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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第42回   第四週8
 十八番の藤原様、二番室にお越しください。アナウンスが聞こえ孝太は病室へ入っていった。付き添いで唯とローゼンも入って行く。
 「どうされました?」最初の医者の言葉に孝太は考えた、コアと戦って怪我をしたなんていえない、となると概要だけ言うしかないという事になる。「えっと、転んだときに壁に肩を当てました、それで動かすと痛みがあるんです」我ながら安易な繕い方だった。「そうですか、ヒビが入っているかもしれないのでレントゲンを撮りましょう」はいと一つ返事で孝太は隣の部屋に入っていった。「大丈夫かな、ヒビだって」唯はローゼンに向いた。「どうでしょう、骨の裂傷は治るのに時間が掛かるかもしれません、前回のように傷でしょうから」フォローできないローゼンの言葉に力無く頷く唯、しばらくして孝太が出てきた。
 「現像が終わるまで外で待っていろ、ってさ」三人はまた呼ばれるまでの間控えの椅子に腰掛けた。平日の病院は静かだった。いや、普通病院は静かなのだが人の気配が無いということだ、平日の午後、数人の人間が呼ばれるのを待っている。孝太が呼ばれるのもまたすぐだろう。この機を逃さず待っていた寛子は尋ねた。「すぐに呼ばれるだろうから、簡潔に答えてくれる?」そう言うと寛子はカメラマンに合図した。カメラが回る。「いいだろう、何が訊きたい」
 「まず、さっきの怪物、アレは何ですか、前回も似たようなのをカメラに収めたけどはっきりと判っていないの、教えて」最初の質問でコアの事を聞いてきた、孝太はローゼンを見る「(細かい事は無しです)」小声で言ってきた。判ったと頷いて寛子に向き直る。「あれはな、俺にも何なのか判らない、ただ放って置くとヒトに危害を加えるんだよ」寛子は納得がいかないような顔をした。「そうですか、それであなたは何で戦っているんですか?銃刀法違反をしてまで」寛子は孝太が持っている刀を見た。「やはり人に危害を加えるからですか?」寛子がマイクを近づけた。「危害ね・・・・いや、俺としては回りの連中がどうなろうと知った事じゃあないね」孝太が軽く言うと寛子だけでなく二人も顔をしかめた。
 「じゃ、じゃあ何のために?」
 「何の、友達だよ、そいつが困ってんだ、助けてやらないでどうするんだよ」それだけ言うと黙ってしまった。唯とローゼンはそうだねと笑っている。「友達、それはこの前インタビューを断わったあの少年ですか?」
 「ははは、そうだな、いろんな事情を知っているのはあいつだな、でもあいつマスコミ嫌いだから無駄だろうけど、もっと詳しく知りたいなら・・・・もっと関わっている奴を調べる事だな、そうすりゃインタビューするする相手も絞れるだろうよ」十八番の藤原様・・・・・同じアナウンスが届いてきた。「それじゃあ検査結果を見に行こうか」立ち上がる孝太、カメラを無視して部屋へと入っていく、それについていく二人「どう言うことです、あんなヒントを出したらいずれ僕が聞かれる対象になりますよ」
 「いいじゃねえか、おまえ誤魔化すの得意だろう、有耶無耶にしちまえば邪魔もいなくなる」悪戯っぽく言うと孝太はへへっと笑った。つまり寛子は蚊帳の外と言うわけだ。「斑鳩の気持ちがわかったよ、確かにマスメディアは気に入らないな」呟くように言うとドアに手を掛けた。結果やいかに。








