「で、本当にここに出るのか、コアは」 今四人がいるのは商店街から離れた繁華街にあるカフェだった。時間があるからと言う事で丸テーブルを囲っていた。それぞれに注文をしてティータイムをしていた。ご注文の品ですそう言ってウェイトレスがお盆を持ってきて目の前に置いた。シンはコーヒーを、孝太は紅茶を、葵と唯はオレンジジュースを受け取った。 「・・・・」 コーヒーを一口すすりシンはカップを置いた。と、横でジュース片手に葵がこちらを見ていた。 「どうした葵?」 尋ねると今度はカップに目を落とした。その目は何かを求めているようにも見える。 「それって無糖?」 興味深そうに葵は聞いた。――――ああそう言うことかと理解しそうだよと言う。 「おいしいの、何だか苦そうだけど」 確かに、カップに入った黒い液体はコーヒー独特の苦さを強調している。 「そんな事は無い、慣れればこれほど落ち着いて飲める飲み物は無いぐらい朝はこれの世話になっている」 そう言うともう一度カップに口をつける。そのシンの一言で俄然興味を持ったのか葵は、じゃあ一口とせがんできた。少し心配したが大丈夫だろうと思いカップを葵に差し出す。カップを受け取り期待に胸を膨らませて同じようにコーヒーをすすった。ごくりとノドに通してからしばらくして葵は眉を「ハ」の字にして。 「無糖〜」 と言いながら物凄い勢いでジュースを飲んだ。どうやら葵は砂糖が入っていると思ったのだろうがシンは生憎無糖派だったらしい。そんな様子を向かいに座っている唯はジュースのストローに口をつけながら見ていた、そのあと孝太に振り向いて一言。 「孝太も無糖なの」 と聞いた。 「まあな、でも、レモンは入れるぞ。さすがに何も入れないで飲むと喉を通り難いしな」 そう言って一口すすった。その後カップを唯に向けて。 「飲んでみるか」 と聞いてみる。 「葵みたいになりたくないもん」 そう言って興味なさそうにジュースを飲んだ。そうかと孝太も身を引いてもう一度飲もうとすると唯がこちらをじっと見ている視線に気づく。横目で覗っていたがしばらく考えたあと 「飲みたいんだろ」 溜め息混じりに言ってカップを唯の前に置く。 「えへへ、実はちょっと」 恥ずかしそうに言ってジュースのコップを置く。 「いただきま〜す」 カップを持って葵同様に温かい紅茶を飲む。だがこちらもすぐに。 「渋くてすっぱいよ〜」 と同じように公開の感想を言ってジュースを飲んだ。シンと孝太はそんな二人を見て笑った。昼の穏やかな時間に良く似合う光景だ。授業をサボっていると言う前提が無ければ、の話だが。 「さてと、楽しんだ所で時間だ。相手も前回の戦いの傷はイリスにでも頼めば治してくれるからな」 「なんだもうか」 孝太は名残惜しそうに言った。紅茶を飲み干し穏やかな時間と自分を断つ。 「そういうことだな、それじゃあ二人は危害の及びそうに無いここで見ていてくれ」 それを聞くと二人はうんと頷いた。付いてくとは言ったがさすがに戦闘に参加するわけにもいかない。 「気御つけてね」 葵が二人に言った。 「孝太、また逃がしたら怒るから」 唯が脅しとも取れる言葉を吐いた。 「へいへい」 それを空返事で流した。 二人が立ち上がったそのとき空から何かが降ってくる音が聞こえて来る。 「来た」 シンの声に反応して孝太も上を向く。なにやら大きな物体が振ってくる。勢いは弱まることなく逆に重力の力を借りて加速しそして――――――――――― 轟音とともに一軒の店に突入した。
「派手にやったな」孝太は半壊した店を見てそう呟いた。何を呑気な、とシンが人事のように言うと孝太は我先にと歩みを進めた。「気をつけろよ」シンは後から付いてきて店を見た。「ひどいありさまだ」土埃煙る店はガラガラと音を立てていた。既に行き交う人々は逃げて誰もいなかった。逆に好都合と言わんばかりの舞台だ。立ち止まり煙が晴れるのを待とうとしたがそうもいかないようだ。「孝太来るぞ、構えろ」シンが警戒すると「目眩ましからの攻撃か?せこい奴だな」楽しげに言って斑匡の柄に手を添えた。だが孝太が考えるほど相手は姑息ではなかった。煙から突然飛び出し迷わず二人へ飛び掛ってきた。既に隕石の形ではなく先日と同じ人形へと姿を変えている。 