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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第3回   序3
 朝のホームルームが終わって新学期最初の大掃除が終わった。後は帰りのホームルームをするだけなのだがやはりと言うかなんと言うかトラブルが発生した。「今朝決めたチャンバラなのですが少しトラブルが起きました、なぜかあのステージを使いたいクラスがまれにも出現してしまったんです」司会の言葉に一同ええー、どこのクラスかという質問が飛ぶ。それもそうだ、ここ数年あのステージを使う者は居なかったと言うのに、何故に今になって使用者が出てくるのか甚だ疑問である。そんな不満が視線となる中司会は重い口をあける。「ええっと、隣のクラスです」隣のクラス、そう聞いて教室が諦めムードに落ちる、一体何がどうなったのだろうか理由を知らないシンは首をかしげた。と、そんな疑問を持つシンの隣からローゼンが言った。「何でも、隣のクラスは不良が多いらしいですよ。皆さん暴力反対主義ですから話し合いも諦めているんでしょう」何故にこの男がそれを知っているかはあえて追求しない事にしたシン。なるほど確かに隣からはいつも騒がしい事は知っていたがよもやそんなに荒れていたとは。しかしそんなクラスがいったい何をステージでするのだろうか。司会に振り返ると同じ質問を飛ばす声があった。
 「なんでも、ライブをやるとか………」お手上げの格好で司会までもが諦めていた。このままでは出し物をまた決め直さなければならなくなる。それは良くないと孝太は呟く。
 「困ったな、話し合いでもするか」教室に投げかけたのはシンだったが孝太が頭の後ろで手を組みながら。「ああ無理無理、話し合いでまとまるような奴らじゃない、全員血の気が多いからな」まるで知り合いのような口ぶりで言う孝太にローゼンが探りを入れる。ローゼンや孝太が言うようにやはり無理なのだろうか。と、ローゼンは何かに気づいて孝太に向いた。
 「ところで藤原君、あなた隣のクラスの事をよくご存知ですね。何か繋がる所でも?」何を期待しているのかローゼンは、楽しそうに笑っている。
 「まあな、よくいざこざを起こして殴りあっていたし知らない仲じゃないな。初登校日に喧嘩して生活指導も受けたぞ」
 「ほう、それはそれは。また波乱万丈な」自分好みの答えだったのか笑みは崩さぬまま言った。それよりもシンは何やらとんでもない発言を聞いた気がしたが全員で聞かなかった事にした。
 「じゃあどうするの孝太?やっぱりステージ諦めるの?」それは困るよ、訴える目は唯のもので孝太は頬を掻いた。しばらく思案した後頬から手を離し、よしと呟く。
 「唯、それは俺に聞くことじゃないぞ、どっちかといえばおまえの仕事だ」唐突に責任転換のごとく孝太は唯に切り返した。言われたほうはそれはもう慌てる。
 「え?あたし?なんで、みんなの出し物なのに?」よく解らないような顔で孝太に言い返す。それをさも当然のように孝太は。
 「提案者だから」なんて一言で全てを終わらした。
 まあたしかに別なところとのいざこざが発生した場合提案者が話し合いの場を設けて解決するのが筋だが――――孝太、本当にそれでいいのか?相手は不良だぞ、唯が話し合いに行けば連れ去られかねない相手だぞ。と言う非難の目が孝太を見る。
 ほれみろ、唯もなんか微妙な顔をしているぞ。「孝太ぁ」あーあ、ついに情けない声まで出させちゃったよ。その姿は小動物を連想させる姿と酷似していた。
 「まあ、これはこれで―――」
 「え?」
 唯は首をかしげる。
 「いや、何でも、ない。ああわかった冗談だよ、冗談、俺も行くからさ唯」
