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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第41回   第四週7
 「災難ですね、挨拶もままならないなんて」
 ローゼンは瓦礫に隠れてそう言った。
 「知るかよ、あの短気な奴に言ってくれ。唯、怪我ないか」
 孝太は隣にいる唯を見た。どうやら怪我はないようだ。孝太も離れた所の瓦礫に隠れて文句を言った。入り口でローゼンと出くわした後すぐに天井からコアが現れた。そのまま止まる事無く壁や床を壊しつづけられ三人はトレーニングルームの狭い部屋に追いやられてしまった。
 「反撃の暇も無いな」
 孝太は一人呟いた。瓦礫の向こう側では自分の壊した瓦礫やトレーニング機具が散乱していた。
 その所為で敵を見失ったようだ。
 「まあ、頭の悪い相手でよかったですね、時間は稼げるようです」
 「ダメージも受けていないのに時間だけ稼いでどうするんだよ、さっさと倒さないと屋根の下敷きなるぜ」
 まあ部屋が一つ壊れただけでは崩れそうに無いつくりだから下敷きの心配は無いだろう。孝太が言いたいのは早く倒さないと外に出てしまうと言う事だった。せっかく非難した一般人を危険にさらすわけにも行かない。
 「相変わらずおやさしい事ですね藤原君は」
 言いながらローゼンはコアに銃を向けた。ダンと銃弾をコアに当てた。だが虚しくも弾かれてしまった。
 「これでは無理ですか」
 残念そうに銃をしまい目の前にアタッシュケースを置いた。
 「おい、今のでアイツこっちを向いちまったじゃねえか」
 ローゼンが撃った弾の場所を予想してコアは孝太たちのほうへゆっくりと歩いて来る。
 「みたいですね、すいませんけど時間を稼いで下さい。こちらも準備がありますから」
 「何で、お前の失敗で俺が――――っ危ない」
 孝太が文句を言うと瓦礫が崩れた。大声の所為で流石のコアにもばれてしまったようだ。孝太は唯を抱えて飛び出した。孝太は崩れた瓦礫でぶつけてしまった肩を押さえた。後ろを振り返るとローゼンは、土煙で見えなくなった。
 「こっちだ唯」
 慌てて唯の手を引き瓦礫音の響く部屋を後にした。
 「(ローゼンは・・・・大丈夫だろう)」
 もう一度後ろを振り向くと煙の中からコアが跳び出してきた。
 「げっ、もう出て来やがった」
 孝太は唯に二階へ行くよう指示し自分はその場へ残った。
 「ちっ、廊下は狭いな。もう少し隠れる所を選ぶべきだった、ぜっ!」
 言って斑匡を素早く抜いて刃迅をくり出した。
 「―――――!」
 命中した、だが攻撃力が無いようだ。肩に痛みが走り孝太はよろけた。反対によろける事無くコアはその場に留まっている。
 「やっぱ無理か、それな―――」
 痛みをこらえて裏刃迅を出そうとした時孝太は足場が離れる感じがした。
 「ぐっ・・・・あ、く・・・」
 コアに首を掴まれ孝太は持ち上げられてしまった。
 「・・・・・」
 コアは握る手に力をこめた、その顔は笑っている。
 「あ・・・あ、あ・・・・ぐっ(やべえな、絞め殺されちまう)」
 孝太は消え逝く意識の中で孝太は下を向いた眼球にコアをみた。
 「(本体・・・・?そうか)」
 孝太は剣先をコアに向けた。
 「――――っ!」
 コアはビックリして孝太の首から手を離し飛び退いた。その場に落とされた孝太は首を抑えて咳き込んだ。
 「ご、ほ――――はあ、あ・・・がは・・・・(やっぱり、体よりも本体が弱点、か)」
 コアは身構えて孝太を見ている。よろよろと起き上がり孝太はにやりと笑った。
 「・・・・逃げる、か」
 刃迅を大量に繰り出しまわりの壁を崩した。
 「!」
 コアは瓦礫に潰されその合間に孝太は唯がいる二階まで走った。上へ行くと流石にまだ被害は受けておらず綺麗なままだった。
 「唯は・・・」
 孝太は唯を探そうと廊下を歩き出した。したからは瓦礫の崩れる音が聞こえてくる。
 「(うえへ上げるのはまずかったな底が抜けなきゃ良いんだが)」
 そんな心配をしながら孝太は誰もいない廊下を歩く、部屋を覗いては唯を探す。だが何処にもいない。
 「何処行ったんだ?」
 大声で呼びたかったが下の奴に気づかれるとまずいのでそれはできなかった。
 「唯か?」
 曲がり角から誰かが来る気配がしたすぐに曲がろうと走ったが
 「!―――――」
 角を曲がりに来る影が妙に大きい事に気づいた、どう見ても唯のではない。あれはコアだ。
 「(やばっ)」
 だが隠れようにも部屋は無かった。そうこうしていると近づく足音が大きくなってきた。痛い肩を押さえて戦う決心をしたとき左の袖を引っ張られた。