「上等、来な」そう言って孝太は勢い良く振ってくる敵に目掛けて斑匡を抜いた。抜いたと同時に剣先から刃が飛び出した。「『刃迅』の威力、喰らいな」ハジン、いつの間にそんな名前をつけたのか飛び出る刃は真っ直ぐにコア目掛けて上昇した。だが一瞬相手は笑みを浮かべると空中で身を翻した。真っ直ぐにしか飛ばない刃迅は見事に避けられてしまった。「ちっ、やっぱ無理か」孝太が悔しそうに言った。最初から孝太に狙いをつけていたコアは更に笑みを強め孝太に爪を向ける。切り裂く気だ。だがコアの視界は滑るように横に流れた。今見ているのはコンクリートの地面、そこにぶつかりそうになったが体を戻し孝太に向けるはずだった爪で勢いを殺しながらブレーキをかけた。「そうはいくかよ」シンが剣先を向けていった。コアは孝太にかかる寸前でシンに横から腹を蹴られてしまったようだ。横腹を確かめると靴の跡があった。低く唸り二人を睨みつけた。そして今度は自分の脚力で飛び出そうとした。だが―――― 「『刃迅・零』」孝太が言うと同時にコアは背中に衝撃が走り前のめりに倒れた。背中には斜め一直線に焦げ付いた痕があり煙が出ている。「よっしゃ、やっぱこいつコントロールできるぜ」確かな手応えと成功に歓喜の声を上げた孝太。先ほどかわされた刃迅を自分の意志でブーメランのようにコアの後ろに当てた結果がこれだった。「上出来だ孝太、だがまだだ」シンは誉めるのと同時に気を引き締めた。コアはまだ倒れていない。ゆっくりと起き上がり何が起こったのかを確かめている。背中の傷に気がづいたようだ。だがほとんどその負荷は無いように思えた。「やっぱり緑色じゃないとダメージが小さいな。と、なると白い刃はいくつくらいで緑と同等の力に・・・・」ブツブツと呟く孝太。オープンカフェの一角ではそれを見ている唯と葵が見ていた。「孝太の奴今のうちに飛びかかっちゃえばいいのに」こちらも孝太の動きが止まったことに文句を言っていた。だが唯の場合それが裏目に出る事もある。「孝太あー、早く戦いなさいよー !」唯が大声で孝太に注意する一瞬葵が驚いたあと、その声にコアが反応した。二人の方を見て弱い奴から倒そうそう判断した。孝太はコアの目標が変わった事に気づき素早く目の前に立つように行動した。だがそれよりも早くその後方にはシンが待機していた。「お前の目的は俺達だ、二人には触れさせない」眼光鋭くコアを睨みつけた。「かかって来い」それが合図となってコアはシンに飛び掛った。「単純だな。タイラントの方が、まだ骨がある」皮肉を言うとシンは構えもせず立ち尽くしていた。「シン君!?」葵は身を乗り出して叫んだ。コアは今度こそと左腕をシン目掛けて突き出す。「孝太!」シンが合図を送ると孝太は待っていたとばかりに刀を振った。「狙いバッチリ、『裏刃迅』」刀を振ると今度は緑色の刃が飛び出した。白が表なら裏は緑ということなのか。孝太らしい真っ直ぐなネーミングである。裏刃迅は高速で空を切り突き出された左腕を反動も無く切り落とした。勢いを突き刺す事で殺そうとしていたコアだがその腕が無くなっては意味が無い。慌てて反対の腕を突き出したが目測が立たなかったかシンの目の前に突き刺さった。「裏刃迅、消えろっ」掌を拳に変えると同時に上へ飛び上がった裏刃迅はふっと消えてしまった。よし、と孝太は刀をしまった。後は任せたとシンに目配せをしたがシンはコアしか見ていなかった。地面の間近に突き出した右腕は予想より深く突き刺さっていた、それを抜こうと力を入れているがそれも無駄に終わりそうだった。コアの頬に榊が当てられた。上を見上げると無感情なシンの顔があった。「腕を抜く必要は無い、前回俺を襲ったのもそっちの本能かもしれない、だから許す・・・・」シンの言葉を聞いて孝太は何をと言おうと思った。続きを聞くまでは。「・・・・と思ったのはさっきまでだ・・・俺より弱い女性二人を襲うと考えるのは感心しない。だから、逝け」最後まで言う前にコアの体が風に包まれた。(HVDだか何だか俺には判らない、だが葵に手を上げるようならばそんなこと粗末以外の何者でもない、故に消す) 「『榊ノ一・桜』その体、花弁となれ」以前の『桜』同様、身を低くしたシンはそのまま縦横無尽に風を切り払う。「・・・・?」何が起こったのかコアは首を傾げたが。