 「本当?」ああ、と孝太は頷く。唯はまだ眉を寄せている、孝太ははあと息を吐いてポンと唯の頭に手を置きなでる。
 「な、俺も行くからよ」
 「うん、わかった」
 こうして孝太と唯が隣のクラスへ話し合いをしに行くことになった。「そうしてくれると助かるよ」司会を勤めた委員もほっと胸をなでおろしたと同時に司会が言ってきた。「所で話は変わるけど、前列の孝太の三人と、斑鳩君とローゼン君、そう離れていると意見が通りにくくないか?」
 突然の事に何だという目をする孝太。
 「どう言うことだ?」
 「つまり、さっきから意見を出しているのは君達なんだけど席が離れすぎていて不便じゃないのかという事だよ実際」ああそうか、と孝太は言う。「じゃあどうしろと?」シンも後に続く。「つまりキミ達まとまった方が良いんじゃないかと思うんだよ、時間も余っているし席替えをした方が良いよ」賛成と言う声が飛ぶ、確かに孝太、唯、葵の三人からシンまでは結構距離が離れている事がわかる、実際口に出してはいないが彼等もそう思っていた所だったので反対する理由が無い。と言ってもこうなったのはシンがこのクラスに入ってきて勝手に座った席が離れていただけだったのだが、まさかこうなるとは。
 「わかった、でも先生は?」
 「どうですか先生、席替えは――――」と、司会が振り向くと担任は寝ていた、出し物のトラブルが発生したのになんて呑気な人なんだろう。「・・・・・・席換え開始」ということで残りの十分で席替えを行った所こうなった。横が五人、縦が六人の計三十人、一番前列の左端の窓からシン、葵、孝太、唯、ローゼンである、見事に五人がまとまった、ただ、なぜか孝太と唯の後ろに銀と薫がいた。
 「何でお前等がここなんだ」
 「まあ良いじゃないか藤原君、気にしない気にしない」確かに今回は文化祭なので席替えはおまけみたいな物、よって気にしない。
 「ちぇ、勝手にしろ」
 「席替えは終了、では今日はこれまで」そのまま司会の号令と共に今日の授業が終わった、明日からは普通の授業が始まる、そう考えると午後を楽しもうと蜘蛛の子を散らすように帰っていった。
 「さてと、俺達も行こうか、唯」
 「うん…」
 唯は緊張した顔で孝太を見た。
 「心配するなよ、何とか話し合いで済ますからさ」
 「もし駄目だったら?」
 隣で聞いていた葵が言った。
 「その時は、実力行使を――――」
 「孝太」
 同じく窓際にいたシンが孝太の名前を呼んで注意する。
 「冗談だ斑鳩、何とか話し合いで済ませるよ」
 「ふう、俺も行くよ、心配だ」
 「私も」ため息をついたあとシンと葵はそう言った、もともと着いて行うと考えてはいたがこれで完全に行く理由ができたようだ、孝太を野放しにすると何をしでかすかわからない。
 「では非力ながら私も――――」
 「「「「だめ!」」」」
 唯の隣からローゼンが協力の声を出そうとした時四人は口をそろえて断った、それもそうだろう、ローゼンが出ていったらそのアタッシュケースが開かれそうだ。「おやおや」肩をすくめながらお手上げのポーズを取った。「何が非力だ、おまえが出ると絶対に警察沙汰になるのは目に見えているんだ、だからだめだ、第一この前のビルでの一件だって未だに警察が張り込んでるんだぞ」何の事でしょうかと首を振るローゼン。
 「そんなことはありませんよ、ただ僕は手伝いをしたいだけで、あ、でも相手の物分りが悪い時はそれなりの手段で―――」
 「「それがだめなの」」唯と葵に言われて完全に参加の資格を失ったローゼン、残念ですと言っていたが顔が笑っているので全然残念そうに見えない。「それじゃあ行きますか、話し合いに」四人はローゼンに見送られて隣の教室へと歩いて行った。到着と同時にシン、葵、唯の顔が固まった、孝太は「いつ見ても汚いな」と周りを見た。教室は誰が見ても廃墟のようにしか見えないほど荒れていた、部屋中に机は散乱し、ゴミまで撒き散らし、あまつさえ壁にスプレーで落書きを書く始末。
