「どうだ唯、あったか」 孝太はたちのぼる煙をかき分けながら自分で倒した板の束を起した。目当ての板が見つからず他で探している唯に聞いたのだ。 「だめ、そんなに大きな板なんか見つからないよ」 唯も煙をかき分けながらお手上げのポーズを取った。そうかと孝太も頭を掻いた。 あれから小一時間ほどばかり探した、倉庫には狭いながらも大量の平板が立てかけてあるのですぐにでも見つかると二人は高をくくっていたがどうも板が多すぎたようだ。何枚も重なった板は退かすのも一苦労で動かすたびに埃が視界や呼吸を塞いで余計に疲れる事となった。自分達が探しているのはステージ用の大きな板なので下に敷いてあろうが立てかけてあろうが目で見れば判るはずなのだがどうやら孝太が原因らしい。 「どう見ても一枚で八メートルなんて大きさの板なんか無いよ」 唯がまわりを見た後孝太に向き直りそう口にした。どうやら孝太はステージの大きさを大きく見積もってしまったようで横の幅が八メートルと言う非常識な長さの板を唯に探させていたのだった。だが少し考えれば判るようだがこの倉庫、どう見ても奥も高さも八メールも無い、どう見ても奥は七メートルぐらい、高さも大人二人が肩車をすればぶつかってしまうほどなのだ。 「やっぱり無いか、仕方が無い別な板を探そう」 「そうだよ、っていうか最初からそうすれば」 そこまで唯が言ったとき大きく息を吸ってしまった。その結果大量の埃が肺に送り込まれ唯はむせ返ってしまった。 「まずいな、ドアを開けたほうがいい」 板を動かしすぎて埃が頭の上まで待っている、壁に開けられている空気穴だけではちゃんとした換気は出来なかったようだ。孝太は立てかけるのをあとに回した板を問答無用で踏みしめながら入り口へと歩いた。 「だいぶ暑くなってきたからな、丁度いいかな」 扉に手を掛け力を入れた、がんと硬い音がして扉は止まった。 「は?」 素っ頓狂な声が孝太の口からあがる。そんなバカな、と孝太はそこからもう一度力を入れた。だがびくともしない。 「どうしたの」 なるべく息をしないように唯が尋ねた。孝太は扉から手を離し唯に振り返った。 「開かない」 一言そう告げた。 「え?」 唯も同じような声を出す。慌てて扉に手をかけてみたが孝太の力でも開かないのなら唯がやっても無駄だろう。結果唯は力なく扉から手を離した。 「どうするのよ」 孝太に向かって文句を言った。だがどうする事もできない二人は沈黙した。 「仕方が無い誰か来るまで待とう」 孝太はそう言って時計を見た。 「やべ、無理かも」 小さくそう続けた、狭い倉庫での小さな声は隣にいる人間には良く聞こえる、唯も時計を覗き見た。 「十時過ぎじゃん、皆帰っちゃったよこれじゃあ」 唯がその場にへたり込んだ。するとまたむせた。埃は下のほうでまっている。 「これ使え、ちょっとはまともだろう」 そう言ってハンカチを唯の口にかぶせる、それを受け取って布越しに礼を言った。 倉庫は頑丈そうで壊す事はできそうに無い。がんと孝太は扉を叩いた。 「どうするかな」 慌てた様子も無く今の状況を整理している。この状況下で慌てれば取り返しがつかないことになる、出るよりもまず落ち着く事が大事な事だ。 「唯」 孝太が呼ぶとしゃがんだかっこうで見上げた。 「絶対出してやるからな」 孝太は笑ってそう言った。
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