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奇妙戦歴〜文化祭〜 作者:光夜

第11回   第二週1
 文化祭も一週間前となり放課後の居残りが許可されるようになった、かく言うシン達もその時間を作ってステージ作りを計画していた。数日前の町の騒ぎは警察沙汰となったが真相は未だにわからず日にちだけが過ぎていった。その間の奇襲も無くシン達は文化祭の準備に専念していた。
 「ステージの本体は出来ているからな、残りは看板あたりか」
 ステージの様相を見てシンはポツリとそう言った。確かに見栄えを良くするためには看板か何かが必要だろう。シンは葵は絵が得意かどうかを考えた、もしそうなら頼んでみようと思った。
 朝の学校は音もなく小鳥の囀りが良く聞こえてくる。現在七時ジャスト。今日は少しばかり早く起きれたシンは家にいるのも落ち着かずとりあえずは学校へ来ていた。
 「まだ誰もいない・・・か」
 校庭を見渡せばグランドが広がっている。冬も近いのか北風に似た強く冷たい風が通り過ぎた。乱れた髪をかきあげるとシンはその場を後にして教室へと向かった。
 下駄箱で靴を履き替えていると下駄箱から何かが落ちた。ピンク色の手紙。拾い上げ裏側を見ると女性の筆跡だった。自分の名前が描いてある。という事は入れ間違いではないと言う事だ。まあ所謂恋文と言う奴だ。多分昨日の放課後あたりにでも入れられたのだろう。少し考えた後シンはそれをポケットへ閉まった。ここで捨てるのも忍びなく家へ持って帰ろうと思ったのだ。だが中を読む気は無い。自分には葵がいる、そう考えると少し笑った。靴を下駄箱にしまい教室のある階へ足を進めた。
 廊下を歩いていると窓から校庭が望めた。丁度、別な生徒が数人登校してきた。廊下に添えつけられている時計に目をやる。七時十五分。この学校にも暇人はいるらしい、そう思った。
 「久し振りの一番か、悪くないか」
 教室のドアを開けると「よお」なんて呑気な声が聞こえて来た。予想はしていた。ドアを開ける直前に気配を感じたからだ。どうやら一番はお預けのようだ。中では孝太が自分の机に足を乗っけているのが見えた。シンは孝太の後ろを通り過ぎ最前列の窓際にある自分の席に座った。
 「なんか機嫌悪そうだな、何かあったか」
 鞄の中から本日の授業で使う教科書を取り出しながら「いや」と一言いった。そしてさらに付け加えた。暇人はここに居たな、と。孝太は何のことかと頭をかいた。孝太は足を下ろしてシンの方へ歩いた。そうして窓の外を見た。シンも同じ所を見た。グランドが見える、ステージも。
 「用意は万全、あとはたりない物を足すだけだな」
 孝太は笑いながらそう言った。シンも「ああ」と言い返した。さしずめ考えている事は同じようだ。
 「で、看板は何を書くんだ?文字だけじゃあ花が無いし、かといって俺は絵が上手くない、自慢じゃあ無いが中学のときの美術は二しか取った事がないからな、写しは結構得意だけどそれじゃあ個性が無いし、な」
 「だろうな」
 シンは納得しながら言った。まあ孝太の性格からしてそのくらいは予想はついた。自慢じゃあ無いがと言われても自慢されても困るというものだ。シンはステージから目を離し孝太を見た。
 「絵は葵あたりに頼んでみる、あと水野にも」
 それを聞くとなら大丈夫だなと孝太は腕を組んで頷いた。シンが葵に看板の絵を頼もうと考えたのはステージを眺めた時ふと小さい頃の記憶を見たからだ。小さい頃境内で暇な時はよく絵を描いて見せ合った。たいがいシンは上手く描けず葵の絵を見て悔しがった事がある。どうも形が上手くかけないのだ。丸はひしゃげて、四角は歪み、三角に至っては三辺が成立しなかった。どうも知覚感覚が――――いや、それは置いておこう。それよりも葵は見事なまでに綺麗に描いていた。かといって美術が見たいと言うわけではない。一言で言うと正直なのだ。たいがいの子供は家と、花と、太陽を描けと言われれば花と家の大きさが同じになったり太陽があるだけだ。だが葵の描きかたはそれとは違う。家と花はちゃんとした大きさにまとまっており太陽を描くとそれにあわせてちゃんと影まで描くと言う事をした。そうしてみると葵には正直さが見て取れたのだった。そういう事を考慮してシンはステージの看板に起用する絵には葵に頼もうと思ったのだ。
 「まあ、葵ならともかくとして唯はやめた方がいい」
