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作者:mkonkon

第4回   4
 「おいおい、本気かよ。嘘だろ。」清史は信じられない出来事にただ呆然としていた。トリックにしては出来過ぎている。「これ、あんただろ。しっかり見とくんだよ。」頭が混乱している清史に老婆は笑って言った。「ほら、あんたの右手を見るんだよ。」清史は呆然としたまま、婆さんに言われた通り右手に目を向けた。街道を二人で歩く清史と朋美はとても幸福そうに見えた。そんな清史の右手の小指と朋美の左手の小指には確かに赤い糸が伸び、二人の糸は確かに繋がっていた。「ほんとだ。」清史は呆けた声で言った。「これから糸が切れるからよく見とくんじゃよ。」老婆は二人の末路を楽しむかのように笑いながら言った。憎たらしく思いながらも水晶球に目を向けると清史と朋美がすぐ其処にある建物の角を曲がるところだった。すっと角を曲がる。と其処にいきなり男が現れた。「あっ。」清史は叫んでいた。男が二人の間を通ると同時に糸が解れていく。あれだけ絡まっていた糸が解れていく。
 清史はその男を見ていた。その男は立ち止まっていた。「すいません。お怪我はありませんか。」紳士的な態度の男に朋美は戸惑いながらも返事をした。「あっはい、大丈夫です。」「良かった。」「・・・」朋美の様子が少しおかしい。「うん、どうしたんですか。」「もしかして光世君?」「えっ」「光世君じゃない?」「あっ、はい、そうですけど。」途端に朋美の表情が明るくなった。「私、朋美。覚えてる?覚えてるかな。高校のとき一緒のクラスだった・・・」朋美の言葉を聞き、男は頭を垂れ考え込み、やがて清史の顔をちらりと見て、すぐさま朋美の方に顔を向けた。「ごめん、ちょっとよく覚えてないや。たぶんアルバムとか見たら思い出すんだろうけどさ。」すまなさそうな男の言葉に朋美は少しがっくり来たようだが、やがて顔を上げると、笑顔で同窓会の話をし始めた。同級生同士での内輪の話に清史は一人取り残されていた。朋美の同級生と言っても男である。しかもそれなりにスタイルも良く格好が良い。清史は内心こいつができるだけ早く帰ることを願っていた。そんな清史の気持ちを知ってか知らずか、朋美は男との話に熱中していた。「ねえ、光世君メルアド教えてよ。」「おい、ちょっと待てよ。」さすがの清史も朋美のこの台詞だけは我慢できなかった。「おまえいい加減にしろよ。メルアドふざけんな。おまえもだぞコラ、どこの馬の骨か知らんけど何俺の女をナンパしてんのや。」清史は凄みを利かせて男に詰め寄った。男は清史の剣幕に負けたのか一歩後ろに後ずさった。清史は自分の剣幕を朋美に向けた。「お前もだぞ。いい気になりおって。何がメルアドじゃ。ふざけんな。」そう言うが清史は朋美の顔を思いっきり叩いた。朋美が路上に崩れ落ちる。通行人が足を止めこの光景を見ている。朋美の顔は膠着したまま動かなかった。そばにいた男が抱き起こそうとする。「おい、お前さわんなや。」そう言うと清史は朋美の体を引っ張り上げ、強引に引いて立たせた。朋美は体を少し捻ったが清史の腕の力に負け、引きづられるように歩き始めた。清史の指の赤い糸は朋美の腕に巻きついていた。何十にも巻かれた糸によって朋美の腕は腫れ上がっていた。朋美は俺のものだ。清史の心はそのことで埋め尽くされていた。

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Novel Editor