「・・・もうあなたとは会いたくなかったの。」この言葉が朋美と交わした最後の会話だった。これを最後に朋美は清史の前から消えてしまった。最初は軽いジョークだと高を括っていた清史も、あの後朋美からの返事がないことに焦りを感じ始めていた。朋美と清史の関係はずばり恋人同士である。お互い不仲だったわけでもなく、むしろここまで順調に来ていた。あの会話の前日も朋美の部屋でご馳走になったし、朋美の様子も普段と何も変わらなかった。むしろいつもより明るかった感じだ。無論酷く思い悩んだ様子でもなかった筈だ。それがこの会話を最後に朋美は清史の傍から消え失せてしまった。
清史は車を飛ばして、朋美のアパートを訪ねていった。朋美は一人暮らしでこの新築アパートに住んでいた。あの会話の当日もここを訪ねていったわけで、合鍵を手に取った清史は朋美の部屋のドアをこじ開けた。朋美の部屋はもぬけの殻だった。置かれていた家具がすべて姿を消し、残っていたのは6畳分の畳と空の部屋だけだった。部屋に入った清史は辺りを見渡す。本当に何もない。清は自分のポケットから一枚の封筒を取り出した。朋美からの最後の手紙である。この何度も読み返した手紙を清史は再び読み返した。
「清ちゃんごめん。急にこんなことになって。清ちゃんきっと悲しんでいると思う。私もほんとは別れるのが辛いの。でももう無理なの。理由らしい理由ではないけど赤い糸が切れたってことかな。とにかくわがままな私を許してください。」
手紙を読み終わった清史は腸が煮え繰り返っていた。何でこんなことになったんだ。手紙に書いてある通り2人が別れる理由なんてまるでない。どこに別れる理由があった。どこに。清史は手紙を畳に投げ捨てた。「くそったれが。」清史は誰もいない部屋で一人悪態を付くと、叩き付けた手紙を拾い上げ、部屋を後にした。
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