 「酷いなこれは、本当に教室なのか」
 「話し合い、してくれるかな」教室のありさまを見ただけで葵は話し合いに危機を感じていた。「でも、誰もいないよ」唯の言う通り、教室には誰も残っていない、もう帰ってしまったのだろうか。「だれだ」突然後から聞いた事の無い声が聞こえて来た。振り返ると、銀色に髪を染めたいわゆる不良が立っていた、その後には控えるようにさらに派手ななりをしているのが二人。「―――――」銀髪はともかく、後の二人を見てシンはコアと勘違いして斬りかかろうと思ってしまった。「誰だよ、おまえら」銀髪は質問を繰り返した、ようやく人間だと理解したシンは口をあけた。
 「俺たちは――」
 「よお、夜叉じゃねえか」教室に入っていた孝太がシンの言葉を遮り大声を上げた、『夜叉』とはこの銀髪の事だろうか。
 「あ?孝太かよ、なんだまた殴りにきたのか?」
 「違う違う、今日は野暮用だ―――――って、何で三人とも突っ立ってんだよ、入れよ教室に」どうやら本当に銀髪が夜叉という名前らしい。孝太に言われて、三人は無言のまま教室に入った。夜叉達もそれに続く。
 「で、何のようだ、くだらない事だったら殺すぞ」
 「まあまて、斑鳩自己紹介だ、こいつの名前は両義 夜叉(りょうぎ やしゃ)、このクラスの中で唯一常識のあるやつだ」唯一という言葉に反応して控えている二人が動こうとした。「――――」孝太はその二人に無言の言葉を睨み返す、びくっ、と振るえて二人は動きを止めた。
 「夜叉、こいつが斑鳩だ、この前転校してきたやつ、その後ろにいるのが葵、まあ斑鳩の彼女だ」
 「ほう」彼女と言われて照れている葵を見たあと。「それじゃあ、そっちはお前のか?」
 と、指をさす。指をさした所には教室に入ってからずっと孝太の後ろで様子を窺っていた唯がいた。とても興味深そうな目でそれをみる。
 「こいつは唯だ」
 「・・・・・・」夜叉は黙る。「そうか、自己紹介が済んだ所で用件を聞こう」チラッと孝太は唯を見た、どう見てもこの雰囲気に飲まれているので自分が言うと目配せをする。「簡潔に言うとステージの事だ、このクラス同様俺たちもアレを使いたいんだが、誰が責任者だ?」説明を終えると夜叉がクックッとのどで笑った、孝太は眉を寄せた。
 「ははは、どうもお前とはいつもぶつかるな俺は」
 「どう言うことだ」
 「ステージの責任者、俺だよ、ライブをやるのは俺じゃないけどな。そうか、お前がアレを使いたいのか」何がおかしいのか夜叉は笑いつづけている。それを見てシンが一歩前へ出る。「笑っている所すまないが、結局の所ステージを使いたい所が二つあるのなら話し合いをしたいのだが」率直な意見に夜叉はシンを睨んだがすぐ元にもどって続けた。
 「・・・・構わないぜ、で、どうするんだ話し合いとは」
 「後腐れがない様に勝負と行こうぜ」
 話し合いをしに来たのに孝太の口からは何故か『勝負』と言う単語が出てきた。
 「孝太!?」
 「斑鳩、相手が夜叉と判ったのなら話し合いは無理だ、こいつの説得方法はひとつ完膚なきまでに勝つことだ」文体が微妙だがともかく孝太は夜叉との勝負を申し出た。孝太の目は真剣だと言うのはすぐに見て取れた、わかったとシンは頷く、確かにこの夜叉との関係は孝太の方が深いのは解った。解ったが当然それだけでは済まない。「だが孝太、もし負けたら、ただでは済まさないからな」こちらの意見も聞かない孝太を許すには当然負けたときの代償を払ってもらうのが当然だろうと言う意味だ。その目は確実に打ち据えると言う事だった。それを見てゴクリとのどを鳴らす孝太。「結構きついな斑鳩・・・・・」このやり取りを聞いていた夜叉は痺れを切らしたように言ってきた。「どうでもいいが、何で勝負だ?またこれか?」そう言って握った拳を突き出す夜叉。「まさか、今回暴力はしないって決めてんだよ、今回はこれだ」そう言って孝太も拳を出す、それを見て唯が驚く。「駄目だよ孝太それは、孝太の悪い癖だよ」だがその言葉も耳に入っていないのか孝太は夜叉を見たままだ、代わりに葵が聞いて来た。
