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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第17回   第二週7
 本日の昼は食堂での昼食となった。
 「文化祭の打ち合わせもかねて」
 と言ったのは孝太だった。ただそれだけではない。生徒が活気付く食堂でなら自分達もその波に飲まれて良いアイデアが浮かぶのではないかという孝太なりの論理に基づく考えであった。
 「そういえばシン君は食堂初めてだよね」
 葵が言った。
 「そうだな、夏休み前は購買のパンが主だったし。行動範囲も限っていたからな」夏休み前のことを思い出しながら言った。
 「なら、やっぱ学食だろうな。パンよか安いし栄養も取れるからな」
 孝太が栄養士のような事を言った。
 「ならなんで購買が・・・・ああそうか」
 質問を投げかけて答えが簡単な事に気がついてシンは黙った。
 「そういうことだ、学食の席は限られているからな。こぼれた生徒は全員購買行きだ」
 裏付けるように孝太が言った。
 「そうだね。私達結構食堂使っていたもんね」
 唯が言った。孝太はそういうことだと頷く。
 「そうすると、僕達全員の席というのは確保できるのですか藤原君」
 ここでローゼンが孝太に声をかけた。孝太は戸惑う事無く言った。
 「それは心配するな五人分は確実に確保できる」
 自信満々に言った。さらに小声で続ける「裏ワザがあるからな」その声はシンの耳に届いた。
 (不安だ・・・)
 だがそう思うことしか今の自分には出来ないことはわかっている。考えていると孝太がここだと言って立ち止まった。教室のドアを二枚とも取り外して開けた入り口に上には食堂と書かれている。中からは既に昼食に来ている生徒たちで賑わっていた。果たしてこの中から五人分ものまとまった席が確保できるのだろうか。
 「俺は席の確保に行くからよ。お前等はそこの自販機で食券を買ってから来いよ」孝太が入り口付近にある自動販売機を指差した。券売機である。なるほど食券をカウンターに持っていく方式のようだ。これなら時間も削減できる効率の良い仕事だとシンは感心した。孝太が席を取りに行こうとしたとき唯が声をかけた。
 「じゃあ孝太の分も買ってくる。何がいい」
 そうだなと孝太は振り返った。
 「カレーだな。安いし」
 カレー一杯三百円。へたな定食四百五十円よりお手軽でこの食堂にある人気料理の一つである。ついでに言うと一位はハンバーグ定食六百五十円。二位はカツ丼味噌汁付き六百五十円である。次いでカレーである。値段が離れているのはやはりボリュームの差なのだろう。それはそれとして昼休みはそれ程長くは無い。
 「うん、わかった」
 唯がそう言うとたのんだぜと孝太は席へと歩き出した。四人は券売機へ歩いた。色は三色うえから赤、青、黄色とある。
 「シン君は何にするの」
 葵が聞いて来た。
 「そうだな、これにしようかな」
 そう言って青い食券を買った。笊うどんと書いてある。この中で一番手軽で安いメニューである。しかしもうすぐ冬だというのにこういった物があるということはそれなりに人気があるということだろう。
 「それじゃあ私は」
 そう言って葵はその上の赤い食券を買った。ミートスパゲティと書いてあった。最近の女性はイタリアンが好みと聞くが葵もそうらしい。
 「では僕は・・・これですね」
 思案したあとローゼンはピラフと書いてある青い食券を買った。
 「えっと、孝太はカレー、っと」
 唯は孝太の方から食券を買った。カレーは黄色。もはやイメージカラーといっても差し支えないであろうと思う。
 「で、私の分」
 そう言って唯は同じく黄色い券を勝った。和食定食と書いてある。買った順にカウンターへ来ていたシンは食券を渡すと半分もしないうちに注文の笊うどんが出てきた。やはり効率は良いらしい。もしかするとこのメニューに限ったことかもしれないがそれは考えなかった。
 「孝太はどこだ」
 カウンターから少し離れ笊うどんの乗ったお盆を持ちながらシンは孝太を捜した。後ろから葵が追いついた。手にはミートスパゲティの乗ったお盆があった。
 「孝太を探しているんだが・・・」
 あたりを見ながらシンが葵に言った。丁度そのとき離れた所から呼ぶ声が聞こえた。孝太だ。いたいた、とシンと葵はそちらへ歩いた。孝太は本当に五人分の丸テーブルとイスを確保していた。孝太の右隣にシンが、更に右に葵がお盆を置いて座った。予想通りと言えば予想通りの配置だ。
 「良くこんな席が取れたな。どうやったんだ」
 シンは孝太の仕事振りを感心しながら聞いた。
 「言っただろ大丈夫だって」
 孝太は鼻高々と言った感じで言った。
 「駄目だよ二人とも孝太は誉めると調子に乗るんだから」
 二人分のお盆を持った唯が言った。ローゼンも来たようだ。
 「そう言うなよ唯。こうして座れたんだからよ」