 孝太の一言に今度はシンが頭を掻いた。孝太は構わず続ける。
 「結構前に唯の描いた絵を見たんだがありゃあ酷かったな、なにせ上空から見た状態と横から見た上体が入り混じってんだ。始めてみた時は展開図かなんかと思ってよ笑いを押さえるのに苦労したよ」
 「そ、そうか」
 シンはなにやらまずいものでも見るように孝太を・・・いや、既に孝太を見ていなかった。と言うよりも見れなかった。だが尚も孝太は思い出しながら笑っていた。腹を抱えて。
 シンは孝太と呼んだが既に孝太は笑うのに没頭してシンの声が聞こえていなかった。さらに何か面白い事を思い出したのか、続けて言おうとしたがそれは冷ややかな声で止められた。その声は後ろから聞こえて来た。低く怒りのこもった声。ただ一言「孝太」と。その声を聞いたとたん孝太の笑いが一瞬にして凍りついた。何せ笑いの種にしていた唯がいつの間にか後ろにいるのだから。その後ろでは「あはは・・・」とどうしようかとう困った顔の葵が控えていた。シンは時計に目をやった。七時五十分。いつのまにか校庭には登校した生徒が多く見えていた。この教室にはまだ四人しか居なかったが唯にとっては良い配置と言わんばかりだ。
 「孝太ぁ〜」
 怒りのこもった声が孝太を責める。孝太は頼りない笑い声を上げながら一歩ずつ後退しそして。「すまん唯!」そう言って走り出した。
 「まてえええ!よくも人の恥ずかしい過去をおおおお!」
 逃げる孝太を唯は大声を出しながら追いかけた。朝の教室には良く響いた。葵はシンの隣にある自分の席に鞄を置いた。
 「元気だね二人とも」
 「そうだな」
 葵は追いかけっこをする二人を見ていた。シンはする事も無く天井を見上げていた。
 「あ、そうだシン君」
 葵に呼ばれシンはなんだと天井から葵に目を向けた。朝日が後ろにある所為か葵は綺麗だった。その葵からおはようと声が出た。
 「・・・・」
 しばらく呆気に取られていたシンは気を取り直し「おはよう」と返した。今日も一日が始まるなと感じるひととき。シンは少し考えた後教室の後ろにある箱に歩いた。ポケットからあのピンク色の封筒を取り出した。それを細かくちぎって入れた。
 (これでよし)
 万が一見られたら、と言うよりも持っている方が落ち着かなくなったというほうが正しいだろう。「今の何?」机に戻るシンに葵は聞いた。何でも無い、そう答えるシン。だがそれで葵が納得するはずが無い。教えてと何度もねだってくる。シンはそうだなと言った後。
 「ライヴァルからの手紙、かな」そう言った。この発言はさらに葵の好奇心と探究心をくすぐった。「だれ、誰」と激しく聞いてくる。
 「俺のじゃ無いよ、そうだな葵、かな」
 「え、私?」
 葵は自分を指差して固まった、そして頭を抱えながら悩みまくった。それを見てシンは微笑を浮かべた。そして葵の名前を呼んだ。
 「ん、何」
 「ステージの看板なんだけど、文字だけじゃあ物足りないからさ。葵、絵を描いてくれないか」
 突然の申し出に葵は一瞬と惑った。
 「え、あ、私?」先ほどと同じ答えが返って来た。うんとシンは答える。だめかなともう一度聞くとうんと返事をしてくれた。
 「ありがとう、今日も準備頑張ろうな」
 「うん、もう一週間切っちゃったからね。スパートかけなきゃ」
 全くその通りとシンは頷いた、そしていまだに追いかけっこをしている二人を見た。
 「まて孝太あああ」
 「待てと言われて待つ奴はいない」
 「なんだとおおおお」
 本当に元気だなとシンは笑いながら言った。葵もそれに賛同した。丁度そのとき予鈴が鳴った。現在八時十分。今日も静かで騒がしい一日が始まった。そのとき教室のドアを開く音がした。教室の視線がそちらへ向いた。俺も葵も追いかけてやっとこさ孝太を捕まえた唯も捕まった孝太も。何の事は無いローゼンが来たのだ。
 「おはようございます」いつもの笑顔で挨拶を振りまいた。
 「おはよう」これでやっと役者がそろった。今日も一日頑張ろう。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――次へゴー


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Novel Editor by BS CGI Rental
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