 「っ!」
 そのまま孝太は用具入れへと吸い込まれてしまった。紙一重の差で廊下からコアが顔を出した。
 「・・・・・(ふう)」
 コアが通り過ぎたことを確認すると息を吐いた。
 「(大丈夫孝太?)」
 隣で唯の小声がした。
 「(おまえ、こんな所に隠れていたのか)」
 そう言うと恥ずかしそうに笑った。
 「(まあね、下手に隠れるよりもこの方が見つかりにくいかなって)」
 「(まあ、何にせよ助かった、サンキュウな)」
 素直にお礼を言うと唯は頬を染めて頷いた。
 「(しばらく隠れてコアが向こうに行くのを待とう、この肩じゃまともに戦えもしねえからな)」
 「(大丈夫なの肩は)」
 唯は心配そうに孝太が押さえている肩を見た。
 「(ん、心配すんなよ大丈夫だ。それに下にはローゼンもいる、何とかなるさ)」孝太が強がって見せると唯は頷いた。その頷きに元気が無い事に気づいて孝太は話を変えることにした。
 「(それにしても最近は狭い所に閉じ込められる回数が多いな、厄日か?)」
 「(う〜ん、そんなことは無いと思うけど。でも、狭いね)」
 用具入れは二人も入るほどスペースは無く孝太は唯のスペースを作ろうと結構壁によっていた。それでもきついので互いの顔が結構近くにある。
 「(孝太、そのこの前の事なんだけど)」
 唯は思い声で話し始めた。
 「(この前?倉庫の事か?)」
 唯はうんと頷いた。
 「(あれがどうした)」
 孝太はコアの事を気にしながら耳を傾けた。
 「(孝太言ったよね、剣道武の主将さんの質問は肯定の意味だって)」
 孝太はやや遠回りな質問に頭を働かせた。
 「(ああ、あれか。確かに言ったな紛れも無い事実だ)」
 孝太は躊躇う事無く言ってのけた。
 「(どう言う意味なの)」
 唯が詰問するような態度で聞いた。孝太は少し考えて
 「(お前の考えているとおりだ)」そう言った。
 「(それじゃあ解らないよ、はっきり言って)」
 「(お前な、こんな非常時に何言って――――)」
 「(関係ない、遠まわしな事言った孝太がいけないんだよ)」
 「(ばか、声が大きい、気づかれるだろう)」
 孝太は人差し指を口の前へ持ってきていった。
 「(だったらちゃんと言ってよ、私解らないもん・・・)」
 最後あたりの声が小さくなってい行く唯に外を警戒していた孝太は振り返った。
 「(唯?)」
 覗きこもうとするが何分狭くてそうもいかなかった。すると唯が小さな声で続けた。
 「(孝太はそれでいいかも知れないけど私は厭だよ、そんな曖昧な言い方されても。はっきり孝太の口から言って欲しかったんだもん)」
 唯は泣きそうな目でそう訴えた。孝太は少し考えてから。解ったと小さく言って唯の耳まで顔を持ってきた。廊下の向こうから思い足音が聞こえてきたがそんなことに構っていられなかった。今はこちらが大事だ。
 「唯、俺はお前が――――」
 最後の単語を口にしたとき遠くで壁が壊れる音が響いた。シンの声も聞こえる。どうやら到着したようだ。唯は頬を染めて頷いた。
 「孝太、私も・・・」
 しばし二人で見つめあった。
 外ではシンが榊を片手に立っていた。突然の訪問者にコアは首をかしげるが脅えた様子は無い。
 「・・・・」
 シンは何も喋らない。時折ピリピリと苛立たしげに床を蹴った。
 「グアアアアアア」
 コアはとりあえず威嚇に吠えてみた。するとそれに反応したシンは
 「・・・何だ、おまえ」
 低くそう言った。何処となく不機嫌そうだ。普通と違う形相にコアはびくついた。シンは何か言いながら近づいてくる。

 「なんだ・・・あの熊は、馴れ馴れしくしやがって・・・・いったい俺が何をしたってんだ、いつか切り裂いてやる、態度が悪いのはコアだろうから大目に・・・コア・・・そうか、あいつはコアだった、遠慮などいるものか、いつかと言わず、すぐにでも・・・ブツブツブツブツ・・・」

 あまりの異常ぶりにコアは後退する。だがシンは更に一歩近づく、下がる、近づく、下がる。走行していると
 「・・・・!」
 コアは壁まで追いやられていた。逃げ道はない。コアは近づいてくる鬼に土下座しながら泣いていた。
 「許せ、だと。ふざけるな、お前は俺のはけ口だ!」
 榊を逆さにして切れないほうでコアを殴りつけた。
 「おら、おら、おら!」
 「ギャ、ギャ、ギャ!」
 コアは無残にも体が変形していった。数秒間そんなことが続いた。二十回も殴られた時既にコアの形は何かの残骸と化していた。シンは一息はいて榊を持ち直す。
 「榊の弐・獅子牡丹」
 本でも読んでいるかのような言い方で横に振った。
 「っっっっ!」
