朋美はアパートへと駆け出していた。階段を上り、二階の自分の部屋へと。やばい。朋美は恐怖で足が震えながらも懸命に走った。腰が砕けそうになる。誰か助けて。何度そう祈っただろうか。この人の本性を垣間見てからの生活。一時間後とに送られてくる電話も事件前は熱心なラブメールだとうれしく思っていた。しかし事件が起こった後では私を軟禁するための拘束具へと変わっていった。一時間ごとに鳴り響く着メロは朋美に多大な恐怖を与え続けていた。あれは愛していたんじゃない、私を束縛したいんだ。束縛することが彼の求めていることなんだ。引越しすることを決めたのはそれから数日経ってのことだった。あのときに出会った光世からは何度か連絡があり、その都度、彼は私に引越しすることを勧めてくれた。「彼は危ない。君はそこにいちゃいけない。」朋美は何度彼との電話で涙を流しただろう。朋美は彼との何度目かの電話で引越しする決意を固めた。その後の手順はすべて光世が整えてくれた。後は今日を乗り越えてくれれば清史から開放される。あの束縛地獄から。その矢先だった。
気が付くと朋美は何もない自分の部屋で横たわっていた。天井にある大きなしみが目に付く。「いつの間に寝てたんだろ、あたし。」朋美は一人呟きながら、体を起こそうとした。動かなかった。朋美は慌てて背後を見た。両手首が交差しあい、その上をロープで何重にも巻かれていた。同様に足も縛られていた。「嘘。」朋美は急いで起き上がろうとした。周りを見渡すけれども誰もいない。ただ薬缶を沸かす音が台所から聞こえてくるだけだ。早く逃げねば。朋美の体は身悶えを激しくするが、きつく巻かれたロープは外れない。「もう、もう、うっ、うん」朋美は泣き出しそうになるのを堪え、柱の角にロープを擦り付けた。よし取れそう。もう少ししたら取れそう。朋美は懸命に柱にロープを擦り付ける。何度も何度も。そのとき台所で薬缶が沸く音が聞こえた
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