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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第19回   第二週9
 「昼休み、終わりましたよ」
 ローゼンが言った。大文字に言われ外へ行く途中五時限目を伝えるチャイムを聞いた。
 「仕方ないだろう、呼ばれてんだから」
 孝太が言った。今大文字達はいない。どうやらもう外に行ってしまったようだった。
 「逃げないのですか」
 ローゼンはそう聞いた。二人ともそれは無いと言った。どうしてですと聞くと。
 「戻れば教室に来てまた迷惑を掛ける」
 シンが言った。
 「俺の辞書に『逃げるという』言葉は存在しない」
 孝太が偉大な人の言葉を変えて堂々と言った。
 「そういうお前はどうなんだ」
 孝太がローゼンに聞き返した。
 「僕は面白い方へ付きます」
 お前らしいよと孝太が言った。すると後ろから葵と唯が走ってきた。
 「三人ともどうするのよ」
 唯の第一声がそれだった。
 「そうだよ、ケンカなんかしたら先生たちに怒られるよ」
 葵が心配そうに言うと孝太がそうだよなあ、と腕を組んだ。廊下を歩くと生徒の姿は見当たらない。全員教室に入っているのだろう。ついに下駄箱まで来てしまった。とその時孝太がそうだと言った。どうしたのだろうと全員が思った。
 「ローゼン耳貸せ」
 なんでしょうと正直に孝太に耳を貸した。なにやら相談している。その間残された三人は顔を見合わせた。相談が終わると孝太は頼んだぞと言ってローゼンはそれを承諾した。
 「よっしゃ。行くぜ」
 と靴に履き替えた孝太、シンがちょっと待てと止めた。
 「二人とも、危なそうだし教室に帰ったほうが」
 「待った斑鳩、二人も必要なんだ」
 「しかし」シンはケンカになるかもしれないなら葵と唯は非難させた方が言いと考えたが孝太がそれを止めた。
 「大丈夫だ、絶対危険な目には合わせねえよ」
 そう言って親指を立てていった。シンは二人を見た。唯は少し考えた後「孝太が大丈夫って言うなら私も行くよ」そう言って靴に履き替え始めた。
 「そうか、葵はどうする。あれ」
 シンが葵を見たがそこに葵は居らずシンは一瞬あたりを見た。振り返ったところに葵がいた、靴を履き替えていた。名前を呼ぶと葵は笑っていった。
 「大丈夫だよシン君もいるし」
 息を吐いたあとそうかといって自分も靴を履き替え始めた。
 外に出ると大文字が既に居た。隣には小柄なあの男も居た。
 「遅かったな、まあそのおかげでギャラリーは出来たが」
 そういわれて耳を澄ますとざわざわと騒がしかった。
 「何かと思えば、野次馬ですか」
 ローゼンが校舎を見ると窓から生徒達が見ていた。はははと孝太は楽しそうだったまるでこうなる事に意味があるような感じだ。
 「お、なんだ夜叉もいるじゃねえか」
 孝太は目ざとく隣の教室から乗り出している夜叉に気づいた。夜叉も孝太に気づきにやりと笑った。
 「よお、孝太。何やってんだよ」
 夜叉は楽しそうだった。
 「見りゃ解るだろう。布教活動だよ」
 なんだそりゃと夜叉は笑った。
 「お前もどうだ、最近体を動かしていないだろう」
 孝太がいきなり夜叉を誘った。
 「止めとくよ、俺とそいつは馬が合わないんでね」
 そう言って手を振った。すると夜叉の口で何かが光った。ピアスだ。
 「そうかよ、じゃあな」
 そう言うと孝太は振り返った。
 「あいつ、見るたびにピアスが増えていくな、ギネスでも狙っているのか」
 孝太が頭を掻きながら言った。
 「てめえがすんだら今度は夜叉の野朗をしめねえとな」
 大文字が下卑た笑いと一緒に言った。それにしても野次馬が多すぎるなとシンが言った。確かにこの分だとすぐにでも教師達が止めに入るだろう。
 「いくぜ」
 唐突に大文字が走り出そうとした。
