四人は混乱した、何を混乱したってそりゃあもう混乱も混乱大混乱だ。なぜローゼンがここに?いや背が高いとは言え学生に見えなくも――――――――いや、絶対に見えない。外人と言う要素で実年齢を隠しているようにしか思えない、ないが、なぜにこのクラス?と、脳裏にいつぞやの言葉が蘇る。「あれはこういうことだったか」頭を押さえてシンは隣に座るローゼン――――なぜか席はここが良いとローゼンは言ったのだ―――を見た。 「何か言いましたか斑鳩君」 「いや、ただ、よりにもよってなぜこのクラスに………それよりおまえ歳はいくつだよ、絶対学生じゃないだろう」ホームルームに私語は厳禁なのだが聞かずにはいられなかったシンである。 「組織の決まりで歳は教えられませんが、そうですね何か楽しそうだと思ったのでこの学校に来ちゃいました」ニコニコと笑いながらそう言った。「来ちゃいましたって――――はあ、もういい後で聞くよ」手をひらひらさせて机に突っ伏す。チラッと机の横にかけてある刀を見た。実際は木刀袋で隠している。今は亡き斑鳩家当主つまりシンの父親が教えてくれた言葉はこうだ。『この刀を持つには多少のトラブルにも目を瞑れ』タイラントよりも隣にいる金髪が結構なトラブルだったりする。(確かに)父の言葉をかみ締め小さく頷いた。これ以上考えても仕方がないのでホームルームに耳を傾けることにした。このクラスには実行委員会の役員が二人いる、その二人が教壇に立ち司会をしている最中だった。 「それでは文化祭に向けて出し物を決めたいと思います、はくしゅー」 場を盛り上げようと強制的な拍手の注文。それに答える当たるけっこう祭り好きなのかもしれないこのクラスは。 「この出し物が決まらないことには文化祭はどうしようもないので沢山だしてください」中々に手馴れたしゃべりで始まった出し物決めは結構沢山の案が出てきた。食べ物屋から始まってお化け屋敷、射的、劇、映画館、喫茶店、貸衣装屋、とさまざまな物が出てきた。 「このくらいですかね、あとは」 「まてまて、まだ発言をしていないのがいるぞ」 「というと?」 まるでコント仕掛けのような二人の会話。このまま文化祭の出し物をこの二人に任せたらいいのではないだろうか、などと考えるシン。一人は名簿を見て発言をしていない生徒を探す。と、見つけたのかそこで目がとまる。 「斑鳩仲良しチームとローゼン君ですね」なんて一まとめにして数人の名前をはしょった。 「って、仲良しチームって何だよ」孝太が立ちあがる、いつの間にチーム編成をされたのか、シンと孝太果ては葵と唯、一まとめにされていた事実は唐突に耳に入った。孝太に怒鳴られた司会の一人。しばらく孝太を見ていたが片眉を上げてこう言った。 「いつも一緒にいるから」それは至極単純で納得のいくそんな一言、その一言で片付かれた、教室からは無言の賛成を促す頷きが、と言うことでここに斑鳩仲良しチームを作ることを宣言する。は、置いておいて…………「で、何か案はありますか?」司会がそう言うと、ほとんどの生徒たちが「喫茶店でいいんじゃないの」と言う声が聞こえて来た。理由は全員が参加できて係り以外は他の所に交代でいけるからだった。「はあ、では喫茶店でいいですか」と聞くと異議を唱える者はいなかった。だが、そこに意外な奴が手を上げた。 「はい」 「はい、えーとローゼン君」ローゼンだった。「どうぞ」司会が発言を許可した。ニコニコと立ちあがる。何を言うのか教室の視線がローゼンに向けられる。 「喫茶店の案件が決定と言う事ですね」 「そうですね」 「ですが、ただの喫茶店ではお客様が集めにくいと思います」よく意図がつかめない司会の二人は顔を見合わせた。 「どういうことですか」 「つまり、他にも目を引くような出し物をしないのですかという事です」なにをそんな面倒な事を、そんな視線が飛び交った。 「ローゼン、よく分らない、説明をしてくれ」シンが大雑把な案に説明を求めた。ローゼンは顔色一つ変えずに言った。 「はい、この学園では出し物の人気を競う、そういうシステムがあると聞いています」シンがそうなのかと葵に聞いた。 「うん、毎年生徒会が売上決算後に発表するの」 「なるほど」 「このクラスではそういうことを目的には」ローゼンが司会を見た。 「そうですね、あまりそういう事には興味が無いようですが」丁寧にローゼンに答えた。 「それは勿体無い。何でも今年のベスト三位に入ったクラスはそれぞれに賞金が出るようですが」ローゼンの一言で教室の空気が変わった。ざわざわと周りから言葉が聞こえて来た。どれも驚きの声だった。司会も驚いていた。 「そ、そうなんですか先生」 自然と司会は担任に聞いていた。 「よく知っていたな、理事長にでも聞いたのか」頭を掻きながら言った。ローゼンはナイショですと一言口にして座った。 「これを聞いても文化祭には力は入れないと?」最後にローゼンが尋ねるように言った。シン達もこれには驚いた。文化祭に賞金が出ると聞けば何が何でも勝とうと言う異議が沸いてくるだろう。ローゼンの言葉が引き金となった。喫茶店なんかやっていられるか、もっと迫力のある奴をやろうぜ。何処からかそんな言葉が飛んできた。回りもそうだそうだと賛成の声があがる。と、担任が立ち上がって教室を黙らせた。 