「今時、流行んないよ。こういうの。」 そびえ立つ巨大なビルを目の前にして、またもや神崎徹はポツリと不満を漏らした。 「うるさい。おまえも早くこれ被れ。」 萎縮している徹に苛立ちを覚えながらも、篠崎公は黒の穴あきニットを投げつけた。 「大丈夫だって、俺の作戦はすべて完璧だから。安心しろよ。」 そう言ってハンドルにもたれ掛かったまま後ろを眺めていた安藤茂は、一人緊張感に欠けている。 「あいつ、マジむかつく。」 徹がボソリと呟く。 「ハンドルだけ、握りやがって。」 「しょうがないだろうが。俺しか免許持ってねえもん。免許持ってねえ、資格ナッシング男に言われたきゃねえよ。こちとらよ。」 茂はフロントを向いたままこちらには目もくれない。 「なんでだよ・・・」 「まあ、落ち付けって。茂、おまえも言い過ぎだ。」 二人を窘めながら、公はため息をつく。 「用は、行って、金盗って、帰って、そのままドライブ。これでオールOK。もう何も言うことないだろう。おっ、あれ見ろよ。いい女発見。」 本当に茂の考えた計画に乗っていいのか・・・ 運転席の茂を見て公は少しの間、車中で悩んだ。 ・・・でも、こいつのプランは余程のことがない限り、完璧だ。 普段グーダラな茂が珍しく、企てたプラン。 毎回銀行に通い詰めては、建物の構造の確認、人数、セキュリティー諸々を茂自身が調べ尽くし練りに練ったという計画。 銀行の前に止めてあった車をレッカーに持って行かれたことも度々あったらしい。 新規口座も作ってしまったらしい。 そういう茂の苦悩を考えると、今回の計画は俺たちはもちろん茂のためにも何とかせねばならない。 「よしっ」 公は再度決心を固めると、穴あきニットを勢いよく被った。 「おい、準備いいか。」 徹は力強く頷いた。 茂も黙ってこちらを見ている。 「ふー」 一呼吸入れ、 「行くぞ!」「お〜」 車内の3人は公の掛け声に続いて気合いを入れた。 ・・・ガラッ・・・ ワゴンのスライド式ドアが開いた。
「君達・・・そこで何やってるの」 見れば狭苦しい車内の中で、覆面を被った2人の男達と何ともさえない顔をした男が肩を組んで甲子園球児よろしく気合いを入れ合っている。 肥満体型の警備員は車内の光景をただただ眺めていた。 3人とも警備員に気づくと、明らかに狼狽え、ぎこちない笑顔をこちらに向けている。 「・・・ここ、駐車禁止のとこなんだけど・・・」 「あっ、そうだった。ははは・・・」 「・・・君達、強盗するんでしょ・・・」 「・・・いや〜・・・まだそうと決まった訳じゃ・・・」 その場で固まる3人と警備員。 「・・・止めといた方が良いよ・・・」 ボソリ呟く警備員。 「ここ、警備厳しいから・・・それに僕見ちゃったし・・・もう無理でしょ。」 ぎこちない笑いのまま固まっていた車内の3人はようやく意識を取り戻した。 3人はしばらくごにょごにょ相談した後、さわやかな笑顔で、警備員の方に向き直った。 「もう・・・無理です・・・」 3人は失望を顔に浮かべてなお、笑ってそう言い放った。 そんな3人の様子を見て警備員はしばらく腕を組んだまま考え込み始めた。 やがて、腕を解いた警備員は3人に呟いた。 「今日は見逃してあげるから・・・」 3人は鳩が豆食ったような顔で固まっていた。 「・・・いいんですか。・・・」 警備員は頷いた。 「本当に!」 再度頷く警備員。 「マジで・・・うそ・・・はー・・・」 3人とも力が抜けたように車内でへたれ込む。 「金無いんだったら、うちで雇ってもいいけど。」 「・・・マジ・・・すか」 「うん」 公は喜びを噛みしめていた。 徹は喜びを声に出して叫んでいた。 茂も顔に喜びが溢れていた。 「今すぐ、履歴書持ってきます。」 「もう今すぐに」 「この車で。」 車が再び動き出す。 「これから行ってきます。」 3人は笑顔で言った。 「おう」 警備員は笑って答えた。
「どうだった俺の計画。」 「馬鹿。あれおまえの計画じゃねえだろ。」 徹は穴あきニットを路上に投げ捨てた。 「やっぱり銀行強盗は割に合わないよね。」 「ああ、やっぱり働くのが一番だ。」 今日も空は青い。 お天道様は今日も僕らを監視なさっている。
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