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ルージュorノワール 作者:mkonkon

第1回  
 僕の家には黒猫が一匹住み着いている。
毛並みが悪く、体も骨張って見えるその不摂生な黒猫は、尻尾だけはなぜか肉厚で長く、ピンと上を向いていた。
僕はその黒猫を単純に「クロ」と名付けるのも芸が無いと、「ノワール」という名で呼んでいた。



 ノワールはごくたまに僕の前に姿を現した。
縁側で寝そべっているときや、玄関を出てすぐのところ。
朝起きてみると、布団の中に潜り込んでいたこともある。
ノワールが現れると、僕は決まって台所に行き、牛乳を皿に注いで、床に置いてやる。
ノワールもそのことを理解しているらしく、僕の後をついて回り、牛乳を床に置くと、焦りもせずに黙々と、牛乳を飲み干していく。
・・・ナー
と一声鳴くと、ノワールは空になった皿を残してどこかへ行ってしまう。
甘えもしない、暴れもしない。
そんなノワールはどこか僕と似ている気がする。



 ここ1週間、ノワールの姿を見かけなかった。
ノワールのための牛乳は冷蔵庫にしまってある。
ノワールの皿は1週間食器棚に直したままになっている。
姿を見せないノワールが少し気にかかる。
僕は、家の中でノワールがいそうな場所を見て回ることにした。
床下、居間、寝室・・・
隈無く探し、最後に残った屋根裏部屋をのぞき込む。
ノワールはそこにいた。



 穴を掘っている間、屋根裏部屋にいたノワールを思い出していた。
目を閉じたまま、静かに身を横たえていたノワール。
体は硬く、冷たかった。
ピンと張った尻尾はクターッと地面にのびていた。
死んだノワールはただの黒猫に戻っていた。
ただ口から溢れていた血液は、黒く変色して、そこだけはノワールらしかった。
穴を掘り終え、ノワールを静かに寝かせる。
寝かせたらノワールを土で埋めていく。
土でノワールの体が隠れていく。
そういえば、ノワールの口の中には人間の小指が入っていた。
小指は僕のより一回り小さく、一目で子供のものだとわかった。
その子供は小指をどうしたんだろう。
友達に自慢しているのかな。
どうなんだろう。



 それからまもなく近所で、子供の葬儀が行われたらしい。
噂では、死因は猫の呪いだとか言っているらしいが。
僕はノワールに会おうと空き地へと足を運んだ。
皿に牛乳を注ぎながら、僕は尋ねた。
「ノワール、あれは君がやったのかい。」
・・・ナー
ノワールが鳴いたような気がした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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