 「ヒビ入っていた」部室に戻ってくるなり孝太は軽く言った。シンはあまりに軽い口調振りに大した事が無いように思ってしまった。だがどう見ても左肩にはギプス、軽いようには見えない。「ヒビって、孝太お前・・」シンも途惑って語尾を詰まらせた。「おう、左肩だ、全治一週間らしいな、安心しな斑鳩右手が残ってんだ刀は振れるさ」だが周囲からは静まり返った雰囲気とシンの溜め息が聞こえて来た。「孝太、無理に強がらなくていいよ。」手招きして孝太を呼んだ。「強がり?まあそう取られるだろうなこの状況じゃ。だがな斑鳩、俺はお前をちょっとは理解しているつもりだ」椅子に腰掛け頭を掻いた。「俺も孝太を少しは理解している、こんなときの状況もな」話が早いと孝太は笑った。「なら、戦闘は許可してくれるな」孝太は当然のように言った。「だめだ」シンはその言葉を否定すると孝太が顔をしかめた。「何でだよ、俺を理解しているって今言っただろうが」孝太が訳がわからないと言うニュアンスをこめた。「ああ、理解している、だから駄目と言ったんだ。どうせ利き手が使えるって理由で戦闘をするつもりなんだろうけどな孝太、五体満足でない上に更に怪我でもされたら俺はお前に顔向けできなくなる。それに文化祭もあるだろう、文化祭のチャンバラならまだ出せる。けど本物の戦闘は後戻りが聞かないんだぞ、判っているのか?」孝太は言葉を詰まらせた。シンの言う事はもっともだし孝太はシンに迷惑をかけたくない、だからと言って自分の信念を曲げるわけにはいかない。寛子の前で言った、困っている友達を救いたいと、だから怪我だろうがなんだろうが自分は戦うつもりだ。
 「絶対に、駄目だってのか・・・」
 「ああ、駄目だ、俺は孝太の苦しむ姿は見たくない」
 「だが実戦で苦しむのは百も承知だ、それでも駄目か」
 「くどい、言葉は変えないつもりだ」
 「つもり・・・?」孝太はシンのこの言葉に小さなチャンスを見た気がした。にやりと笑うとすぐに隠しつづけた。「じゃあ、どうするなら言葉を変えてくれる」葵と唯が見守る中シンはゆっくりと目を閉じ考えた。
 (確かに孝太は戦力になる、だがそれは五体満足の状況での話。怪我をおっている孝太にこれ以上の戦闘は苦戦を強いられるだろう、だがそれを省みず突っ込む覚悟は孝太に出来ているのは目に見えているし俺が言った所で引き下がるはずも無い、現に途惑って出した『つもり』に反応して孝太は聞き返してきてしまった。俺のミスだ。こうなっては答えを出すまでだんまりを決め込んでも孝太は納得しない、強く言ったって聞くような奴でもない、刃迅を使う、使わないは別問題・・・・・なら)
 目を開け孝太を見た、じっと目を瞑っていた間にも見ていたに違いない真っ直ぐな目は未だにシンを見ている。シンは次に机に置いてある榊を見た。そして頷く、考えがまとまったようだ。目を戻すと孝太もシンの考えを理解したのか今は笑っている。「屋上だ」一言告げると二人は立ち上がった。
「え、ちょっと孝太っ!?」
「シン君、どこに行くの?」二人は急に動いた二人の行動に途惑った。「なあに、すぐに戻ってくるさ、それと葵、戻ってきたらなそいつの話聞かせてくれ」シンの代わりに孝太が言った。指を指したのはキックンだった。戻ってくるときぬいぐるみの物真似を強制させられたキックンだったが孝太とローゼンの前では無駄だったようだ。唯は首をかしげてキックンを見ていた。「彼等は彼等で答えを出しますよ、すみませんが私はこれで」ローゼンも部屋から出て行ってしまった。
「はあ、大丈夫かな孝太・・・」唯は最後まで孝太の心配をしていた。


 「孝太は物分りが良くて助かるよ」階段を上がりながらシンは言った。「そうか、俺としては状況の中で人の考えを予想しているだけだけどな」踊り場で立ち止まって孝太は言った。「それでもすごいよ」シンは足を止めず上へ続く階段を上る。「それはどうも」照れながら孝太も後に続く。「普通怪我をしている人間は不利とわかれば戦いを避けるよ、それでも戦うと言うのは俺を信頼してくれている証拠なのだから正直嬉しい」あからさまに孝太は心中を言われてシンの後で赤くなっている。シンがドアに手を掛けあける。外は冬の風がふき始めていた。二人はハの字に歩き距離をとる。「だから、俺はそんな信頼を寄せてもらっているパートナーにこれ以上の戦闘は避けてもらいたい」シンは十分な距離をとり孝太に向いた。「俺もそれ程期待されているパートナーがいるのならちょっとの怪我は無視できる」孝太も立ち止まった。
