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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第47回   最終週4
 今日も学校を早々に切り上げた私はイリスに会うために街を歩いていました、そうですね、彼に会って分かれたのはつい先ほどですから二時間ほど前でしょうか。どの道時間も無いので挑発しに行ったんです。















 「イリス、いるのでしょう、出てきなさい」
 午後の授業から有無を言わさず抜け出し、思案することなくこの公園へとローゼンはたどり着いた。いや、わかっていながら街をさ迷ったのは彼への挑発か何かか、ついたと同時に名前を口にする当たりそうなのかも知れないと言う考えが浮かぶ。だが、答えは出ないうちに彼が現れた。
 「……」
 が、彼は無言だった。それに何か殺気立ったものを感じるのは勘違いではあるまい。
 「どうしました、ずいぶん顔がこわばっていますよ」
 そんなイリスの気持ちなどとうにお見通しかローゼンは白々しく言った。
 「ふん、まあいいさ。それよりも何か用か、お前に呼び出されるなんて初めてだぞ」
 イリスはローゼンに呼び出されていたようだ、彼が殺気立っているのは呼び出された挙句いつまでもこないローゼンに怒っていたようだ。
 「そうですか?以前にも呼び出した記憶がありそうですけど」
 まあいいです、と流すようにローゼンは考えをやめた。彼にとって必要なのは会話であって思い出ではないのだ。
 「で、何のようだ、世間話をしにきたわけでもないだろう」
 呆れたように言うと怒るのをやめたようだ、ローゼンに食って掛かるのは孝太かもっと気持ち的に穏やかに生きているものでないと駄目らしい。
 閑話休題、本題はなぜローゼンがイリスを呼び出したかである。
 「そうですね、私もこれと言って話があるわけでもありませんけれど……強いて言うならば催促、でしょうか」
 催促?イリスは何が言いたいのかよく解らない顔をした。それを見たローゼンはそれこそおかしいと言うような顔だ。
 「何を驚いているのです?催促ですよ、あなた意味はわかっていますか」
 ローゼンはいつになく挑発的だ、イリスも意味などかまわず殴りかかりたいくらいに。
 「解らないな、どういうことだ」
 イリスは奥歯をかんで聞いた、ローゼンはそれはため息が出るかのような表情で最後に
 「莫迦ですか」
 なんて言った。
 「おまえ、殺すぞ」
 イリスももう完全に戦闘意欲と言うものを大きくしている、無意識に目の前の無法者を切り裂く気分となった。
 「待ちなさい、意味を教えますから。まったく、此処最近あなたは丸くなりすぎています。いいですか、あなたの目的は何ですか」
 「は?言うまでもない、現状を維持しているようで且つ物の支配だ。つまり俺の世界を作ることだ」
 「でしょうね、なら聞きますけれどあなたにとって邪魔者は誰ですか?」
 「これはまた、お前とその仲間だろうが、特に何だイカルガとか言うやつだな」
 「はあ、ですからなぜ手をこまねているのですかと言うことです」
 は?と今度こそ訳がわからずイリスは殺気すら消してしまった。本当にローゼンの言いたいことが解らないのだ。暗号解読に匹敵するほど遠まわしな会話はいつになったら終わるのだろうか。
 「あなたは怪我もしていないし、タイラントだって戦闘をしたがっている。それに最近では予備のダイムもあるのでしょう」
 「あ、ああそうだな。動くには万全の準備が整っている。それが」
 「はあ、情けない。だったら何で仕掛けてこないのですか、あなたはいつまで私たちの生活を今のままにする気ですか、今日だって昼間から攻撃すれば一人か二人くらいの犠牲は出たと思いますよ」
 「は―――――――――――」
 言って、イリスはようやくローゼンの言いたいことに気づいた。そうだ、自分は準備がそろっていると言うのになぜ彼らを手ぬるく遊びのようなことで攻撃していたのだろうか。現に今だって攻撃を開始すれば彼らが不利になりえるかもしれないのに、つまり攻撃をするならば今がチャンス。ローゼンはそう言いたいのだ。
 それは解った。けれどおかしい事が残る。
