おじさんは静かに立ち上がった。夜の帳が辺りを包む。その景色を眺めながら、わずかな夕暮れの光を涙にためたおじさんの目は、わたしをやさしく包んでくれていた。
「よ〜し、最後の仕上げだ。」
「おじさん、最後の仕上げって・・・」
わたしが枯れた声で聞き返すと、おじさんはにんまりと笑ってこう言った。
「加代子と相撲だ。」
見事に大きく刈り取られた円。明日には噂のミステリーサークル。おじさんは持ってきていた位牌を土俵の端に置くと、一人で四股を踏み出した。高く掲げた足が地面に突き降ろされる。もう残り少ない日の光を背負って四股を踏む一人の男。背中が光って見える。その背中を見て、わたしも黙っていられなかった。アウターのセーターを脱ぎ放り投げ、腕まくりをする。
「おじさん。」
おじさんはこちらを向くとビックリした様子だった。
「おじさん一人じゃつまんないでしょ。わたしが相手だ。」
おじさんは何かを言いかけたが、口をつぐんだ。そして、今度は大きな空にめいっぱい広がるような声で一言。
「よっしゃー。かかってこい。」(完)
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