「おほん、出し物は二つまで可能だ。それは知っているな。生徒会の話では公平を規するため、二つ以上の出し物クラスのどちらか一つを無料のイベントとし片方の出し物の宣伝にする事が出来るそうだ」 「ってことは、何かの出し物で楽しんでもらった後喫茶店で一服してもらった方が売上も大きいな」 今まで黙っていた孝太が楽しげに言った。 「そうですね、それはいい考えです」ローゼンが孝太を誉めた。 「そうなると、客を運動させて疲れさせたあと喫茶店に集める、そういうことか」司会が頷くと思い出したようにそれならと言った。司会の一人が言ったのは校庭の端にある大型ステージのことだ、昔の卒業生が用意したものだが余りにも使うクラスがないので今では忘れ去られようとしていた、それは今現在も同じだ。あれなら客参加のゲームが出来るそういうことだった。問題はそのゲームをどうするかだった。何分このクラスにはシンが転校するまでは葵が少し目立っていただけでほとんど目立った事が無い。故にいきなりゲームを考えろ、それも全く新しい客参加の楽しめるゲーム、いきなり出てくるような物ではなかった。 「う〜ん、PRと言ったら外、ステージを使ってなにか運動になって楽しめて、客の集まるゲームか・・・・・」シンがまとめるように言うと、唐突に声があがった。「あ、そうだ!はいはい、あたしに考えがありまーす」元気よく手をあげたのは唯だった、いきなりの発言に両側の葵と孝太はビックリしている。 「どうぞ水野さん、インパクトのあるやつよろしく」期待の声で司会が言った。「はい、外のステージを見やすいところに移動させて、お客参加のチャンバラをすれば言いと思います」これは中々に面白そうなのか、それとも説明が簡単そうなのかおおーと声が上がった。確かに何もでないよりマシなのだろう。司会が続ける。 「細かい説明をお願いします」 「このクラスから戦う人を二人決めます、当然無料で。それでゴム製の棒でチャンバラをします。あ、当然一対一でです。それで二人を連続で倒せた人には豪華な賞品をプレゼントです」これは簡単そうだが。「なぜに二人なんですか?」教室の後から質問が飛ぶ。「一人だとすぐに終わったら詰まらないから」なるほどと手が下がる。「賞品は何ですか?」別な場所からそんな質問が来た。たしかにこれは気になるいくらゲームが楽しそうで無料でも客にメリットが無ければ見てはくれまい。それにそのメリットも目立ったものでなければ効果は薄い。「当日までのお楽しみ―――――と言いたいですがここにあります」そう言ってごそごそと鞄から取り出したのはよくテレビとかで賞金を入れている白と赤の袋に金と銀の帯がついたあれだ、いかにも豪華そうな。「唯、なんだそれ?」机に肘をついて手のひらに顎を乗せている孝太が唯と袋を見上げていった。 「これは先日の商店街の福引で手に入れた期限間違いの温泉旅行券です」それはすごいと教室から声が上がる。が、何か言葉が変だった。「確かに福引で旅行券を当てたのはすごいですが、期限間違いとはどういうことですか?」それを指摘するかのようにローゼンが興味深そうに聞いてきた。「実は当てたのまでよかったんだけど、旅行券が十月のツアーになっていて困っていたの、だって十月は休みがないから旅行は無理だしお金に換えても都合よくそんなお店も無いでしょうだから賞品にしようと思って持ってきたの。もちろん商品にしてもいいって親からは許可をとっています」てへへと笑う、なるほどと納得してローゼンが頷く。「分りました、出し物と賞品に意義はないようですが、チャンバラに強い人がいるのですかこのクラスに?」わざとらしくローゼンは笑いを強めて言った。ゾクリ、と背筋が総毛立つ生徒二人。この基本的な質問に教室がざわつく、確かに下手に普通の学生を出場させたら一つしかない商品が持っていかれて終わってしまう。チャンバラ=刀、背筋を立たせたまま二人はいやな予感を感じた。そのまま唯に気づかれないように身を低くして教室の出口まで行こうとしたが――――――無駄なのは判っていた。「いますよ、ね、二人とも!」唯は一喝するように教室の前と後ろの出口に声をかける、びくっとなって二人は立ち止まる、まあ当然と言えば当然か剣道部の孝太とそれに勝ったシンである、クラスから意義の声はない。「生贄、ですね」 身も蓋もないことをローゼンは言った。「何で俺なんだよ」もともと逃げられないことを知っていたのかすたすたと席につく。 「だって、剣道部の人って孝太しかいないもん、だめ?」 「いや、だめ・・・・じゃないけどいまいちルールが理解できないと言うか何と言うか」 何かぶつぶつと言っている孝太に葵が声をかける。「簡単だと思うよ、剣道と一緒。一対一で戦うわけだし」ね、と後ろを見てシンに賛同を求める。 「まあそうだな、よく考えれば断る理由もない」 「じゃあ、決定ね、ほら孝太」 「たくわかったよ、今回はおまえのわがままに付き合ってやるよ」 孝太は観念したように頭をかいた。こうしてクラスの出し物が決まった。
・ 喫茶店
・ チャンバラ対決(参加無料・商品有り)
はたしてこのままうまく行くのだろうか?
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