 「待てよ」
 それを孝太が止めた。
 「んだよ、いまさらびびったのか」
 大文字が苛々しながら言った。
 「違うな、どうだ武器を使わないか」
 突然の申し出に大文字はどう言う事だと拳を下ろした。後ろで見ていたシンが何言っているんだと小声で言った。
 「まあみてろ」
 それが孝太の答えだった。
 「武器だと、何を使うんだよ」
 大文字が聞き返してきた。
「お、乗ってくれるのかい。ありがたいねえ」
「さっさと言いやがれ」
孝太は大文字を逆なでした。
「こいつだよ」
そう言っていつの間に持っていたのか木刀を大文字に渡した。それを受け取ってなんだこりゃあと大文字が怪訝な表情をした。木刀をいじっている大文字を尻目に孝太は自分の武器を取り出した。長くて黒くてゴムで出来ている。
「スポーツチャンバラ?どう言うことなの孝太」
唯が後ろから孝太を突いた。
「まあみてろ」
またこの答えだった。すると後ろから教師の怒鳴り声が聞こえて来た。ついにこの騒ぎが教師達の耳に入ったようだ。
「これはなんの騒ぎだ、場合によっては全員停学だぞ」
そう怒鳴りながらこちらへ来るどう見ても体育教師だった。孝太はしめたといわんばかりの顔をしてローゼンに行けと言った。解りました。ローゼンも了解して教師の所へ来る。
「何をしているんだ」
「まあみてろ」
 答えを口にしない孝太は自信満々に言って見せた。ローゼンが体育教師と何か話しているのが見える。しばらく話していると教師は腕を組んで頷くのが見えた。そして「やりすぎるなよ」それだけ言って校舎へ入っていった。
「な、なんで」
三人が声をそろえていった。
「なんかしらねえがあんがとよ」
ボッコボコにしてやるよと大文字は付け加えた。
「よし、始めるぞタコ頭」
孝太がいきなり大文字に変なあだ名をつけた。何かが切れる音がした後「殺す」そう言って走ってきた。
「よっしゃあ」
孝太も構えながら叫ぶ。もう取り返しがつかないのでシン達は端へ避ける事にした。
「おらあああああ」
大文字が木刀を振りかざして孝太の前まで来た。その勢いのまま木刀を振り下ろす。頭に落とせば確実に骨折はするだろう。
「孝太っ!」
唯の声がした後孝太は木刀を転がって避けた。直線攻撃が癖の孝太は服を叩いて立ち上がる。
「くそ」
片手で木刀を地面に叩きつけて大文字が言った。
「危ねえ危ねえ、いい腕してんじゃん『タコ頭』」
タコ頭を強調して中指を立てた。
「ぜってえ殺す藤原」
鬼の形相となって大文字が走り出した。それに合わせて孝太も走り出す。
「もらったあああ」
木刀を振り下ろす前に孝太は大文字の後ろへ素早く回りあだ名の特徴である頭を叩いた。当然ゴムなので痛くもかゆくも無いのは当然である。攻撃力よりも孝太は別な事に集中していた。しばらくその繰り返しだった。大文字が突進して孝太が避けて叩く。十分くらいだろうか。客がいいぞいいぞと孝太を応援し始めた。攻撃力が無い武器を持っている孝太を応援するのは必然といっても良いだろう。だがこれがどう言うことになるのだろうか。そうシンが呟いた時不意にローゼンが言った。
「文化祭のためですよ」
「文化祭、どういうことだ。さっき何を孝太から聞いたんだ」
シンはこの際全てを聞く事にした。ローゼンも良いですよと話し始めた。
「先ほど彼が言ったとおりこれは布教活動ですよ。藤原君はですね、スポーツチャンバラを大々的に宣伝するために彼を利用しているですよ。私が頼まれたのはそう言った布教活動をするという面目で先生方を言いくるめて欲しいそういわれました」
なるほどとシンは納得した。確かに教師公認の上に使っている武器を公表してのこの状況ならだれもケンカではなくアピール活動といっても怪しまれそうに無い。
「孝太の奴、こういう事には頭が回るよな」
「彼の予定では、『タコ頭』・・・失礼、大文字さんでしたっけ。彼を倒したあと野次馬の皆さんに向かって大声で言うそうですよ『これは我がクラスが行う文化祭のイベントの一つです』って」
