば誤解が招かない言い回しで」
 「ったく……まあ、なんと言うかな最初会ったときはさ、食いつきにくいやつだな程度にか見ていなかったんだ実際。斑鳩を追いかけてさあんな奴と戦っているのを目の当たりにしたらさらに近づきたくない、なんて思うだろうな普通」
 「………」
 「でもさ、よく考えたら違ってたんだ。避けるんじゃなくて余計気になったんだろうな。で、最終的に出た答えがさ」
 孝太は懐かしむような笑顔でシンを見て。
 「こいつ苦労しているな」
 と、言った。
 「何だよそれ、同情か何かか?」
 「かもな、でもそうゆう風にしか言えないんだよ。だってそうだろ、普通の人間には考え付かないような出来事を一人で背負ってんだから。正直そう言うのは嫌いだ。だから斑鳩と戦った。そうでもしなけりゃ気がすまなかったさ、負けたけど」
 そんなこともあったとシンは懐かしがった。が、今は孝太の話が重要だ。
 「それで、負けてみたらまた解った。「こいつ強いな」て具合に。その時はもう知らない仲じゃなかったんだ、それにお前一人にすべてを背負わせて良いのか、お前は強いけれど危ういところが多々あるんだから誰かがサポートするべきだって無い頭で考えたんだろうな」
 「まさか、それが理由か」
 だとすると理由でもないとシンは言いそうになった。だってそうだ。今の話の中に重要性があるとは思えないからだ。
 「まさか、今のはこれまでの俺の考えだよ。言いたいことは一つだ、それを踏まえて長い話を聞かせたな」
 「孝太……?」
 「つまりはさ、お前は友達で、親友で、仲間だろう。それで十分だ」
 今度は目を逸らさず、真っ直ぐシンの目を見つめて言った。嘘偽りは微塵も感じられないことは誰にだってわかる。友達で、親友で、仲間。これだけ理由が揃っていて否定の言葉など何が通すだろう。否、それは不可。
 「く―――――」
 シンは何かを堪えるように喉を鳴らしたあと。
 「クク―――ははは、あははははははは!」
 手のひらで目を覆いかぶして天井を見て笑った。
 「シン、君?」
 葵も今の何が楽しくて、何が可笑しかったのか理解できず笑うシンを見ていた。
 「ははは――――いや、悪い孝太。笑うことじゃあなかったな」
 「まったくだ、無い知恵絞って言った言葉だったのにな」
 「……そうか、なら俺は何も言えないな。もう理由も言葉も十分すぎて何も言えないよ」
 「ん、なんかおかしくないかそれ?」
 「そうか、でもそう言ったのだから変えられないさ。うん、孝太が命を掛ける理由は十分わかった。これからも頼むよ」
 信頼の目を向ける。任された、と胸をはった孝太。
 「なら作戦は簡単だ。孝太は散らばると思うHVDの退治を任すよ。その間イリスとタイラントは俺が引き受ける」
 「ああ、それは正直ありがたいさ。俺が片手でかなう相手じゃないし。ましてや逆利きなら尚のことだ」
 「そう言うことだ、じゃあ会議もこれまで。食事にしようか」
 と、これまで黙っていた二人が手をあげる。
 「じゃあ戦うことは二人に任せて」
 「夕飯は私たちで作るからね」
 そう言って台所へと歩き出した。
 「任されよう」
 孝太はさも当然のように立ち上がるとシンに振り返った。
 「何してんだよ、行こうぜ」
 そう言って招く真似をした。
 「……」
 やれやれと笑いを堪えて立ち上がる。
 「そうだな、行こうか」
 それだけで足りる会話だった。
 この日、斑鳩の家の台所はいつになく異常だった。かつてこれほどまで賑わいたことがあっただろうか。
 「唯、コショウとって」
 「はい、葵」
 料理に専念する二人。唯が料理を作れると言うのは孝太も初耳だが、ともかく二人は料理に一生懸命だ。
 「あ、火を止めて少し蒸さないと」
 「唯、弱火にしないと焦げちゃうよ」
 兎にも角にも、調理場では嬉々とした声が聞こえてくる。それを音楽に男二人は何を思うのだろう。
 「……う〜ん、なんて言っただろう。こういうの」
 孝太は隣でお茶を飲むシンに聞かせるように言った。
 「何がだ、結構楽しいけれどこういうのはさ」
 「まあ、そうだが……」
 「ずず〜」
 お茶を飲むシン、これから戦う者のようには絶対見えないだろうな。と孝太は思い出したように眉を上げる。
 「あ、そうか。兄弟夫婦だこの状況」
 「ぶっ――――――!?」
 孝太の突然の発言に含んだお茶が飛び出そうになったのを堪えるシン。
 「い、行き成り何を孝太」
 少し口元からこぼれたお茶を吹き怒ったように言った。
 「あ、すまん。いやなに、そう言う状況と似ているなっと思ってつい」
 「ついって、俺たちは兄弟じゃないぞ」
 「まあ、そうだな」
 なんか、いやな沈黙が流れる。少し離れたところからは二人の楽しそうな声が聞こえるのでかなり空しい状況だ。かといって要らぬ事を言えば火照った顔がさらに赤くなるかもしれない。しばし硬直状態が続くようだ。
