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作者:mkonkon

第3回   3
 「婆さん、なにロマンチックなこと言ってんだよ。婆さんにはそんな言葉似合わねえから」老婆の答えに清史は呆れて苦笑した。「ひひっ、おまえさんはなぜ運命の赤い糸なんて言い方をするのか分かるかい。」「さあな。」呆れ顔の清史に老婆は話を続けた。「人というものはのう、末端部分に全身の霊気が伝わるものなのじゃよ。まあ簡単に言うとつぼや生命線みたいなものでのう。手や足、特に掌にはその人の霊気の糸が束のように集約しているのじゃよ。しかし糸も古くなれば脆くなる。時間が経ってくると糸の張力というよりも霊力が衰えていく。するとその内の一本が毛糸の糸のように解れ、外に広がっていく。それが近くの人と絡まり縺れていく。その糸こそが俗に言う赤い糸なのじゃよ。」

 老婆の赤い糸熱論も清史にとってはロバの耳に念仏だった。時折相槌を打ちながらも清史はまったくこの話が馬鹿馬鹿し過ぎて聞く耳さえ持てなかった。赤い糸?なんだそりゃ。そんなことよりも占い師だったら朋美を元に戻す方法ぐらい教えろっーの。そんな赤い糸談義なんかいいからさ。話を続けていた老婆はそんな清史の無関心さに気付いたのか「と言っても大抵の人は馬鹿馬鹿しいと感じるじゃろう。なあ、兄ちゃん。」そう言って話を切ると自分の懐から水晶球を取り出した。お決まりのパターン。もう付き合わなくてもいいだろう。「婆さん、コーヒーありがとよ。後、殴りそうになってごめんな。カッとなってたからよ。占いはもういいよ。」清史は缶コーヒーを机に置くと席を立った。ふと水晶球に目がいく。光が透くほどに磨かれた美しい球の周りには真鍮で作られた竜の装飾が見事だった。「婆さん、それ良いもんそうだな。」「おや、あんたもこの良さが分かるのかい。」訊いた清史に対して老婆は軽い皮肉で答えた。「もっとよく見るかい。」そう言うと老婆は水晶球に力を込め始めた。清史は椅子に座り直し、改めて水晶球を観察した。よく見ると真鍮だと思っていた竜は黄金のようにも見える。「婆さん、これ金じゃない・・・」清史は言葉を詰まらせた。老婆が呪を唱えている。その姿はとても声をかけれるものではなかった。全身の汗が一気に引いてくる。場が張り詰めていくのを肌で感じていた。「なんだ・・・これ。」ぴりぴりする感じに声を詰まらせる。次の瞬間、水晶球が光を放った。驚くまもなく水晶球には映像が映し出されていた。それは紛れもなく町を闊歩している清史と朋美、二人の姿だった。

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Novel Editor