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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第15回   第二週5
 保健室に行くといった孝太。事実気分は悪くないので必然的に屋上へ来た。火照った体を冷やすためだった。
 「はあ、何やってんだ俺は・・・」
 倒れながらそう言った。少し曇り気味の空、火照った体を冷やすには丁度良い冷たい風が流れてきた。
 「気持ちいい・・・」
 教室では授業が始まっているだろう。そう思うと帰りたくなくなる。それに体を冷やさなければならないと思った。目を瞑りしばらくその風に身を任せた。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 「ん・・・・寝ていたか」
 いつの間に寝ていたのだろうかと思い体を起した。頬に触れてみる。どうやら風が熱を冷ましてくれたみたいだった。時計を見た。もうすぐ二時限目が終わる頃だった。
 「どうしちまったんだろう俺・・・・唯の顔見たとたん動揺するなんてやっぱり疲れてんのか?」
 頭が冷えてきて少し考えられるようになってきた。今まであった事を整理しようとした。いや、唯に対しては自分でもわかっているのだがそれを考えるとどうも恥ずかしくて適わなかった。
 (まずローゼンだな)
 ローゼンは自分に大切な事を教えてくれた。それは納得した。だが内容が気に食わなかった。自分の事がわからないといった。
 (自分がわからない。記憶喪失か何かか?・・・・記憶ってのは物事を記憶装置である脳の海馬に止めておきそれを自由に取り出せることを言うんだよな。人間の記憶装置である脳は多くの数、情報、形、指令、その他色々と引き出しに入れられる。それを考えという意識上や無意識で取り出すことができる。もちろん自分が体験した事もだ、それが思い出という記憶になる)
 孝太は曇り空を見ながら考えを膨らます。灰色一色に目を向けることによって集中力は高まる。
 (記憶喪失は何かの衝撃でその海馬がやられちまう事。衝撃で運悪く海馬の周りの脳細胞や脳神経が切れて電気信号が送れず引出しまで辿り着けないでいることだ。だから記憶の蓄積はあるけどそれに気づけない。無理に思い出そうとすると神経に痛みが起こるケースもある。)
 孝太の記憶の引出しからローゼンに繋がる単語をはじき出す。「てことは」孝太は体を起し仮結論を出した。「あいつ、昔事故でも遭ったのか。それでなくてもどこかに強く頭をぶつけたとか」
 いろいろな憶測が孝太を考えさせた。だが自分が考えた所でわかるはずも無かった。
 「って、言っても予想だけじゃ何もわかりゃしないか、嘘って言う可能性だってあんだし」
 そういうとおかしそうに笑った。自分の言った事があまりにも変なのだ、ローゼンが嘘をついているかもしれないという予想は余りにも滑稽すぎる。
 「嘘、何て判りきっているっての。笑顔で感情を出さないくせに何だって嘘はああも下手なんだろうな」
 今思えば教室での嘘の所為で授業中苛立っていたのかもしれない、と思う間もなく空に問いただす。
 「あいつ、嘘をつかないほどやばいことやってんのかな?記憶喪失なんて余りにもベタだろ」
 ローゼンへも蟠りが消えたわけではないがとりあえず今はと目的が一緒ならそれでいいか、と仕方投げに頭を掻く。「でも、次に囮にされた時はぜったい殴ってやる」一つ誓いを立てて拳を突き上げる。
 (まあローゼンについはこのくらいにしておくかな、もうひとつは)
 そういうとほころんだ顔がまた思いつめたそれに変わった。と思ったらまた笑った。そして一言呟いた。
 「唯、か。俺もそろそろ気持ちを決めないとな。たったあれだけで焦ったんじゃあ、らしくも無い」
 そう言った。孝太自信唯を気にしていたのは前から認めていた。多分唯も。幼稚園から一緒なのだからそんな気持ちになってもおかしくは無い。孝太自信も
(好きなものは好きなんだからしょうがない)
 と思っている。ただ許せなかったのは自分だった。そこまで解っていながら唯の笑顔を見た瞬間に焦った自分に対して。
 そう言ったことを含めて気持ちを決めないと、と言ったのだ。元来こう言ったことには無頓着だった。だから冷やかしも何回かは経験したがよく解らなかった。孝太は手探りながらふと小学校の事を思い出した。


 小学校六年の頃だった。孝太は普通の小学生で普通の生活をしていた。今みたいに尖ってはおらず、元気な少年だった。
 ある日いじめられているクラスメイトを見かけた。女の子だった。正々堂々、ずるい事や曲がった事がキライな孝太は当然のようにいじめっ子の三人を蹴散らした。
 「ありがとう」助けられた女の子はそう言った。その次の日からだった。一緒に登下校を共にするようになった。学校でも良く一緒に遊んだ。ある日女の子をいじめていた三人組は孝太に狙いをつけた。といってもケンカではかなわないと既に理解している三人は本当に子供っぽい方法で仕掛けてきた。簡単に言えば孝太とその女の子との関係を茶化す事だった。
 「お前等付き合ってんだろ」、「好きなんだろ」、「結婚しちまえ」本当にどうでも良いような茶化し方だった。だが女の子は顔を赤くして逃げてしまった。だが孝太は。
 「お前等バカか?」それだけだった。それから孝太はその女の子と遊ぶ事は無かった。別に気にしなかった。自分といれば茶化される。だったら一緒にいない方がいいに決まっている。それに友達なのには変わりないから。それ以降孝太は茶化される事は無かった。リアクションが返ってこないのならからかう意味が無い。子供の頭とはそういうものだ。
 そして中学に上がった。あの女の子は別な所へ進学したようだ。自分は自分の思うままに生活する。それが孝太の中学でのスローガンだった。そうさせてくれなかったのが唯だった。幼稚園の頃から一緒だったケンカ仲間は小学校はもとより中学校まで一緒だった。今思い返せばその女の子と一緒だった頃一番唯と口げんかが多かった気がした。気のせいではないだろう。それからと言うもの唯と孝太は良くつるんでいた。いたずらもした。小学時代の名残だったのかもしれない。
 校長の銅像に落書き、いたずら書き、その他様々な事をした。だがそんなイタズラも半年経てば興味も薄れた。成長といってしまえばそれまでのこと。
 そして高校、その頃からだった孝太の考えが変わったのは。唯は友達以上の存在と考え始めたようだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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