おもむろにその首に線が入る。顔にも、右腕にも、体にも、そして散りとなった。かたんと傷一つ無いコアが転がった。「・・・・切れ味は、いいな」そう言って榊を収めた。「お疲れさん、それはどうするんだ」孝太がやって来てコアを拾い上げた。「ローゼンに渡せばいいだろう。それに今日は腕試しみたいなものだったんだ、孝太の刃迅・・・だったか、それも含めてな」とりあえず座ろうと唯一被害の少ない先ほどのカフェに戻った。「お帰りシン君」席につくと葵が出迎えた。「ああ、ありがとう」孝太も唯と話しているようだった。「孝太、勝ったのはいいけどさっき何か考えていたでしょう。思いっきり隙だらけだったじゃん」などと駄目だしをしている最中だった。「だからって叫ぶなよ。斑鳩が先に動かなかったらお前が危なかったんだからな。俺だって守れる時とそうでない時があるんだ、だから気をつけてくれ」孝太は責める風でもなく唯に念押しするように言った。「うん・・・」唯は素直に返事をした。「・・・やけに素直だな。何かあったか?」孝太は首を傾げたが唯は何もないと言った。「コーヒーを注文したいんだが」シンが奥で呆然としている定員に言った。その顔のまま恐る恐るこちらに近づいてきた。「五名さまでよろしいですか?・・・・」そう尋ねた。「はい・・・・・え、五名?」孝太はまさかと横を向くと「どうも」と当たり前のようにローゼンが座っていた。 「いつもながら」 「神出鬼没・・・・だな」シンと孝太は溜め息をついた。「僕と彼はコーヒーを隣の彼は紅茶を、女性二人にはオレンジジュースをお願いできますか」スラスラと注文をしていくローゼン、隣から孝太が呆れたように言った。「お前は何でもお見通しだな、まあ注文が楽でいいんだが」そういうとローゼンはそうですかと言った。「先ほど同じ物を注文していましたから、それで良いかと」シンはだったら加勢してくれと言いたかったが、気分屋のローゼンにそれは無意味と考え息を吐いた。しばらくして注文の品が来た。定員はやはり警戒の顔で奥に引っ込んでいった。「さて、ダイムを見せていただきますか」 「ん、ほら」 ころん、と転がして先ほど手に入れたガラス玉をローゼンに渡した。「ふむ、確かにうけとりました。サンプルは多いほうが役に立ちますからね」お礼を言っているのだがその言い方には感情が無かった。願わくば、こんなものは無いほうがいいのだろう。「すいませんでした、加勢に来たのに出遅れてしまって」自分の不甲斐なさを恥じるようにローゼンは頭を掻く。「そんなこと無いだろう、俺たちだけで何とかできたってことはそれだけで力が上がったって言う証拠なんだよ、お前が謝る事じゃない」珍しく孝太はローゼンを弁解した、それでもどこか不機嫌そうなのはやっぱりローゼンが遅かったからだろうか。「そう言っていただくと救われます。それで、この後はどうしますか」 「どうするって、戻らないとまずいだろう。無断で学校を飛び出したんだからよ、幸い今日は国語も無いから単位は守れるし」 「よかった〜。これで国語だったら私本当にダブっていたかも」唯は安心しきった声で胸を抑える。 「そうですか、ならば行きましょう。そろそろ五時間目も後半ですよ」ローゼンに促されるように皆席を立とうとした。ローゼンはただ一人不信な目を向けるシンへいつもの笑顔を見せる、とシンは構えなおすように顔を強張らせた。「大丈夫ですよ、言いたい事は判りますけど今度にしましょう」 「…………………」やはりローゼンは知っていた。だがここで事を荒立てては三人が混乱する、シンは黙ってその笑顔を見る事しか出来ない。だがそれでも納得がいかないのか更に続けようとしたときエンジン音が聞こえシンは出しかけた声を呑み込んで音のほうへ向いた。「あれって」いち早く葵が心当たりのある車の形について予想を立てる。「ロケバスだよね」そう続け皆頷いて厭な予感を感じた。確かに近づいてくるのは大型のワゴンカーでマジックミラーが目に入った。「まさか・・・」孝太とシンは厭な予感がました。ロケバスに乗ってくるようなやからに心当たりは一つしかなかった。ロケバスはカフェの目の前で止まるとエンジンをきった。勢いよくドアが開き中から人が二人出てきた。女性と男性、それぞれカメラとマイクを持っている、マスメディアと気づきローゼンはポケットにコアを滑り込ませた。