 「どう言うこと唯、アレって何なの?」
 「葵・・・・あれはじゃんけんだよ絶対」
 「「じゃんけん?」」言われてシンと葵は同時に言った、じゃんけんと、じゃんけんと言うのは・・・まあ、じゃんけんの事だろう。
 「孝太は昔から人生を左右する大事な事をじゃんけんで決めたがる悪い癖があるの、幼稚園の時もあれでなんど車に轢かれそうになったか」
 「はあ、それは・・・」
 「初耳・・・・・・・」確かに暴力ではないが、文化祭の出し物、しかもメインといっても過言ではないその出し物のステージを自分の意向だけで決めていいのだろうか。これでもし本当に孝太が負けるようならば打ち据えるだけでなく切腹まで考えるシンだった。
 「よし良いだろう」
 「商品はステージ使用の権限だ、いくぜ」
 掛け声を出そうとする孝太を夜叉が止めた。
 「まてよ孝太、もう一つ商品を出さないか」
 「何だよ商品て?」
 そう言うと夜叉の視線を追う孝太、その先には――
 「唯?まさか夜叉おまえ」
 「ああそうだ、さっきお前俺の質問にイエスともノーとも答えなかったよな、という事はその娘はフリーってことだ、実際気に入っちまったんだ、俺にしちゃ珍しいぞ、一目惚れなんてよ」夜叉は照れる事無く言った。この提案に唯本人はおろかシンと葵も目を見開いた。なるほど先ほどから唯を気にしていたのはそういう事かと孝太は理解した、だがそれは逆に人を勝ち取ると言うことに対しての理解が浮かばなかった。
 「人間を商品にしてどうすんだよ」
 「なら止めて帰るぜ俺は」帰られたらもう夜叉との話し合いは望めない、かといって唯を商品にするのもどうかと思う。「っく・・・・・・!」
 苦しむ孝太、と袖を引っ張る感触がして振り向く、唯だ。
 「唯?」
 「孝太、勝つよね」
 その言葉に疑問詞は無い。孝太は唯の目を見た後。
 「ああ、必ず」そう言って夜叉を見た。って、了解しているしこの三人、待てよとシンが言う間もなく二人は掛け声を始める。「「じゃん、けん」」
 そして――――
 「「ぽん!」」






 じゃんけんが済んだあと、四人は教室に戻り、黒板に結果を書いた。
『ステージ、ゲット!』

 でかい文字でそう書いて下駄箱へと歩く、靴を履き替えた所でシンと葵は別の用があるからと反対の方へと歩いて行った。いまいつもの帰り道を歩いているのは孝太と唯の二人だけ、ふと空を見上げると孝太は考えた。(斑鳩のやつ、あんなじゃんけんをしたからってこれは無いだろう)チラッと隣を歩く唯を見る、そしてまた空を見る。つまり二人で話し合えということだろう。孝太のいい加減な選択に自分を振り返ること。それがシンの伝えたい事だった。(確かに唯が了承しちまったから勢いで勝負しちまったが、負けえたらどうなってたんだ俺?)一瞬自分の目の前にシンが刀を構えているのが見えた気がしてブルッと振るえた。(あ、ありえ過ぎて怖い)何て考えていると隣から声が。
 「ねえ孝太」
 「え?あ、ああなんだ」
 慌ててそちらを見る。
 「なんで、あの時違うって言わなかったの」