 「信頼を寄せているがために」
 「互いが違う考えと信念を持っているなら」
 「互いが納得するまで」
 スラリと、二人は鞘から己の信念の象徴を抜く。
 ――――――信念を交える、のみ!―――――――
 最初に走り出したのは、孝太だった。彼の正確からして最初の一刀は必ず入れに来るのはシンの予想範囲内だ。切っ先から目を離さず見据える。横殴りの一閃をかわしシンは後へまわった。お互い、もちろん命を取るつもりも斬るつもりもない。ただ、納得するまで交わし合うだけだった。(もらった!)シンの榊が孝太の背中を斜めに入るか否かの所孝太は先を見た。「・・・・(右肩)」孝太は背中に鞘を納めるような形で刀を上から後へ回し見えない位置で榊を止めた。斬られる場所は右利きのシンなら右肩に入る、そう予想して孝太は右肩の後ろへ斑匡をまわした。上級技としか思えないことをやってのけた孝太にシンは感心しながら後へ、後退する事が出来なかった。「はあっ!」孝太はそのまま体を回転させて榊を弾き返しシンをもつれさせた。一瞬孝太が自分と同等、それ以上に錯覚した。「(いけない、楽しんじゃだめだ・・・これは真剣勝負・・・)」頭の中でシンは高揚感を感じた、確実に連続で刀を交える相手を見つけて。「・・・・はは、ははは」強制的に後ろへ下げられたシンは小さな間を置いて笑い出した。駄目と解っていながらもシンは口元を緩めた。「―――――!?」孝太は一瞬どうしたのかと躊躇った、だがシンは既に懐にいた。「はや――――」言う間もなく斑匡と榊を交えた。だが反応が遅かった孝太は一歩引く形になった。その間シンはずっと笑っている。「・・・・(やばい、斑鳩の奴速すぎだ、二手先を読むので手一杯だ)」孝太は鍔迫り合いの中刃の餌食にならぬよう先を読み始める。「く・・・・りゃあ!」薙ぎ払う形で斑匡を振る。だが空を切ったそれは大きな隙となった。「そこ!」胴に横払いをかける、孝太の負けか、いや、違った。「(負けるかよ、ここで勝たねえと―――!)」孝太は放たれた横払いをスローで見ながら左足を自分の右足にぶつけた。そして勢い良く倒れる。榊が斬ったのは孝太の髪の毛だけだった。左肩を庇った孝太は横に転がり胴で勢いをつけシンに足払いを掛けようとする。「おそい」見事に避けられたが足の回転を利用して孝太は立ち上がった。別に立てればよかった足払いあわよくば当たっても欲しかったがそれは贅沢だった。
 「次、いくぜ(走ってきたら、すぐに当てる)」
 「・・・」
 孝太の宣言に答えず今度はシンが走り出す。高揚感に煽られシンは真っ直ぐに走るそれでも頭の中は冷えている、距離が数歩まで詰まったとき孝太が動いた、刀を上げる動作、その瞬間シンは腕を伸ばし上がる寸前で止める。「やば・・・・(予想外だ、次は・・・って鞘かこれは!)」このまま薙ぎ払うことも考えた、だがシンの動作は止まっていない。左から迫るのは榊、孝太を止めたのは鞘だった。「・・・・」もらった、そう思ったとき鞘を持っていた腕が動いた。「(荒っぽいがこれしかない、すぐに反対へ動かせば・・・・)」孝太がムリヤリ鞘ごと榊にぶつけた。「あ・・・・・は」瞬間シンの高揚感は絶頂を迎えた。孝太に機転が自分を越えている事に気づいたからだ、左へ斬るのを中断し力を弱めた。その一瞬、体を右へ回転、先ほどの二倍強の速さだ。斬らずを守りながら逆刃で脇腹を叩こうとする。だが、その速度も二手以上先を読んだ孝太は考えている。力を緩めたと気づいたときすぐに孝太は斑匡を右へ移動させた。金属音が響く。孝太は小さな鍔迫り合いの中シンの表情を捕らえた。「(こりゃあ葵には見せられないな・・・・肘当てを避けてすぐに後へ、無理なら逆刃で弾く)」初めて三手ほど先を読んだ孝太、予想通り鍔迫り合いで互角の状況では腕も使わざるをえないだろうシンは肘当てを選んだ。