「そうか、それならちょっとした注意でお咎め無しだね」
葵がうれしそうに言った。唯も続いた。
「孝太頭いい、がんばれー」
応援を強める後ろでローゼンが言った。
「それと、先ほど文化祭のためといいましたけど」
ちらと孝太の叩く姿を見ながら言った。
「多分個人的な目的もあると思いますよ」
「どういうことだ」
シンはローゼンと同じく孝太を見た。
「彼は水野さんのためにも、いえ水野さんのためにやっているんですよ」
応援していた唯が振り返った。
「私?何で」
「彼は水野さんの考えたこのイベントを最大限に盛り上げるつもりなんですよ。あなたの発言の努力を無駄にしないために頑張っているんですね。ですから危険かもしれないこの場に二人を連れて来たんでしょう。発案者がいなければ盛り上がりませんから」
「孝太・・・」
唯は応援を止め大文字をあしらう孝太に目を向けた。その目には何かの喜びが移されていた。
「どうした、全然当たらないぞ『タコ頭』」
「く、くそ。ざけんな」
ただ闇雲に振るだけの木刀は剣道をしている孝太にとって止まっているのと何ら変わりない。大文字にも疲労と同時に苛々が積もっていった。すると孝太に見えないように小柄な男に指でサインを送った。
「そろそろ終わらせるぜ」
そう言って終わらそうと思ったとき不意に衝撃が走った。えっと思ったときには孝太は横に突き飛ばされていた。何があったのかシンはそれを見ていた。簡単なことだった。サインを受けた小柄な男はこっそりと孝太の後ろへ周ったと思ったらいきなり走り出しタックルをかましたのだ。
「孝太」
驚きと一緒に名前を呼んだ。これはまずい、このまま孝太がめった打ちになったら教師が殺到するだけでは収まらない。最悪の場合イベントまで中止となりかねない「どうしたら」そう言うとポンと肩を何かで叩かれた。振り返るとローゼンが呼びのスポーツチャンバラと木刀を持っていた。
「よくあったなこんなの」
そういうと「備えあれば憂いなし」そう言った。それを受け取ると走り出した。
「シン君、刀」
葵が呼び止めるとああそうかとシンは刀を投げた。それをしっかりと受け取る。
「やっと――止まったか――、はあ」
大文字は息を切らした状態で孝太を見下ろすとにやりと笑った。
「あーあ、もう終いか」
窓際で見ていた夜叉の声が聞こえて来た。まずいなと孝太は呟いた。
「じゃあな」
大文字が再度木刀を振り上げる。ぶんと風を切る音、だが次にはカンという音が聞こえた。目の前に木刀が二本、シンだった身を屈め孝太の真上に突き出した木刀は見事大文字の攻撃を防いだ。誰もが息を飲んだ瞬間だった。うおおおおと野次馬から歓声が沸いた。本気でやっているだけあって見るほうもハラハラだったであろう。
「またてめえか」
大文字が悔しそうに言った。だがシンは小柄な男の方を睨んだ。
「勝負は真剣に、だろ」
一瞬の殺気を感じ男は頷いた。そうしてシンに木刀を渡されると少し戸惑った顔をしたがへっと笑うと強気な顔を見せた。孝太も立ち上がり構えなおす。
「こんどこそ殺してやる」
大文字が疲れた体を引きずって言った。こちらの心配は無いだろうとシンは思った。すると問題は小柄な方だった。大文字より機転が利きそうだったからだ。多分力で押さえられているのだろう。
「お前も苦労しているのか」
シンが言った。
「ははは、そうかもな。ってことはあんたもか」
まあな、とシンは言った。
「俺は別にケンカなんかしたくないんだ、こういっちゃなんだがやめる気はないか」
取引といわんばかりにシンは男に言った。
「そうしたいのは山々だが、俺も立場ってものがある。だから手加減はしない」そう言って木刀を振った。
「おっと」
シンはそれを後ろへ飛んで避けた。
「仕方ないか」
シンはそう言って男と戦う事となった。男が木刀を振り回してきた。確かに大文字よりも腕がいい。シンは一歩ずつ後退しながらゴムの刀でそれを流してゆく。
