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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第33回   第三週9
 次の日、部室にて。

「以上だ」シンが言い終えて孝太は腕を組んで「異常だ」と言った。「冗談言っている場合じゃないよ」唯が横からツッコむ。
 「そうだった、つまりその親父さんが書いた本に斑鳩の刀、えっとサカキだっけか?その名前が書いてあって、マスター・コアは何でか小さくなっていたんだな」
 「ああ」
 昨夜シンは考え抜いた末にHVDのことを隠蔽してマスター・コアと榊の事を話すことにした。榊と言う名前は父親の残した手紙に書いてあってマスター・コアはいつの間にか縮んでいたと言う事にした。
 「まあこればかりはローゼンにでも聞かない事には判らないな」
 孝太は小さくなったビー玉を持っていった。手の内で転がす姿は子供が遊んでいるように見えた。
 「でもそのローゼン君が今はいないよ」
 葵は人差し指を顎に当てていった。今現在、ローゼンはいつものようにどこかへ言ってしまい校舎内には居ない。今日は置手紙すらなかったところを見ると急用だろうか。
 三人が話す中シン一人だけが黙っている。考えていることはあの本の内容。
 (ローゼン、あの本は何なんだ。HVDとはコアの事なのか?本の続きも気になる、榊に秘められた能力とは)
 「………シン君?」
 葵が一人黙っているシンを不思議がって呼ぶが答えは無い。
 頭の中で様々な単語が浮かぶ。全てに繋がりは無く自分の居る状況も不鮮明、そんなローゼンだけが便りだった。
 「斑鳩!」
 「えっ?!ああ、どうした………」
 孝太の大声に反応して驚いたように顔を上げた。三人ともこちらを見ている。
 「それはこっちの言う事だ、お前こそどうしたんだよ急に黙り込んで。何かあったか?」
 孝太は真剣にシンを心配している。だが答えられる事も出来ずただ首を横に振った。と、そのとき急激に脳に情報が入った。
 「!―――――――――」
 何かのメッセージか見えると言うレヴェルではない。これは知っていると言う記憶だ。街の一角のカフェ、そこの近くに来る。
 (HVD………か?)
 いや、いまはコアと呼んでおこう。
 「おい、斑鳩………?」
 孝太の声がする、振り返って今の事を伝える。
 「孝太、コアが出るぞ、商店街だ!」
 勢いよく椅子から立ち上がるや否や出口へ向かう。
 「マジか!?」
 半信半疑と言う声で立ち上がる。置いてあった斑匡をもち出口へ走る。後からは葵と唯も一緒についてくる。
 階段を下りる時孝太が聞いた。
 「斑鳩、勢いで部屋から出ちまったが腑に落ちないところがあるぞ。何だってコアが出るなんてわかったんだ?」
 「判らない、ただマスターの影響を受けた榊が教えてくれたんだ。先週取り逃がしたやつかもしれない」
 はあ、と気の無い返事をして孝太はそれ以上聞かなかった。これ以上聞いても斑鳩本人も判らないからだ。
 「………」
 階段を下りながら考えた、確かに榊が敵の行動を教えてくれるのは願ったり適ったりだ。だがそれにしても動きがはっきりしすぎている、ここまで目的がハッキリしていると逆に不安を覚えるが時間にそんな考えを深く追求する余裕は無かった。
 昼休み終了まで残り五分、四人はこっそりと下駄箱で靴を履き替え校門へと走った。と、その校門からこちらへやってくる人物がいる。長いコートを着た笑顔の青年、右手に持ったアタッシュケースが印象的だ。
 「ローゼン」
 足を止めて目の前で彼の名前を呼ぶ。笑顔を崩さぬままローゼンは首をかしげる。
 「おや、皆さん。どうされました、そんなに急いで?」
 奇遇と言わんばかりにローゼンは答えた。今の今まで学校をサボっていた人間が言うような台詞ではないがとりあえずそれは置いておいた。
 「いや、お前こそどうした。いないと思ったらフラフラ現れてよ、急用か?」
 呆れた声で孝太は後ろから顔を出す、頭を掻きながら心配するなと言う視線を送る。が、そんな気遣いも伝わることなくやや困った顔で言い返す。
 「すいません、授業が終了するまでキミ達を持っていました。何分黙って出て行った身ですので教室には戻り難くて。」
 そう答えた。確かに他人から見た感じでは純粋そうに見えるローゼンなら言いかねない事だが少なくとも孝太はローゼンの性格を知っているので非難の目で見る。
 「そうかい、それに関してはどうでもいいけどな。それよりもどうやら取り逃がした先週のコアが出るらしいんだ。お前も来い」
 ほう、と興味深そうにローゼンは孝太の後ろに控えこちらの様子を覗うシンへとまなざしをむける。
 「……………」
 その視線、何かを問いただすような目は即座にシンを機能の記憶にさかのぼらせた。交じり合う視線は互いの考えを探るようにも見える。三人の目の前ではローゼンに本のことを聞くわけにもいかずただ黙るのみだった。
 「おい、聞いてるのかローゼン?」
 「あ、はい聞いていますよ。………そうですかあれが出るのでしたら私も加勢の必要がありそうですね」
 孝太の視線に一瞬思考をカットされたがすぐにいつもの自分へと切り替えしたローゼン。その違和感に目の前の孝太は気づいていなかった。
 「そうだ、だから早く行くぞ」
 急かす孝太はローゼンの横を通って「着いて来い」と言う無言のメッセージを送る。だが彼は振り向いた格好で残念そうに孝太を呼び止める。
