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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第21回   第二週11
部室、まあ隠し部屋と言うのが正しいか。この部屋はこの学校の建設者が謝って作った窓も無い部屋であるのはどこの教室にもついている引き戸だけが付いている。四階の廊下を突き当たった曲がり角、そこは行き止まりとなっているがそこにこの部屋の入り口が存在した。しばらくはこの部屋も講義室として使っていたようだが夏場は熱気がこもると生徒からの苦情が相次ぎ校長自ら鍵をかけた。好奇心旺盛な葵はこの学校の入学当時に学校を探索中に発見。すぐさま校長に聞きに言った。事情を知った葵は貸してくれないかと申し出ると校長はあっさりと承諾。理由はその部屋を知る生徒が全員卒業しているからだった。だが校長は今の生徒達にも公表していないのでばれないように使って欲しい、そういう条件を出した。それを飲んだ葵は友達の唯とその唯を通し知り合った孝太と共に部屋を改築もとい改造して言った。中は自分達の教室と変わらないため会議用の長いテーブルを四つと椅子をいくつか用意し中を整えた。残りはばれないための工夫だったがこれはすぐに解決した。行き止まりを作ってあった理由は掃除用具入れを置くためだった。ならこれを利用しようと葵が言った。後ろを切り抜き、中を空にして入り口の戸を外した後これを釘で打ちつけた。もともと曲がり角にある上に部屋まで行く廊下沿いには部屋が存在しないのでだれも行き止まりと知っているこの廊下までこようとは考えなかった。後にこの部屋は校長が顧問を任される図書部となった。だから今も一部増えたが誰にもばれずにいた。ちなみにこの部屋の存在を知っているのは先の三人とあとから加わったシン、銀、ローゼンの三人である。今のところ全員が心配しているのは銀が口の軽い薫に話さないかと言う事であった。今のところその心配は無い。
「ねえ、シン君」
そんな秘密の図書部で看板を作っていた二人。作業の最中にシンを呼んだのは葵だった。
「どうした」
葵に呼ばれ手を止めたシンは顔を上げた。
「あ、作業しながらでいいよ」
そうかと二人は作業を再開した。「で、なに」シンは聞き返した。
「さっき私ねローゼン君を、ローゼン君、って言ったんだけど」
「なんかややこしいな、それで」
シンは苦笑しながら先を聞こうとした。葵もうんと言って続けた。
「いつも思うんだけどね、ローゼン君って歳はいくつなのかな」
それを聞く文字に色を塗っていたシンの手が止まった。顔を上げると葵もこちらを見ていた。
「確かにそうだな、高校生・・・・外人ってゆうことで背は誤魔化しているかもしれないけど年齢は聞いた事無いな」
でしょう、と葵は言った。
「ローゼン君って言うとね違和感があるの、年上の人に君付けをしているみたいで」
確かにあいつの言うことは冷静と言うか大人じみている事がある、たぶん二十代前半といった所か。シンは予想を立てた。
「多分俺たちより年上だろうな、少なくとも」
だよねえ、と葵とシンは天井を見上げた。葵は時計に目をやった。時刻は五時半を回っていた。部室へ来たのが三時半だった。丁度二時間経ったが未だに文字を塗っているほど遅れているのには理由があった。二人は看板用の板を取りに行くため木材置き場にある倉庫の鍵を職員室へ取りに行った。
「私が案内するよ、こっち」
倉庫への場所は葵が案内してくれた。この学校の地理を把握しきれていないシンにとって学校の知識を深めるには丁度良かった。
倉庫は校舎の西側に面している。西側には東側と違い裏門へ抜ける道はなくゴミ捨て場を作るために壁がある。その倉庫もあまり広くはなくこじんまりとしたプレハブ小屋だった。
「ここだよ」
案内されたシンが見たのは四角い形をし古びた色の重そうなどこにでもあるようなスライド式の赤い扉が一枚立てかけてある倉庫だった。中に入ろうと葵がシンから受け取った鍵で錠を外し扉に手をかけたがすぐにガツンと言う音が聞こえた。「あれ、開かない」
葵がう〜んと唸りながら力いっぱい横へ引っ張ったがやはりびくともしなかった。