 「二人ともできた―――よ?」
 この沈黙の助け舟を出してくれた唯が二人を見て沈黙した。
 「何してんの?」
 そこには黙りきっているようで目で会話らしきことをしているシンと孝太が居た。
 「あ、いや。別に」
 シンは罰が悪そうに唯と顔をあわせる。
 「?ま、いっか。それよりご飯だよ運ぶの手伝って」
 ああ、と頷いて孝太が立ち上がる。送れてシンも立ちあがる。料理を作ってもらったのだから運ぶ事ぐらいは皆でやらねばと。御託は兎も角とりあえず出てくる料理を運ぶ四人、テーブルには無節操に和洋中と豪華何だかアンバランスなんだか分からない彩りが目に飛び込む。それとは裏腹に料理の味は上出来だった。まあ葵が居るんだから味が落ちるわけが無いことぐらいシンがよく知っている。最後の晩餐にならぬように四人は食事と会話に花を咲かせること一時間。
 時間は刻一刻と迫っていた。
 夜十時、残り二時間である。
 「う〜ん」
 と、ここまで普通に会話をしていたのだが孝太が唸ったのがきっかけだった。とりあえず三人は孝太を覗う。
 「うん、う〜ん……ん?」
 腕を組んで頭を抱える。やはり唸っていることには変わりが無く仕方なく覗うだけだった三人も黙って孝太を見ているしかない。
 「うう〜――――お!?うん?う〜」
 何か妙案を思いついたのかと見ればすぐに唸るポーズへ逆戻り、いい加減見ているのも飽きてくるころだった。
 「………」
 シンは同じくして黙っている二人へ目をやると
 「どうしたのか聞いて」
 と目配せする。
 「俺が?」
 と自分を指指す、まあ自分でも聞こうと思っていたのだから頷くしかない。さて聞こうかと口をあけると―――――
 「孝太、どうしたんだ?」
 「なあ、斑鳩良いか?」
 喋ったのは同時だった。また沈黙。何か場が居た堪れない雰囲気をかもし出すがそうも思っていられない。とりあえず話をしようとシンが一呼吸した。
 「で、一体どうしたんだ?いきなり黙ったと思ったら唸りだして」
 傍から見ていて変だぞとは言わないまでもおかしいぞ程度のニュアンスを向ける。
 「そーそー、ものすごく変だったよ孝太、なに悩んでんのよ」
 と、横から唯が代弁するように見たままを口にした。唯は孝太に対して遠慮が無いということは以前から認識していたのだが此度サイド確認してシンは死んだ笑いを漏らした。
 「まあ、悩んじゃあ居ないんだがな。ほら、俺と斑鳩はこれから戦に行くわけだ」
 な、とシンに目を向ける。
 「戦って、似たようなものだけど人数が少ないような」
 う〜ん、と今度はシンが悩みそうな状況になる。そうなる前に孝太が話の続きをはじめた。
 「いやそれは置いておこう。ともかく戦闘に行くにあたって標的はタイラントだよな」
 「まあ、そうだな」
 「で、どこに居るんだ?」
 孝太は敵であるタイラントの場所を聞いてきた。何を行き成りとばかりにシンは頭を振った、そして孝太に言ってやろうとして動きが止まる。
 「何処だって…………何処だ」
 また沈黙、いい加減飽き飽きしてきた。
 「な、何処だよタイラントの居場所って。知っていそうなヤツは不在だし」
 今度は二人して唸り始める。
 「はあ〜……」
 「はあ〜……」
 と、対照的に呆れたため息が二つ。隣から聞こえてきた。はい?と唸っていた男二人がそちらを向く。なにやら本当に呆れた唯と葵が肩を落としている。男としてこれはいかんと孝太が何だと聞いた。
 「何って、孝太こそ大丈夫なの」
 さらに呆れたような口ぶり。というより何だか哀れまれているような感じだ。
 「む、聞き捨てなら無いな。どういうことだよ」
 孝太は今の言葉が癇に障ったのか少々不機嫌な声で聞き返した。
 「だって、可笑しい事は可笑しいんだもん」
 唯は話をすすめる気が無いのか孝太を挑発した。
 「だから!何が!」
 まずい、まさに立ち上がらんとするような勢いで孝太が怒鳴った。
 「はて、何時からこうなったのかな」
 シンはすでに我関せずだったがとりあえず葵に聞いた。
 「それで葵、溜息の理由は何だったんだ?」
 「あ、うん。だって、敵の場所ってシン君判るんじゃないの?それで」
 と、部屋の後ろに置いてある「榊」を指差した。
 「………………………………あ」
 かなりの沈黙の後出た言葉はそれだけだった。何を今まで忘れていたのか。最も足ることを頭からはずして悩むとはシン自身緊張しているのだろう。まあ、緊張していることも失うほど今この時間が惜しいのかもしれないと、知らず笑った。
 「いや、いいか」
 何がいいのか、とりあえず孝太と唯の痴話げんかを楽しむとした。



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