「(ああ、そろそろ限界だ・・・・)」 孝太は言葉に出すのも面倒くさく頭で呟いた。限界、と言うのは孝太の気持ちが折れそうなのではない。この状況をどう普通に切り抜けるかだった。他にもこのまま唯の隣にいて理性を保つ事が出来そうに無いと言う事に他ならない。 「(なんか、最初から普通に脱出するなんて不可能だったんじゃねえか)」 扉を見ながら孝太は眠い目をこすった。隣では唯がまだ裾を掴んでいた。 「(どうする、マジで最終手段を使うか、この時間ならばれそうに無いし)」 そう思って時計を見ると一時半だった。確かにこの学校には宿直の先生は置いていない、だからどうだと言うのだろうか。孝太が時計を下ろした時唯の声が聞こえた。 「何か言ったか唯?」 唯は孝太を見上げた。 「(が、我慢だ)」 平常を保ちながら孝太は唯を見た。 「少し話そうかなって、ちょっと落ち着いたから」 そうかと答える。 「何でも構わないから言ってみろ」 そう言うとうんと返事を返した。 「じゃあ、さっきの部活の事とか」 「部活?剣道か?」 「うん、そのこと」 唯は掴んでいた裾を離した。 「さっきの試合って練習なんだよね」 孝太は少し考えると乱取りのことを思い出した。 「そうだな、乱取りって言う個人同士の練習だ」 そうなんだ、そう言った。 「でも、私の見ていた時みんなが三回くらい同じ事を繰り返していたのに何で孝太だけ一回だったの?」 唯は疑問に思った事を言った。ああ、あれか。孝太は思い出したような口ぶりで答えた。 「そりゃあ主将は強いからな、マジで行かないと一瞬で一本取られるからな」 「練習なのに?」 「そうだ、他の奴は練習かもしれないが、どうも主将が相手だと気が抜けないんだ、つうか俺が練習なのにいつも本気を出すから主将が合わせてくれたんだろうな」昔の記憶を辿るように孝太は一つ一つを唯に伝えた。 「だから、いつも一戦で終わっちまうんだろうな。一回の勝負が長すぎるんだ」 「そうなんだ、でも孝太が本気を出してもそれに合わせてくれるほど強いんだ主将さんは」 いつの間にか唯の顔には少しだけ笑顔が戻っていた。孝太と話していて元気が出たようだ。 「当然、戦いの正しい型も持っているんだぜ。斑鳩とまともに戦ったら互角かそれ以上だな」 そのあとも孝太は唯が飽きないように話をつないだ。その結果、孝太の目の前にはいつもの唯がいた。 「なんだ、元気になったじゃねえか」 「当たり前だよ、このぐらいでめげる私じゃ無いもん」 そう言って胸を張った。 「それに」 唯は続けた。 「それに慌てていて忘れていたけど私怒っているんだから本当の所は」 孝太は一瞬言葉に詰まった。唯が怒っている、多分冗談ではない。一体何に怒っているんだ俺が怒らせるような事をしたのか。 「俺、何か言ったか」 「何も言わなかったから怒っているの」 「どう言う事だ」 孝太はますます訳が解らないと言った顔で唯の顔を見た。どう考えてみても自分には思い当たる節が見当たらなかった。 「ほら、さっき格技棟から出るとき主将さんと話したでしょう」 「ああ、あれか」 確かに格技棟から帰るとき主将に呼び止められた事を憶えている、だがどこに唯を怒らせる所があったのか。あれがどうしたのか聞いた。 「孝太ったら私が孝太の彼女かって聞かれた時慌てもしないでいた時じゃない、慌てていたの私だけで孝太は冷静なままなんだし。『何慌ててんだ』なんて言われたときなんか私だけ子供みたいで恥ずかしかったんだから、まるで私なんて興味ない見たいなんだもん孝太」 そう言ってつんとそっぽを向いた。 「唯?」 孝太はまくし立てられた唯の台詞を整理して呼んだ。だが唯は孝太に向く事は無くどこか紅潮しているのが見えた。 「俺に慌てて欲しかったのか」 もう一度聞く。すると今度は少し孝太を見た。 「当たり前じゃん、普通女の子といて彼女かなんて聞かれたら否定するでしょう。何も答えないなんてまるで・・・・」 そのあとの言葉が続かず唯はごにょごにょと何か言っている。 