夏休みも終わり時期は秋になりつつある。 各学区では恒例の始業式も終わり教室に集まりホームルームを行っていた、それはここシン達のクラスも同じである、教室に担任の姿がないところを見るとまだホームルームは始まっていないようだった。夏休み開け特有の明るい会話や黒く焼けた肌、寝不足の顔、イメージチェンジを測ろうとしたもの、そして失敗した者多々見受けられた。それでも変わらない四人はいつものように会話をしていた。 「葵、なんか、みんな疲れた顔をしていないか?」始業式が終わり教室に帰ってきたシンの一言はそれだった、たしかに教室の空気が重いのは葵の目にも見て取れた。明るい会話は少なく何処と無く、いや物凄く眠そうな、例えるなら一晩中脳に休息を与えなかったようなそんな顔が結構ある。 「多分休みあけだからだよ、ほらよく夏期休暇って夜更かしする人が多いから」なるほど、と頷く、確かに自分も夜更かしをした次の日は眠気に襲われる。襲われるのだがそんなこと年に何回あることか。連日連夜で夜更かしをするわけでもないので数時間程度の眠気でいつもの調子に戻る。 だがどうみても周りでだれているのは二日三日徹夜したような顔ばかり。自分の身体の調子も省みないで行った結果がこの教室の雰囲気を物語っているように思えた。と、そのとき一際元気で好戦的な声が聞こえてきた。 「弛んでんだよ全員さ、まったく自分の体調管理もなっちゃいないんじゃどうしようもないな」孝太だ、四人が集まってたのは唯の席で隣で立っていた孝太が教室中に聞こえるように言った。その声を聞き ギン、とレーザーか何かが出そうな勢いで該当すると思われる男子生徒の大半が孝太を殺気の的にした。四方八方からの視線は殺気じみていて寒気を呼び起こす。 「ん?何か視線が痛いぞ」寒気の後に来る痛みを呑気に口にして逃れようとする、だが殺気は一向に止まない。死者が獲物を睨むような視線はまだ続きそうだった。 「当たり前だよ孝太、朝から挑発しすぎ」しょうがないなあ、と皆をなだめるように言ったのは唯だった、孝太の隣でもる自分の席に座っていた唯にも視線が飛んだようだ、巻き添えを食って少し小さくなっていたりする。 「ああ、悪い唯、気を使わせたな」それを察知して孝太は唯の頭をなでた。唯は眉をひそめ困ったような嬉しいような表情をする。丁度その時シンにも視線が飛ぶ、がなにやらその視線のニュアンスが問いに類似しているように思えたシンは孝太を見た。いつもと同じ声の調子で何処も変化は……………ああ、これは尋ねなければと声をかける。 「で、孝太、挑発するほど余裕の声でいえる位だ自分そんなことはない―――――つまり夜更かしはしていないということだな」威圧するような声で言われたとたん孝太は遠くを見るように空を仰いだ、「空が青いなあ」などと誤魔化している。白々しい、最初(ハナ)から弁解などできるわけがないことは三人共分っていた事だった、なにせ孝太の目の下には小さきながらも「くま」ができていた。人の事が言える立場ではない。 「ま、俺は俺だ、見てのとおり夜型人間が入っているので夜更かしは辛くはないのだよ」シンに痛いところを突かれて、カンラカラカラ、と誤魔化した。夜型人間、夜出歩いている孝太にはピッタリなネーミングだが、だめじゃん、と三人は息を吐いた。これ以上痛いところを突かれるのが厭な孝太に助け舟、教室のドアが開き担任が入ってきた。 「お、ホームルームだ。さて席へ戻るかな」これ幸いと孝太はわざとらしく言ってそそくさと席へ戻るのだが唯の隣に席がある孝太はその場に座るだけで逃げきれたとは言えない。葵も孝太の隣にある自分の席に座る。まあ孝太を咎める権利があるわけでもないのでシンも席へ戻る事にした。 「じゃあ、またあとでな三人とも」 「うん、後でね」 「居眠りなんかするなよ」 「それは孝太でしょう」 孝太と唯の会話を後ろに教室の後ろにある自分の席へと歩いていった。 ホームルームの内容は全員判っていた夏休み開けは九月なのだ数週間後には十月が控えている、となると大体の学校は九月から十二月のある二学期において一番学校行事が多い時期でもある、そして二学期の一番初めににある行事と言えば数週間後に行われる文化祭だ、この学校では同じお祭りである一学期の体育祭よりもこの二学期の文化祭に力を入れていた。