『波打ち際』
僕は海を眺めるのがとても好きだ。
特に気分が沈んだときはよく近くの海岸へ足を運んだものだった。
海を眺めると単純にちぢこまった心が広がるような気がしたから。
海辺を歩く親子連れ、海水と戯れるカッポーを見ると和めたから。
でも、しばらく海を眺めていると飽きてくるので、
そんなときは波打ち際に砂山を作ってみるんだ。
どれだけの間、この砂山が押し寄せる波に耐えられるのか知りたくて。
けれども、止むことのない大きな波の前には成す術もなく崩されていく。
崩れそうになる度に新たな砂を追加しても無駄だった。
コンクリートで固めればいいのかもしれないけれど、
僕にそんなことなどできるはずもなかった。
そもそも僕はなんでこんなことをしているんだろう。
気が付くと夕日が水平線に接し、海はその色を濃くしていた。
家路に着く前にその日一番の大きな砂山を築くんだ。
そして木切れを探して、それを砂山へ突き立てる。
どうか次に僕が海岸に来るときまでは、
木切れが流されないでいてほしいと願いながら。
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