 「え?それって――」何の事だと思った、首をかしげる孝太。「ほら、最初に夜叉君があたしを見て『お前のか』って、そのとき違うって言わなかったけど、どうして」ああ、と思い出したように頷いて唯を見た。「あれか、あいつがな、お前を見ていたときの目がないつもと違っていた、こいつ惚れたなって思った、だから言わなかったんだ、違うってさ、結局はばれてこれだけど」そう言ってアイコのすえ勝ち星を掴んだチョキを見せる。「だから、どうして言わなかったの、違うって。あたし実際孝太とは付き合ってないよ」唯に言われると確かに言った、言わなかった所で別段何も変わったわけではない、う〜んと考える孝太が出したのは。「もしあそこでさ、俺がノーっていったらさ、夜叉は多分即座に付き合ってくれって言ったと思うんだ、実際そういうのを何度も見てきたし、それでお前がオーケーしたらさ多分苦労するなあって考えたんだろうな俺」
 「なんで?」
 「唯はさ、不良と付き合っても多分楽しくないんじゃないか、って思ったんだろうな俺は」
 「思ったばっかりだね」
 「仕方ねえさ、実際何考えてたか自分でもよく解らなかったし」そう言うとまた空を見た。「そうか、そうなんだ。孝太は心配してくれたんだね!」ありがとう、といって孝太に飛びつく。
 「おっと、別にそう言うわけじゃ・・・・」
 「あ、という事は孝太は勝ったんだから商品のあたしは孝太のかな?」あ、と孝太は唯を見て止まった。一瞬色々な事が頭をよぎる。(まあ、それはそれで・・・・・いいかも)
 なんて考えた。
 「あ、いま変な事考えたでしょ孝太」
 「なっ!か、考えてねえよ別にっ!」
 「あー、顔が赤い、やっぱり考えてたんだ」
 「だからそんなんじゃねえっての!第一それは夜叉が勝った時の条件で俺が勝った時はステージの権限しか約束してなかっただろうが」そう言えば勝った時の条件として孝太はステージの他には何も言っていない、夜叉が唯を商品に選んだ時も。「それに、お前だって商品として扱われたら嫌だろうが、付き合ってほしかったら言葉で言えば良いんだよあいつも」と、夜叉に悪態をつく孝太、その様子を笑いながら唯は見ていた。
 「ありがと」もう一度唯は小さく言った。
 「ん?何か言ったか」
 「べっつにー、それよりもね孝太、これ」歩きながら唯は制服の内側から何かを取り出す、ネックレスのような輪の先に取り付けてあるのは―――「それって、俺がやったキーホルダーか?」孝太にも見覚えがそれはいつか唯と入ったカジノ専門店の店主が唯にくれたと思われるダイヤモンドのイミテーションキーホルダーだった。「あ、今はネックレスにしてるんだけどね、キーホルダーのままだと何かしっくりこなくて。どお孝太?」
 「どうって・・・ああ、似合ってるよ」
 「本当、わーい、これに変えて正解だったんだ」誉められて嬉しかったのか唯はぴょんぴょんと飛び跳ねる、それを見て孝太も笑った。「まあ何にせよ、ステージの確保も済んだ事だし、明日からは授業と平行して文化祭の準備かめんどいな」
 「いいの、それが楽しいんだから、それよりも早く帰ろうよ暗くなってきたし」
 「そうだな」二人は足早にその場を後にした、空はもう暗くなり秋の様を見せていた、二人がいた場所には暗がりの中自分を主張するかのように電灯に明かりがついた。「見つけました、アレがカギですか」電灯の上にたたずむコート、光に反射してアタッシュケースが光った、目的の物を見つけたそいつはまるでそれが当たり前のように姿を消した。明日から数週間に渡り準備が始まる文化祭、学生の祭りと並行するように別な祭りも準備が進められていた。空には星が見えている、その星を隠すように大きな陰と小さな影が横切ったような気がした。その直後、大きな獣の遠吠えが夜空に響いた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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