「くそ、何なんだおまえ。剣道でもしてんのか」
いやと答えた。
「そういうお前は、どうなんだ。あのタコ頭よりいい腕だな」
流石にばれたか、男はそう言った。
「一応俺も剣道部員なんだ。といっても今は幽霊部員でやっていたのは小学校ぐらいか、そら」
木刀が大きく振られた。このぐらいだとゴムを曲げて当てられかねない。そう思いゴムを引っ張って防いだ。衝撃はそれほどない。ゴムはそれほどまでに不自由は無い。
「本当いい腕だな、剣道を続けてられていたら我流の俺はやばかったかもしれない。でもな」
ちらりと孝太を見た。孝太が何度も繰り返した動きをした。大文字の後ろへ回った。タイミングはそこだった。
「でもな、やっぱりそうだ」
シンも孝太と同じように男の後ろへ回った。しまった。そういう声がした。
「動きが大雑把過ぎるよあんた」
「砕けろよタコ」
そろってスポーツチャンバラの持ち手で大文字と男の首の後ろを突いた。
「がっ・・・・」
「あっ・・・・」
二人そろってばたりと倒れた。
「ああ〜、何とかなった〜」
孝太が言った。
「そうだな」
二人は向き合いそして。ばしっとゴム刀をたたき合った。その瞬間また歓声が上がる。二人そろって教室へ向かってブイサインをした。
「ほう、中々のもんだったな」
夜叉がポツリと言った。
「孝太」
唯が孝太の名前を呼びながら走ってきた。
「おお、唯。どうだ大丈夫だっただ――ぶぉごはあ!」
孝太は走ってきた唯にラリアットをかまされて倒れた。
「な、何すんだよ」
孝太は腰を抑えて起き上がりながら言った。
「ばか、何が大丈夫だったよ。斑鳩君が出て行かなかったら殺されてたじゃないの」
孝太の無鉄砲ぶりに唯は物凄く怒っている様子だった。
「まあそれはそうだな、ありがとうな斑鳩」
「なんてことは無い、いつもの事だ」
「おいおい、それじゃあ俺がいつもピンチみたいだな」
「どうかな、俺には解りかねる」
頭を掻くと横からローゼンが口を挟んだ。
「藤原君宣伝はどうするんですか」
そう言われると思い出したように孝太は走って野次馬の前へ出た。
「野次馬の皆さん、今のは文化祭で行われる我がクラスのイベントのひとつであるスポーツチャンバラの宣伝です」
大声でそう宣言するとそうだったのかという声が聞こえて来た。孝太は続けた。「参加希望の方は跡に発行される申し込み用紙に記入してください。一般参加客と合わせて三十人までです。俺たち二人に連続で勝てた方には豪華旅行券をさしあげます」
そう言ってシンを自分の所へ引っ張った。シンはとりあえずお辞儀をした。
「まじかよ、俺出ようかな」
「旅行券か、金券に持っていけば小遣いが稼げそうだな」その他にも参加しそうな雰囲気を漂わせる感じとなった。
「ではみなさん、当日まで楽しみにしていた下さい」
最後にお辞儀をすると孝太の耳に拍手が聞こえて来た。どうやら成功のようだ。窓辺にはもう夜叉の姿は無い。
「上手く行きましたね。作戦は大成功です」
ローゼンは二人からゴム刀を受け取るとにこりと笑った。
「あ、もう五時間目半分も過ぎてるよ。早く教室に戻らないと」
葵が腕時計を見て四人を急かした。
「わあ、次って国語じゃないの、私単位ギリギリなのよ」
唯が叫びながら走り出した。
「まずいな、俺もだ」
孝太もそう言って走り出す。
「何言ってんだよ、お前は別の教科もやばいんだろうが」
シンが仕方ないなと葵とローゼンと一緒に走り出した。
「おい、待てって、あれ」
下駄箱まで来た五人だがそこまでだった。そこには待ち構えている人物がいた。
「あ、ははは、先生」
孝太が担任を呼んだ。これから説教タイムの始まりである。
「うう、孝太の所為で国語が〜」
単位を迫られた唯は泣く泣く職員室へと直行した。残りの四人も同じである。



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