 「解せん、お前はあいつらの仲間なのだろう?なんで俺に攻撃の催促をしなければならないんだ、いや第一お前はあいつらの仲間なのか」
 「仲間、そうですね心のうちではそう思っています。ですがそれは協力していると言うことが前提でなければなりません、今でこそ協力していますが目的を果たせれば私はすぐにでも消えます。彼らが引きとめたときはその時考えますけど」
 混じり気の無い笑顔、それは異分子を突き放す最後の言葉だった。
 「――――つまり、俺は消えろと」
 「当たり前です」
 「…………」
 イリスの顔が引きつる、余りにも自分勝手すぎる答えに。
 「そうかよ、お前はそうやって他人を簡単に裏切って俺にけしかけて正当防衛を謀ろうって事かよ!自分に責任は無いってことか」
 イリスの怒号、それすらも金髪の彼は息を吐いて流す。
 「ですから何度言えば解りますか?彼らとは今でこそ協力してますけれど結局のところ志が消えればなんでもない人たちです。それに正当防衛といいますけれどそれは人間が人間に対して使う言葉でしょう。あなたは人間ではない」
 きっぱりとそして呆れたように言うローゼン。イリスはうつむき黙ったまま沈黙する。そうして口元が緩む。
 「よく、解った………創めよう」
 静かに固めた言葉を口にする。
 「はあ、何をですか」
 尋ねるローゼンを無視してイリスの指がなる。
 「ギャアアアーーーー!」
 それを合図に一体のHVDが飛び出し、間髪入れずローゼンに襲い掛かった。
 「結局、初めからそうしていれば良いものを」
 かちり、と何かが聞こえた次の瞬間。
 どん、と重くそして鋭い音が鳴る。そしてHVDは襲いかかろうとする格好で一瞬動きを止めた、もう動く事はないゆっくりと足先から砂のように散っているのだから。
 「…………」
 信じられないと言う顔でけしかけたイリス本人からそんな声がでた。それもそうだ、今までローゼンがこれほど早く自分の人形を殺した記憶は無い、ふざけているとしか思えない速さだった。だというのにローゼンは当たり前のように言う。
 「不思議ではありません、単に出し惜しみしていただけですからね」
 ローゼンはまるで当たり前のように銀色の刃をもっていた。
 刃、それは近距離の刃ではない、遠距離を得意とするローゼンが使用する唯一の相棒。敵が倒れたためか、今その銃口はイリスに向いていた。
 「前のと同じようにしか見えないな、それは」
 向けられた銃に臆することなくイリスは感想を口にした。
 「ええそうですよ、以前まで使っていたものと同じです。変わったと言えば弾丸程度でしょう、そう簡単に十年近く使っていたこれを簡単に変えるほど非常ではありません。これであなた方を捕らえるには十分すぎる材料が揃いました」
 まるで、別人とイリスは思った。今のローゼンはとても好戦的で今まで見てきたのとは違っている。口だけの仮面を取ったような獣じみたその顔――――違う、そんな難しくない事だ、あれは玩具に興味の無くなった子供と同じなのだから。
 「で、ここで俺は死ぬのか」
 以前として銃を下ろさないローゼンを見据えて言う、確かに引き金一つで確実にイリスは消せるだろう。けれど、これは失礼とばかりにローゼンは銃を懐へしまいこんでしまった。またイリスに疑問が浮かぶ、ローゼンは何がしたいのか。
 「まさか、確かに此処であなたを葬るのは何よりの確実。潔癖症な人は有無を言わさず殺しますよ。HVDを消すのが私の仕事です、けれどあなたを消すのは彼らの仕事です」
 「なら、お前は全てあいつらに任せて傍観すると言うのか?」
 「それもまずいでしょう、一応エージェントとして最後まで戦いますよ、手を抜いて」
 「………」
 これ以上聞いていられない、これ以上聞けば自分が抑えられなくなる。いや、飛び掛るまでは許される。だがそうしたとたん胸元にしまわれた銀色で自分は消えてしまうかもしれない。なら今は奥歯を噛んでぐっと堪える事にしないと。
 「そうか、じゃあ俺は行くぞ」
 「ええ、私も最後の報告に向かわなければなりません、彼らに」
 風が吹いた、気づけば二人は公園から消え去り砂のみが舞っている。
 「で、今現在の報告に至る、と」
 「はい」
 笑顔の返事、だが素直に受け入れられない自分がいる。当然だ、彼は誤魔化すことなく全てを話したのだから、内容から考えればローゼンは自分たちとは仕方なく仲間で居てくれて終わればはいさようならと言う事、しかも自分は手を抜いて戦うなどと聞かされた日にはもうまともに返事も出来ない。
