通りを歩いていると、ある場所から輪を描くように人だかりが出来ていた。その場所の真上を見上げると、高層マンションの足場で何やら人がもめている。作業服を着た数人の男たちと一人野暮ったい服装をした男が25mぐらいの所で一定の距離を取り合っている。 バカなことは辞めろ。 いやだ。僕にはもう何も残っていない。死ぬしかない。 お決まりの常套句の応酬。25m下まで聞こえるその声に、野次馬たちも興奮し時折、死ぬなと声が飛ぶ。別に野次馬集団に入ってまで、この成り行きを見ようとも思わない私は、すたすたと野次馬をかき割って、反対の通りに出た。 ふと横を見ると中学生ぐらいの子供数人が、一本の鉄骨に群がっている。通り過ぎる際に一人の中学生の手にバーナーが握られているのを見る。私の視線に気付いたのか、中にいた中学生の一人が威嚇の目を向ける。私は気にも止めずその場を離れていった。少しして後ろから、やったーと歓声が上がった様だが、私は後ろも見ずにただ道を歩くのみだった。
翌朝、新聞をとりに行くとポストに一通の封筒が入っていた。差出人は不明。訝しげに思い、開けるかどうか躊躇っていると、妻が興奮して私に話しかけてきた。 「あなた、昨日○○通りで建設現場の鉄骨が崩れたそうよ。死傷者多数だって。あなた、危なかったわね。」 私はすぐさま持っていた新聞に目を通した。 一面に大々的に載っている記事。大惨事。史上最悪の事故。悲惨。あらゆる言葉が飛び交う。テレビでは、コメンテーターが何やら色々喋っている。画面に映し出される事故現場。「・・・自殺見物にきていた野次馬の人たちも巻き込まれ、事故現場は凄惨の一言に尽きます・・・」 私は気分が悪くなり、トイレにかけ込んだ。便座に座り、ふと右手に握り締めていた封筒に気がつく。震える手で封筒を開けてみる。中身は一枚の写真だった。裏返して見た私は激しく後悔した。吐き気がこみ上げる。 写真に映っていたのは、この家だった。この家の2階。娘たちの寝室。そして影になって顔の見えない男たちは娘のベッドの周囲を取り囲んでいる。
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