この日も「文化祭だが」なんて出だしから始まると思っていた教室だが今回はそうでもないようだ。どうも担任の挙動が不信すぎる。全体を見回した後担任は口元を緩めた。 「えー、どうせ文化祭がという出だしを予想していたのだろうが残念だがそうじゃないぞー、今日は――――」してやったりの顔でこちらの予想を裏切った台詞を吐く担任、ざわつく教室を静めるため机をたたく。「静かにしろ―――――――――ええっと、一学期に斑鳩が転校してきて夏休みを挟んだが大分この教室に馴染んだと思う。みんなの他人と馴染む力はすごい事を先生は確信した」頷く担任、そうだろうと自慢げに誰かが肯定する、ソレに釣られて小さな笑いが教室に起こった。なんでもない普通の教室、朝の風景、この風景をシンは甚く好んでいる。「で、その適応力を見込んで今日先生から報告がある。なんとかもう一度転校生と馴染んでくれ」ぴたりと動きが止まる。突拍子の無い担任の言葉に教室が笑いからざわつきに変わった、中にはまたかよ、何て声が聞こえて来た。先生に頼まれっぱなしも癪なのでいくつかの質問が飛ぶ、その様子をシンは微笑みながら見ていた。いい事だなんて外の青空に目を向けてみる。 「どこかで見た光景だな」 「そうだね」 うんざりと言う言葉が似合いそうなほど孝太は身体を椅子に静めた。 それでも内心結構わくわくしていたりする。いつの時代も転校生が来ると言うのはかなり楽しいものだ、顔も名前も判らない途中参加者の謎の人物、それをはじめて見たとき自分は第一印象としてどう受け取るのだろう、そう言うドキドキ感があるからだ。 (わくわく)そしてそれ以上にわくわくしている葵がいる。以前の時と同様その目は期待に満ちて輝いている。「せんせー男ですかー?」一人の生徒が根本的なところから質問した。「そうだ、しかも美形だぞ」担任が付け足した言葉で今度は女子が盛り上がった。どうやらシンと同じで男の転校生らしい。しかも美形。 「ふ〜ん、美形だとよ唯、良かったな」なぜか不機嫌そうに唯に言った。 「何でよ、別に美形だからって私が好むとは思えないけど」 「そうなのか?女子は美形が好みかと思ったけどな」 「あのね、全部が全部そうだったらお相撲さんと結婚した人はどうなるのよ」確信を突かれる孝太、ごもっともなんて言って切り上げた。本当に何が言いたかったのだろう。 「更に言うと外国人だ、異文化コミュニケーション」大人の良く解らない言葉にそれでも おおー、と教室の声が頂点に達した。が、その驚きとは逆に違和感と厭な予感、寒気と悪寒を覚え感じた孝太は後ろのほうにいるシンに振り返った。「・・・・」シンは俺もだと賛同するように頷き返した。美形で、外人で異文化コミュニケーション?なにやら覚えのある奴が脳裏に浮かぶ。その姿を振り払って孝太は身体を向き直す。唯もまさかと言う顔をしていた、関係者の中で動じないのは首をかしげている葵だけだった。だがそんな予感は気づかれる事無く担任は入り口を見て「それじゃあ入ってきて」と、廊下で待っている転校生を声で招いた。担任に呼ばれ足を踏み入れてきた転校生、おおーと教室が驚きの声を上げる。が、転校生が足を進めるたびおおーは小さくなり最後にはざわつきとなった。ゆっくり教壇へ歩いていく転校生、その格好は非常識極まりなかった。何が非常識かって、そりゃあもう予想通りのことで四人はリアクションも忘れていたぐらい非常識だ。背丈は百七十強、顔は整っており担任の言うように美形で外国人、だがそんなことよりも格好だ暑さもまだ―――いや、かなり残るこの季節、全員まだ夏服だと言うのに制服である学ランの上にコートを羽織、教材でも入っているのか大きなアタッシュケースを持っている。顔立ちはそれで印象が薄い状態だった。それでもニコニコと人当たりの良い笑顔を見せている。「彼の名前は――――」担任が名前を言おうとしたときガタッと立ち上がる四人、そして指を指して。「「「「ローゼン(君)!?」」」」と、一斉に彼の名を呼んだ。「はい、四人ともお久し振りです、それと人を指差すのは良くありませんよ。御両親に習いませんでしたか?」なんてどこぞの先生みたいに四人を注意する。そしてローゼンは当たり前のようにあいさつをした。
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