 「すいません、私も行きたいのは山々ですがこの後用事がああるんですよ、それも急用」
 「は?お前用事は終わって俺たちを待っていたって………」
 矛盾を口にするローゼン、孝太は何言っているんだとばかりに詰め寄ろうとするがシンがその孝太の肩を叩く。
 「行くぞ、時間が無いんだ。ローゼンも後から来てくれ」
 「はい、必ず」
 それだけ言って振り返りもせずシンは校門へと向かう。その様子を不思議そうに見ていた孝太だが首をひねって続いた。ローゼンに軽く挨拶をして葵と唯も走っていった。笑顔で手を振る姿は誰が見ても日常そのもの、だがその笑顔も取り返しのつかない状況になったと訴える目が全てを崩した。
 「もう、マスターを自分の物にしましたか。いえ、あの場合本を読んだと言うところでしょう。彼もまた後戻りの出来ない道を歩むのですね」
 哀れむ声はどこか楽しそうでもあり悲しそうでもあった。
 「狩人になりかけとはいえ出現前にダイムの居場所を察知するとは…」
 怪しいですね、と小さく言って校舎裏へと移動した。
 普段人気の少ない校舎裏は昼休みの五分前ともなると猫の仔一匹居なくなる。そんな静かな寂しい場所に彼は校舎を眺めるように佇んでいた。
 「どうしました、建物に興味でもあるんですかイリス」
 親しげに話し掛ける声はいつものローゼンらしくない。イリスはそんな彼を不満げに見返した。
 「やはり、まだ彼の刀は体に馴染んでいないようですね。殺気を消しただけのあなたにも反応できないとは」
 それはしばらくすればお前の行動が丸見えになるぞという注意だったがそんなことは気にしないのか鼻で笑って流した。つまりローゼンは殺気さえ見せなければどんな人とでも友好的になれるというのだろうか。
 「戯言を、ただ人がごったがえしている箱が気になっただけだ」
 「それを興味と言うんですよ」
 いまだ友好的な態度のローゼン。それが気に入らないかのように意識的に殺気を膨らました。同時にローゼンの友好的な気持ちは初めから無かったかのように感情の無い笑顔で固められている。
 「それで、私に話があるんでしょう。手早く済ませて彼らの後を追わねばならないので言ってください」
 「莫迦どもが動き出したぞ、隣の町で尋常でない騒動が起きている」
 「待ってください、何だって情報交換じみた事をしているんです。敵でしょうがあなたは」
 ローゼンは苛立たしげに言った。排除する側がされる側に情報をもらうようなみっともない真似は自分のプライドが許さない。例えそれが自分を振りから脱退できる情報でも。
 「ああそう言うお堅い奴だったなお前は。プラントの中で見ていた時もあーだこーだとおっさん達に迷惑かけていたもんな」
 何かを懐かしむような目でイリスは殺気混じりの笑顔を見せた。
 「下らない、それよりも無駄な情報交換は不要ですイリス。あちらで何が起きていようとも私は自分の仕事以外の情報はいただきません」
 「………かたいな、かたすぎる。じゃあ聞くだけでいい、これから話すことは独り言だ。この情報を使って身を防げ、お前を殺すのは俺なんだから簡単にしなれたら困るだろう」
 理不尽すぎるイリスの物言い、まるで子供が玩具で遊ぶような顔だった。ローゼンも何を言って良いのかわからず黙っているしかなかった。ただ。
 「解りました、聞いてもいいですけどその情報を活用しても私の身が守れなかったからと言って無闇に周りに被害を出さないでくださいね」
 「何寝言いってんだよ、俺は全てを破壊するために出てきたんだぞ、そんな俺にその約束は畑違いだ」
 「約束?勘違いも甚だしいですね。これは命令です、あちらでもこちらでも騒動を起こして、私を困らせるつもりですか!」
 「ああ、それもいいかもな。まあそれを決めるのはお前だ。俺は言いたい事だけを言って帰るぜ。
 手早く言えば、基本的に俺たちはお前ら人間の手で生まれた存在不適合者かもしれない。でもな、それ以上に不適合な存在が隣で騒動を起こして嫌がるんだよ。なんでも体に変な痣のある奴とか時代錯誤過ぎる格好をした変なやから、おまけにカラスみたいな奴が超常現象じみた事をしているらしいぜ」
 手から光線出したり、とか言い加えて笑った。だが笑い事ではない、今のいい加減すぎる情報に見覚えがありすぎるローゼンは目を見開いた。時代錯誤過ぎる格好をした輩。思い当たるのは彼女以外ありえなかった。
 「ワイツ…………いや、それよりも」
 ローゼンは幾度となく会話を重ねた相手よりも気になる存在に頭を働かせた、口では言っていたものの実物を見たことの無いカラス、それが酷く気になった。
 「カラス、ですって………」
 「お、食いついたな。ああ、何でも何処の奴らにも属さないジョーカーらしいが詳しい事を調べようとしたら逆にやられちまったんだよなあNタイプが」
 「なっ………!」
 「ま、俺が言いたいのはそれだけだ。じゃあな」
 無責任な台詞だけを残しイリスは踵を返す。と、何かを思い出したように立ち止まり首だけ振り返る。
 「ああそうだ、さっき送ったのはあいつらがここに来ないように気を逸らすための捨て駒だからよ、あれ倒したら今日は終わりだ。せいぜい頑張れよ」
 それだけ言い残し本当に帰ってしまった。ローゼンは全てを振り払うように街へと歩き出した


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Novel Editor by BS CGI Rental
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