 はいと置かれたカレーにサンキュウとお礼を言った。代わりにコイン三枚を唯に渡した。
 「どうかなあ。またなにかしたんじゃないの?いつかだってしまってあった余分なテーブルを出して新しい席を作ったこともあったし」
 それを聞いてシンはそうなのかと尋ねた。
 「仕方ないだろ、購買は売り切れてたんだ。それにテーブルは使ってこそテーブルだろ。それにスペースも余っていた」
 それ、屁理屈と唯が言った。更に言い訳をしようと孝太がしたときイスから何か落ちた。たたまれた紙だった。
 「なんだこれ」
 シンが拾い上げると中を開いた。葵も何々と除いてくる。それに気づいた孝太が「げっ」と言った。どうやらその「何か」らしい。中を開くと字が書いてある。
 『予約席、使った奴は半殺し。 大文字』そう書かれていた。いくら新参者のシンでもこの名前は知っている。前回登場の夜叉のクラスにいる一番の問題児、大文字 徹(だいもんじ とおる)確かにその名前を出せば他の生徒達は怖がって誰も近づかないだろうがこれは。
 「人の名前勝手に使っちゃだめじゃん」
 唯が孝太に怒った。
 「ははは、藤原君らしいですね」
 唯一の味方のローゼンにそうだろと言った。だが気づいていないのは孝太だけだろうか。この話を聞いていた周りの生徒達が呪いに近い目を孝太に向けていた。第一本人にこの話が伝わったら因縁を付けられかねないだろうと孝太以外の四人が思った。前言撤回シンの不安は的中した。しかもローゼンはわかっていながら孝太と一緒に笑っているので孝太は惨めである。
 「まあいいか時間も無いし食事にしよう」
 シンがそう言うと全員でいただきますと声を合わせた。シンは割り箸を割ってつけた麺をすすった。葵はフォークとスプーンを器用に使ってパスタを絡めて口に運ぶ。
 唯の定食は本当に日本食だった。ご飯、味噌汁はもちろんの事おかずには白身魚の酒蒸しを中心に金平ゴボウ、鶏肉と野菜の炊き合わせ、カブの漬物、まさに和食である。
 「水野は和食派なのか」
 シンが聞くと唯はどうだろうと言ったあと葵が続けた。
 「唯はね、純和風の家系に育ったんだよ憶えてない?」
 シンはそうだったかなと考えた。葵が続ける。
 「小さい頃からお茶とかお花とかやっててね私もよく遊びにいったんだよ。羨ましかったな」
 葵が思い出に遠い目を向けていると唯が否定した。
 「そんなこと無いよ、毎日稽古稽古で息が詰まっちゃうもん。高校に入ってから厳しくなくなったけど今でも時々しているし」
 それは知らなかったなとシンは感心した。小さい頃から嫌な顔一つしないで今も続けられる人間はそういない。そう考えると唯は我慢強いのかもしれない。
 「だって小さい頃お母さんに言われたもんね日本的な女性はいいお嫁さんになれるって。その時からなんだよ唯が力を入れ始めたの」
 遠い日の思い出から還って来た葵がそう言った。なるほどとシンが納得した。唯は頬を染めて葵と口にしたが黙りこんでしまう。ちらとカレーを口に運ぶ孝太に目をやるとそれに気づいた孝太がどうしたと顔を向けた。
 「な、何でも無い」
 と唯は誤魔化すように定食に手をつけた。ローゼンが口を開いた。
 「今日は文化祭についての事ではと」
 それを聞いた唯が助け舟とばかりにそうそうと話を変えた。
「それで孝太、あとは看板だけなんでしょう」
 唯が気を取り直して孝太に向いた。
 「そうだな。字はこんなのを書いてみたんだが意見を聞かせてくれ」
 そう言って懐から折りたたまれた紙を取り出して真ん中に広げた。全員が紙を見た。
 「これはまた」
 ローゼンが笑顔で言った。
 「雑と言うか」
 シンが言った。
 「力強い字だね」
 葵が言った。
 「読めるのお客さんは」
 唯が孝太の顔を見ていった。紙には殴り書きのような、それでいて孝太らしく力強い字でスポーツチャンバラ と書かれていた。
 「多分来ない、だから全員の意見が必要だと言ったんだ。ここの成績で教室の喫茶店も影響が出るからな」
 なるほどこれはあくまで下書きで意見を取り入れてこれから改善すると言う事らしい。
 「とりあえず意見を出してくれ」
 孝太が言うと最初に葵が言った。
 「字は太い方が良いかな」
 このぐらいと書いてみる。どうやらこの形のまま字を太くするらしい。
 「それなら」
 シンが続く。
 「太くても一般的な字が良いんじゃないか」
 そうかなと唯が「跳ねた方が良いかもよ」紙に書いてみる。
 「それでしたら」とローゼンも乗り出した。
 「このくらいですか」と書いてみる。全員が一気に乗り出すのを孝太が制した。「わかった、わかったからとまれ」
 そう言うと一同大人しくなる。
 「全員分の紙があるからここに書いて出してみろ」
 わかったと全員頷く。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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