 「はい、じゃない!あのなあ今の話が本当だったら俺はお前を殴るぞ、どう考えたってお前コバンザメみたいなこと言っているじゃねえかよ!」
 怒鳴り声で孝太は立ち上がる。やっと納まった怒り、それを今度は仮初の友情と言うカタチでぶり返した。
 「はあ、それは困りますね」
 思いっきり孝太の怒りを流す方向で笑った。孝太の米神が震える。
 「いい加減に………!」
 孝太が殴りかかろうと拳を上げる、と後ろからそれをとめる声。
 「待ってよ孝太!」
 唯、だった。
 「何だよ、こいつを庇うのかよ唯!」
 「だから、少し落ち着きなさいって言ってるの!」
 ぱかん、と唯は持っていた定規で孝太を叩いた。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 しかも面ではなく側面で、その場にうずくまって頭を押さえる。
 「何すんだよ!」
 混じりに涙をためて唯に迫った。
 「だから落ち着くの孝太は、ローゼン君がいつ私たちを裏切るって言ったのよ」
 「決まってんだろうが、今の話は遠まわしにそうだって言ってんだよ!」
 「だから、違うでしょ!彼は挑発しに行っただけでそれが本当だなんて一言も言っていないの!」
 「だから!……………はい?」
 孝太が間の抜けた声を出した、目の前には怒っている唯がいる。
 「え、あ〜……………………………あ、そうか」
 なんて、今頃素っ頓狂な顔をしながら理解したようだ。
 つまり孝太を除く三人が呆けた顔をしていたのは、ある事無い事をペラペラ喋ったローゼンに対しての呆れと言うか関心だったらしい。
 「私はあなた方を裏切る事はしませんよ、裏切るつもりでしたら文化祭の手伝いなんかしませんし」
 それよりも、とローゼンは声の調子を落とす。
 「直、彼は動きます。夜の十二時あたりでしょうか」
 伝える内容は突然の決着、それに臆するつもりは誰にも無い。
 「日付が変わってからか、まあ戦うことに異議はないが」
 特にシンには都合がいい、せっかくの青春時代を戦闘なんかで費やすのはどうかと思っていたのだ、今日明日で終わるのであれば気合が入ると言うものだった。
 「それより、どうするんだ。今から帰って作戦会議か?十二時まで時間はあるし」
 怒鳴りすぎて疲れた孝太、時計を見ながら言った。
 「そうだね、それがいいかも」
 葵はすぐさまそれに意見を載せて賛同する。
 「そうですね、彼も多くのHVDを差し向けてくるようですし役割決めは大事かと」
 ローゼンの提案は確かに大事だシンもそう思いうなずく。
 「よし、なら今此処で作戦を」
 そう思ったとき遠くから下校を知らせるチャイムが響く。すでに文化祭の準備は万全となっているので残る理由はない。つまるところ―――
 「時間切れだ。やっぱ帰って作戦会議だな」
 孝太の一言に頷くしかなかった。
 校門のところまで来た時ローゼンがいないことに気づいたのは唯だった。
 「孝太…」
 唯は心配そうに孝太に向いた。
 「大丈夫だ、あいつのことだから何とかするだろうよ」
 孝太もこれと言って心配するそぶりは見せなかった。が、唯はそれが孝太にとって不自然な言動と言うことを知っている。今までローゼンの事を気にしていたのは孝太だ、突然いなくなれば少しは心配の一つも口にすると思ったのだが、孝太自身あせっているのだろうか。
 「孝太、大丈夫だ。時間はある」
 シンは後ろの会話を聞いていたらしく振り向いた。
 「解ってら、俺自身困惑しているんだから不安にもなるさ。でも」
 と、肩をすくめていた孝太がそれをやめてシンをまっすぐ見た。
 「お前が大丈夫って言ううぐらいだから、何とかなるだろうな」
 言って歩き出す。その後ろをやれやれと唯がついていった。此処とばかり気持ちをはっきりするところは孝太らしいのだろう。
 時間はあとわずか、会議と称して一応集まった場所はシンの家だった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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