「じゃあ俺がやるよ」
そう言ってシンと交代した。扉はほんの少しだけ隙間が出来ているが中は見えない。シンはそこへ手を入れ同じ容量で引いた。だがやはり開かない。おかしいなともう一度、今度は力いっぱい引っ張る。だが結果は同じだった。どう言う事かと二人は顔を見合わせた。そんなことしていても答えは出ないので仕方なく職員室へ出向いたのだった。
「すみません、扉が開かないんですけど」
だが担当の教員どころか全員が出払っており仕方なく一度部室へと戻った。
「三十分ぐらいしたらもう一度行こうか」
シンがそう言うと葵もそうだねと頷いた。三十分がたった、二人は職員室へ出向くと今度は教師達が数人いた。事情を話すと一人が出向いてくれた。だが。
「こりゃあむりだな、すまないが修理を頼むから今日の所は中止にしてくれないか」
そう言われた。開かないのでは仕方が無い。二人は教師に俺を言うと修理を頼むためにいそいそと職員室へ戻っていった。すでに待ち時間もいれて一時間は経っていた。空も赤く染まってきた。このまま作業の無いまま終わるのかと思ったときシンはふと扉のレールに目をやった、暗くて見え難いが何かが倒れていた。片膝をついてしゃがんでみた。レールの長さとほとんど同じサイズの棒が挟まっている。それを見た瞬間シンは声を上げていた。
「どうしたの・・・・・・あ」
葵も覗き込んで声を上げた。シンがそれをレールに合わせて立たせた。葵が扉に手をかける。ガラガラと扉が重い音を上げてスライドした。故障でもなんでもなかった、ただ棒が引っかかっていただけだったのだ。
「これだけの事で」
肩を落としてシンが言った。
「元気出して。さ、板を運ぼうよ。唯と孝太が来る前にさ」
落ち込んでいても時間は戻らないのでシンは棒を端に立てかけて葵と中に入った。中は薄暗くて埃が立ち込めていた。窓は無く真空状態を防ぐために壁の上に開けられた長方形の空気穴があるだけだった。通れてネコが限界だろうそんな大きさだった。風通しは良いというよりも隙間風があった、外の風が面積を小さくして二人を襲った。
「うう、寒いね」
葵が肩を抱いて言った。
「そうだな、早いところ板を持っていったほうがいいな」
そう言ってシンは立てかけてあった数枚の板の所で品定めを始めた。ステージの端から端まで約五メートルほど、チャンバラを中心で行うならその上に位置するように長い看板が必要となる、余裕を持っても四メートルは必要だろう。立てかけてあるのは大きくても三メートル半、すこし頼りないか。どこかに無いかと探していると「あったよ」と後から葵の喜ぶ声が聞こえた。
「ああ、丁度いいな」
葵が見つけたのは角のほうで倒れていた板だった。長さを測るためにシンが大またで歩くと四歩と少しあった。
「よし、これなら四メートルはある。お手柄だな葵」
シンに誉められると「えへへ」と喜んだ葵。一人では無理なので横に立たせたあと二人で運ぶ事にした。
部室へ戻ると板の長さを測ると四メートル四十五センチと判った。文字の余裕を出すため四メートル二十センチ切る事にした。これは絵のスペース確保のためである。
そうこうしているうちに二時間が過ぎていたのである。ここまでの作業は板の長さを決めてローゼンが書いた文字を均等に配置し鉛筆で文字の形を書き、それを塗っている途中だった。
「あ、そうだ」
作業を再開していると何かを思い出したのか葵が声を上げた。
「ん、今度はどうした」
シンも手を止めた。
「すぐ作業に入っちゃったけど倉庫の鍵開けっ放しだったよ」
そう言ってポケットから錠と鍵を取り出した。
「そうだったな、俺も忘れていたよ。仕方が無い、帰りにでも閉めていこう」
そう言ってシンは筆を塗料に漬けた。葵もたいした事ではないと判断しそうだねと同意して塗りかけの文字を塗った。
だがこの選択が些細な事故を巻き起こすなど知る由も無かった二人だった。



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Novel Editor by BS CGI Rental
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