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作者:mkonkon

第5回   5
 清史は老婆の胸倉を掴んでいた。「何変なもん見せてんだよ。このくそ婆。悪趣味にもほどがあるぞ。」凄む俺に対して老婆は一呼吸すると静かに口を開いた。「お前さんはこのときになって始めて彼女に本性を見せたのじゃ。よく見なさい。あんたの心に渦巻いていたのは独占欲。愛情でもなんでもない。彼女の怯えた目を見なさい。あなたの新たな人格に恐怖している。赤い糸はいつでも切れたり繋がったり綻んだりして曖昧なものじゃ。好みのタイプを見つけると自然に綻んだりすることはしょっちゅうじゃ。でもな、本来はまた繋がるんじゃ。一番身近なものに繋がり戻っていくものなのじゃ。愛情、友情その他諸々の感情でな。彼女にはもう畏怖の念が染み付いて、お前さんとの赤い糸は完璧に断ち切られている。お前さんが自分で行ったことじゃ。それがどういう結末を迎えたのかお前さんは忘れるはずがない。そうじゃろ。自分でしたことだからな。忘れるはずがない。ヒヒヒ」「・・・まさか、婆、お前・・・」

 あの日は月が綺麗な夜だった。清史は会社を出て大急ぎで朋美のアパートへと車を飛ばしていた。朋美は家にいるはずだ。ちゃんと1時間おきに連絡もとったし、何せ今日は朋美の誕生日だ。あいつは俺の帰りを待っているに違いない。いや、俺が今日はちょっと遅くなるって言ってたから、まさかこんな早くに帰るとは思ってもないやろ。清史は朋美のために会社を早退して家へと向かっていた。しばらくして朋美のアパートの前につくとアパートの住人の誰かが引越しをしているらしく引っ越し屋の車が止められていた。清史は気にせずに少し離れた駐車場に自分の車を入れると歩いてアパートへと向かっていった。そのときちょうど引越し屋のトラックが動き始めた。「ではこれを向こうに運んどきますんで。」「よろしくお願いします。もう中に運び入れちゃってて下さい。」トラックが走り出し清史はひょいっと道端へ退いた。清史はトラックを眼で追い、いなくなると再び歩き出そうとした。しかし清史の足は動かなかった。今、清史の目の前には朋美がいる。しかも様子がおかしい。朋美の顔には驚愕と畏れという言葉が張り付いていた。瞬間清史は悟った。「お前、何してんだよ。」卑屈な笑みを浮かべ話す清の言葉に朋美は体をビクンと震わせた。「ははん、そうかそういう事か。そうか。」

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Novel Editor