「寛子さん・・・また来たんだ」唯がうんざりと言った顔で言った。寛子は髪を整えマイク片手にカメラに向かった。 「私は今先ほどの轟音の被災地にいます、見てくださいこの荒れようを、まるで隕石がぶつかったような状態です、お店は半壊状態で地面にも穴がいくつか開いています。急な事でしたがどうやら被害に会った人たちは皆無のようです」寛子は事件現場を歩きながらリポートを続ける。その時寛子の目が四人と合った。ローゼンは完全に我関せずだったが。 「あそこに一部始終を見ていた人たちがいるようです、聞いてみましょう」そう言って笑いながらこちらに近づいてくる、その顔はすでに原因がわかっていて尚且つ個人的にこの状況を判断する目だった。「ちょっといいですか、一体何があったんですか」寛子はわざとらしくシンに聞いて来た。カメラも向けられている。唯と葵は緊張しながらその光景を見ていた。シンはマスメディアが嫌いなことを知っているからだ。「これは・・・生放送ですか?」とりあえず聞いてみた。「ええ、そうですよ、放送中です。一応顔は隠してありますけど。それでここで何が・・・・」シンは孝太を見た。溜め息を吐きお手上げと言うポーズをした。ローゼンは未だ我関せずでコーヒーを飲んでいる。「行くぞ」不機嫌に言ってシンは立ち上がった。待っていましたと四人も立ち上がった。「え、ちょっと?」寛子は戸惑った。「何処行くのよ、あなたたちが原因なんだから少しくらいコメントししなさいよ」立ち去って行く五人に寛子は叫んでいった。「いい、私はことの探求に時間を惜しまないわ、絶対にあなたたちの全てを暴くから」事故目標を大きく掲げ宣言するとシンが振り返った。 「なら、関係者にインタビューなんかするな、知りたいならどこまでも追いかければいいだろ、その代わり助けてはやらないからな」それだけ言って歩き出した。後から寛子が悔しそうな声を出したが無視した。 「結構きついな斑鳩も、相当報道系が苦手か」 「当然だ、在る事無い事言われて気持ちがいいはずが無い」そういうと榊を肩にかけた。 「でも、いざとなったら寛子さんも助けるんでしょシン君?」葵の指摘にシンは否定を口にしなかった。肯定と取った葵は「やさしいねシン君は」そういった。「まあ、何にせよこれから文化祭の準備とこっちの戦闘で忙しくなるわけだ、気合入れていこうぜ」掛け声のように孝太が言うと横からローゼンが口を挟んだ。「藤原君の場合はいつも肩肘張っているみたいですから気を抜いた方がよろしいのでは」ローゼンが皮肉混じりに言うと「大きなお世話だ」といって頭を掻いた。「そうだ、学校に戻るの?」唐突に唯が言った。五人とも黙って学校を抜け出したのだからこのまま帰るわけにも行かなかった。時計を見ると既に五時間目が終わろうとしている。「最後の授業だけ出るのもかったるいなあ」孝太がつまらなさそうに言うと、ローゼンが「あっ」と思い出したように言った。「確か六時間目は国語では、二人とも単位が危ないとか言っていませんでしたっけ?」孝太と唯がぴたっと止まった。すると小さくやばいと呟き「唯、走るぞ!」そう言って駆け出した。「うん、このままじゃまずいよ私達!」唯も後に続いた。残された三人は顔を見合わせた。「ローゼン君はどうするの?」 「そうですね、授業ははっきり言って出る気はありませんねこのあと仕事もありますし」 「そうなんだ、みんなで準備したかったのに」葵が残念そうに言うと、シンが声をかけた。「仕方ないさ、もともと潜入捜査みたいな物なんだ、当日ぐらいは出れるだろう?」そういうとはいと答えた。葵もそれを聞いて落とした肩を元に戻した。「それではこれで、また明日学校で」そう言うと学校とは違う方に歩き出した。 「ああ、また明日」 「ばいばい、ローゼン君」 ローゼンは振り返る事無くそのまま歩いて行った。「じゃあ行こうか」シンが手を差し出すと葵は少し戸惑ったが「うん」と手を取った。時間は六時間目に食い込んだが二人はゆっくり行く事にした。孝太と唯は間に合ったのだろうか?それはさて置き二人は青空の下学校へ戻っていった。
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