 コアは何も言えず頭から塵になって吹き飛んだ。見た目、牡丹の様に。榊を収めると、丁度後の用具入れが開いた。中からは孝太と唯が出てきた幾分顔が赤いのは気のせいだろう。
 「あれ、やっぱ斑鳩か、応援サンキュウな」
 孝太が未だに壁を向いているシンに言った。シンは踵を返すと
 「おう、孝太。そこに居たのか」
 なんて明るく言った。その顔はどこかスッキリしているようにも見える。
 「なんだ、豪くご機嫌だな。何かあったのか」
 孝太が言うと
 「いや、別に何も無いが」
 と答えた。
 「そういう孝太はどうした、何だか悟ったような顔をしているぞ」
 孝太は少し苦笑した。
 「悟った・・・か」
 その後隣にいる唯に目を向けた、顔の紅潮が治まらない唯はぼうっとしていた。それを見た孝太は下へおりようと言った。
 「そうだな、葵もそろそろ・・・・」
 来るだろう、そう考えたときまた先ほどの不機嫌にした奴を思い出した。
 「・・・・(ピリ)」
 何かが張り詰めている空気を孝太は悟った、だがそれが何なのかは判らない。
 下へ降りるとローゼンが入り口で寛子と話をしていた。
 「あ、終わりましたか?」
 なんて軽く言ってきた。
 「お前、援護はどうしたんだよ、斑鳩が来なかったら俺は、痛たたた」
 大声を上げたとき肩の痛みが反応して思わず押さえた。
 「大丈夫、孝太・・・」
 唯は肩の様子を見ながら訊いた。
 「孝太、怪我を」
 シンが訊こうとしたとき孝太は肩から手を放した。
 「大丈夫だよ、平気だ」
 強がっていたがすぐに肩を押さえた。やはりよくないようだ。
 「病院ですね、すぐそこに在ります、行きましょう」
 孝太は低く頷いて歩き出した。寛子も何か尋ねたいようだが場を弁えて口を閉ざしていた。外に出ると、やはり追いついた葵が出迎えてくれた。
 「あ、お帰り皆」
 片手で手を振っている。ローゼンの肩に掴まっている孝太を見て孝太が怪我をしていることは一目瞭然だった。
 「大丈夫なの孝太」
 唯と同じように尋ねた。
 「さあな、これから病院だ、寛子さん、何か訊きたい事があるなら俺に付いて来な、斑鳩は何も言わねえよ」
 寛子は黙って頷いた。
 「じゃ、行ってくるわ」
 孝太は片手を上げて言った。唯もついて行くといって孝太、ローゼン、唯、寛子、カメラマンの五人は病院へ向かった。残された二人(?)は見送った後話し始めた。「さっきはどうしたの、急に走っちゃって」
 開口一番葵は訊いた。
 「あ、あれは、孝太は危ないと思って・・・それよりも、あいつは」
 あいつ、葵に腕には居ない。と、足元から声が聞こえて来た。
 「あいつとは失礼だな、おまえ」
 ひょいと葵の足の影から出てきたのは。
 「キックン、踏まれちゃうよ」
 そう言って葵は熊を抱き上げた。まだ居たのかという視線をシンは放った。
 「(お前こそ)」
 と視線で返す記月記。それを見て葵は首をかしげた。
 「それで、こいつの処理だが」
 処理、それを聞いて記月記が反応した。
 「処理とは何だ、処理とは、まるで粗大ゴミ扱いじゃないか俺!」
 「違うのか?敵と仲良くなんか出来る筈も無いだろう」
 すると、ががーんなんて擬音が似合いそうなモーションを記月記はとった。
 「そ、そんな、俺は力も無く住む所も無いのに、この寒空の下で寂しく徘徊しろと・・・・」
 するとタイミングよく風がふく。そして葵の腕から下りて反対へトテトテと歩いてゆく、その背中には物悲しい哀愁が漂っている。
 「待ってキックン」
 葵が追いつき記月記を抱き上げた。
 「姐さん、止めないで下さい、俺がいると姐さんに迷惑が掛かります、こんな奴は一人寂しく生きてゆくほうが・・・・」
 まるで昭和のドラマ風の台詞で記月記は話している、すると葵は真剣な顔で
 「一人はつまらないよ、寂しい思いはさせないから、ね」
 そう言うと姐さ〜んと泣き喚いた。軽い奴だなとシンは息を吐いた。
 「行く所が無いなら学校の部室で暮らせばいいよ、その方が安全だし」
 マジですか、と記月記はオーバーアクションをした。葵もうんと頷く。
 「おいおい、部室でペットは」
 「誰がペットじゃい!?」
 記月記はシンに届かないツッコミをした。
 「シン君、お願い、キックンかわいそうだよ」
 葵は見上げる形でシンに願いした。
 「う・・・・」
 葵は追い討ちで目を潤ませている。
 「・・・・わかった・・・・」
 折れた、しかも顔赤らめて。
 「ありがとうシン君」
 葵は笑顔で言った。対する記月記は「してやったり」と目を光らせた。



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