 よし、そう思い体を右へ避けたとき打撃が背中に入った。「がはっ・・・・・(しまった、鞘を状況に入れていなかった。迂闊だ)」孝太は引き下がりながら次の手を考える。「(やっぱ斑鳩は強いな、このままじゃあ俺が負ける・・・かもな)」予想の辺りまだ孝太はやる気らしい。すぐに構えなおしシンの出方を見る。「(あいつは俺を止めるがために両手で戦っているんだよな・・・・片手で応戦している俺って結構イケるかも)」などと自分を誉めているとシンが突っ込んできた。「おわっ!」一歩ずつ下がりながら榊に斑匡をぶつける。「(両手と片手のハンデ、これ以上の力を出すには・・・・刃迅は駄目だ、フェアじゃない)」シンは怪我をしている孝太を気づかい大技を出す事をしていない。なら自分がそれを出すのはシンへのボウトクも同然、それ以外で勝たねばならない。「(力を自分で入れるには限界がある、一般の人間が片手で出せる力は重りを持ってもせいぜい三十キロ前後、俺は多分四十キロ強、斑鳩と同じならこれ以上の体力消費は避けねえと・・・・助走。いや、だめだな、離れた所ですぐに間合いを詰められる)」降りかかる刀の雨をやり過ごしながら孝太は考えを進める。「(間合いを詰められてもいつもの力に上乗せできる力・・・勢い、乗せる勢い・・・・そうだ、アレがある)」一つの考えが浮かんだ、駄目元で孝太は振ってきた榊を力いっぱい弾いた、すぐ後にさがり間合いを開ける。体制を立て直したシンはすぐに走ってくる、二メートル弱の距離なら一秒も掛からずに進める。「・・・・・(一、二、今だ!)」孝太は目の前に現れたシンに向かって斑匡を振り降ろした。それを難なく受け止めようと胸の前に榊を構える、だが。ギイイイン、と今までより一番大きな音が響いたと同時にシンは後方へ弾かれた。何が起こったのかシンは榊越しに孝太を見た。「(成功だ)」孝太は確かな手応えを感じ口元を緩めた。シンは何が起こったのか理解しようとした。いきなり孝太の力が上がったのには理由があるはず、外力を使った、そう考えるしかない。思い立ったのは「・・・・慣性の法則、か」それ以外考えられなかった。「ちぇ、もう気づいたのか、せっかく考えたのに」口では残念がっているが顔は笑っている、シンの言う通り孝太は距離が詰まるか否かの間に腕を振ると同時に一歩前へ出た。その寄って生じる慣性を斑匡に上乗せしてシンを越える力を一瞬だけ引き出す事に成功したのだ。「片手じゃあどう考えたって勝てるわけが無いからな、それにしてもたった一回の攻撃で全部ばれるなんてな、斑鳩の洞察力には敬服するよ」
 「それだけか」孝太が喋り終わったときシンは目の前にいた。「・・・ありかよ、それ」驚きで声がつまっている、すると、シンが鞘を捨てた。「これは邪魔だ、すぐに終わらせるぞ」孝太に力強く目を向けた。「(そう、だった。今は取るか取られるかの瀬戸際だったんだ)」孝太は息を吐いた。「要はその一歩を踏み出させなければいいだけのことだな、いくぞ」シンの表情が先ほどより幾分和らいでいる。どうやら孝太の異常な状況判断力に当てられたようだ。「下で二人とも待っているんだ、ここからは手短にいくぜ」孝太が腹をくくった瞬間シンも頷いた。「よし、来い孝太」
 一秒の間、互いの顔色をうかがうとどちらとも無く走り出した。孝太は慣性を利用して戦うため、シンは逆にそれを止めるために走り出した。孝太がもう数歩と言うところでシンは榊を体の回転と共に左へ振った。「しまっ・・・」これによって孝太は走るのをやめてしまった。慣性が消える。やはり付け焼刃の技では役不足だったか、そう思ったとき孝太は一歩踏み出た。「慣性は一歩でも出るんだよ」そう言って斑匡を降らした。受け止めた腕に重みのある力が加わる。勢いが消えるとすぐに斑匡を薙ぎ払い、体の回転を利用して右から榊を食らわす、だが前回と同じ攻撃は孝太に通じなかった。受け止められたのを知りすぐに反対へ回転、やはり二手先を読んでいる孝太に受け止められるがシンの勢いは外側を回った。ぶつかった刀同士を軸にして素早く孝太の後ろへまわる、しまったと思った瞬間孝太は身を沈めた。