「(なるほどそういうことか、俺が否定しなかったから回りが勘違いすると思って・・・)」 孝太が考えている間にも唯はブツブツと何か言っている。それを見て孝太は笑った。それと同時にある決意が固まる。 「なるほどな、俺が否定しなかったから主将に勘違いされたかもしれない。そう思ったのか」 孝太が反対側で何かをしている間に唯はうんと答えた。 「よく解った、でもな唯俺が否定しなかったのはお前に興味が無いからじゃないぜ、むしろ聞かれて否定したのは肯定の意味だったんだから」 孝太が立ち上がると同時にふせた唯の口からえっと声があがった。顔を上げると孝太は竹刀が入っていると思われる皮製の長い袋を持っていた。 「今、倉庫(ここから)出してやるからな唯」 そう言って皮製の袋に手を入れ、孝太は構えた。先ほどまで扉が鉄の塊に感じていた孝太はその扉を紙同然に見ていた。目を閉じ手に意志を集中させる。 「(・・・・あれ)」そのとき孝太は暗闇の中で何かを感じた。狙いを定めて一気に中から居合のように『斑匡』を抜き放った。 「(白い刃)」 心で呟くと宣言通りの白い刃が飛び出し扉にぶつかり消えた。一瞬の沈黙のあと、扉から斜めの線がはえその線にしたがって扉は二つにわれた。がらんがらんとけたたましい音と一緒に。孝太は自分の手を見て思った。 「(操れた?・・・・)」 確かにイメージした刃と同じ物が飛び出したのは紛れも無い事実。だがそれよりも今は唯だった。 「よし出るぞ」 孝太は斑匡を鞘に収めて足元に置いた道具一式をかつぎ安全かどうか先に倉庫から出た。 「よし、大丈夫だな。来てもいいぞ」 唯は崩れた扉で足を怪我しないようにゆっくりと中から出てきた。その間に孝太は扉が開かなかった原因を探していた。 「ん、レールにはまっているのは・・・・棒か」 孝太はレールの間から棒を拾い上げると草むらに放り投げた。「これでよし」頷く後から殺気が漂ってきたのを感じ素早く振り返った、そこには怒り心頭の唯がいた。 「ど、どうした唯、何を怒っているんだ」 「どうしたじゃ無いわよ、何で出られるのよ!」 物凄く怒りながら唯は孝太に食って掛かった。 「どうしてって、そりゃあこの斑匡で扉を切ったから」 「だから、何で早くそれをやらなかったのよ、私怖かったんだからね!」 「そ、そう言われてもな。俺だって普通に出られる努力をしたんだぜ、手を切ってまでよ。これは最終手段だったんだ。俺だって何も壊さないように出たかったんだ」 「そんなの考える必要ないわよ、悪いのは扉が閉まらなくなるような所に棒を置いた学校の責任でしょう、何で孝太が気を使うのよっ!」 孝太は唯の怒りのすごさと正当な意見に何もいえなくなっていた。 「それになによ最後の『あれ』は、否定しなかったのは肯定の証拠って・・・・それじゃあ孝太は・・・・」 どんどん声が小さくなっていく唯を飽きる様子も無く見る孝太 「お前、見ていて飽きないな」 と口にしている。それが唯の怒りに拍車をかけた。 「ちゃんと聞きなさいよ、もうこれじゃあ孝太が怪我した時の私の涙が浮かばれないわよ」 だんだん言う事が滅茶苦茶になってきたと感じた孝太はそろそろ止めに入ろうとした時後から聞きなれと声が二つ。 「孝太!」 「唯!」 シンと葵だった、振り返りよお、と声を掛けたが孝太は突撃してきたシンにラリアットを喰らった。 「ぐはぁ!」 そして倒れる間もなく孝太の首をしめた。 「まさか倉庫で行うとは、この鬼畜野朗、強姦、獣姦、犯罪者ああああ」 孝太は訳が解らずタップを繰り返している。 「大丈夫唯、何もされていない!?まさかもう孝太に取られちゃったとかないよね」 葵も葵で相当混乱しているようだ。唯は訳がわからず体を確かめる葵を唖然と見るだけだった。流石にスカートをめくられた時は抵抗したが。
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