 「あぶなっ――――」すぐに体を起し戻ってきた榊を受け止める。数回刀同士を交わした後二人で後ろに跳び、着地を利用して前方へ跳ねる。
 そして――――静寂、シンは低い大勢で腕を伸ばし孝太の首横へ刃を、反対に孝太は思い切り伸ばした腕でシンの額に切っ先を向けている。
 「・・・・・あ、はあ―――、はあ―――」
 「はあ―――――、はあ―――――」
 溜まりに溜まった息を吐き屋上に仰向けで倒れこんだ。「あ〜、疲れた、もうやりたくねえ〜」孝太は脱力感を言葉にして叫んだ。「同感だな、俺も、もうごめんだ」そう言うとシンは起き上がった。「降参だ、孝太、お前の好きに、していいぞ」息を整えながら言った。「マジか、サンキュウ斑鳩、でも、今日はもう無理だ」そうだな、シンが肯定した。「でもな孝太、指示は渡すぞ、これ以上怪我をされても困るからな」了解と孝太は言った。「遠距離から刃迅で応戦、接近戦になったら慣性の法則で倒せ、以上」
 「解った。って、言うかそれ以外方法も無いな」
 「その通りだ」シンに事を伝えた後また仰向けに倒れた。火照った体に心地よい風が当たる、十分ほど涼んだ後下に戻る事にした。「ところでよ斑鳩」何だと聞き返す。「あの熊は何なんだ?生きてんだろあれ」孝太は部室を出る前気になった熊のことを聞いた。「あれか、記月記だ」肝心なところを折って言った。「いや、だから何?」孝太は不満声で聞いた。「記月記と言って、さっき追いかけていたコアだ」アレがかよ、と孝太は起き上がった。シンは説明を進めた。「ああ、どうやらタイラントが生んだようだが、まれに出来る失敗みたいな物で頭はあるけど寄生も力もないらしい」
 「はあ、コアもコアで大変なんだな。で、何で連れてきたんだ」
 「俺じゃあない、葵が寒空の下で放置するよりも・・・・」
 「可哀想だから連れてきた」その通りとシンは言った。「危険性は無いのか」孝太は一番気になることを聞いた。「無い、今のところは、それに頭もいい。憎い所も在るがそれなりにいい奴だよ人間と同じで上級の生き物だ」シンは冷えてスッキリした頭の中でキックンを評価した。葵にべたべたしているのは気に入らないが、生物としては確かに上の類に入ると思う記下月を蔑ろにするほどシンは非道でもない、協力してもらうに越した事は無い。「そうか、斑鳩が言うんだ、間違いは無いだろう」
 「ああそれと葵が勝手にキックンなんてニックネームを付けていた」後日談を話すと孝太は笑った。「そうか。ま、実物を見てからだな俺の評価は斑鳩の言うほどの物かどうかはさ」丁度十分ぐらい経ち二人は部屋に戻る事にした。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 部室へ戻ると二人は固まった。中では葵と唯がキックンと遊んでいたからだ、唯は葵から事情を聞いたのだろうがそれは置いておくとして。
 「なあ、斑鳩」
 「何だ・・・・」
 「元来一般女性はぬいぐるみを好む傾向があるのは解るよな」なにやら哲学的な話し方だ。
 「ああ、解る。ただのぬいぐるみならな」シンはそう付け加えた。
 部屋ではキックンと遊んでいるのは二人で当の本人は女性二人に囲まれて滅茶苦茶デレデレとしていた。ぬいぐるみなのに鼻の下まで伸びている始末だ。
 「本当に上級生物なのか、あいつは」孝太は信じられないと言う声で言った。
 「俺も、疑わしく思えてきたよ、孝太」
 溜め息混じりの声が二つ部室内に響いた、外では日が暮れようとしている、こんな状況で本当に大丈夫だろうか。



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Novel Editor by BS CGI Rental
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