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忘れ得ぬ人 作者:愛田雅

第34回   雨2
ゲホッゲホッ

朝から、せきやらくしゃみやら鼻水やらで、大変なことになっていた。昨日、雨の中をさまよいすぎたからだろう。

ピピピ

体温計が鳴った。自分の部屋に体温計があるので、すぐに熱を測ったのだ。すると、39度3分もある。今日は、休むかな。急ぎの仕事があるわけでもないし。

食卓へと移動すると、母が、私を見て言った。

「風邪ひいたの?熱は測ったの?」
「うん・・・39度あったよ・・・。」
「そう。じゃ、今日は仕事を休んで、家で寝てなさい。あとで、医者に行ったほうが良いわね。」

そう言うと、すぐにおかゆを作ってくれた。それを食べて暖まったら、すぐに部屋に戻って横になった。誰かが職場に居そうな時間になったら、電話をしよう。大沢さんが出てくれると、一番楽なんだけどなぁ。

しばらくして、電話をしてみた。

トゥルルルル・・・

大沢さんが出ないかなぁ。

ガチャッ

「もしもし。」
「あ、大沢さん?」
「先輩じゃないですか。どうしたんですか?朝来たら、先輩が居なくてびっくりしたんですよ。」
「風邪こじらせちゃったから、今日は、休むことにするから。」
「風邪ですか?うつさないで下さいよ〜。じゃ、お大事に。」

電話したくらいで、風邪はうつらないでしょう!なんて、思いつつも、大沢さんが出てくれてよかった。一番楽な相手なだけに。

電話をかけ終えると、眠ることにした。

夕方になると、母に突然、起こされた。

「咲子、お客さんが来たわよ。」

お客?まさか、大沢さんがお見舞いに来てくれたのかしら?かわいい後輩じゃないの。わざわざ心配して来てくれるなんてねぇ。

ガチャッ

ドアが開くと、大沢さんが・・・と思いきや、そこに居たのは、市原君だった。

「市原君!?どうしたのよ、突然。」

何で、どうして、市原君が?熱のせいか、それ以上のことが浮かばない。思考回路がゆっくりと動き出し、大沢さんがしゃべったことが少ししてから浮上した。

「どうしたって、風邪ひいたって言うから、見舞いに来たんだよ。」
「見舞いって・・・、まさか、大沢さんじゃ・・・。」
「あぁ、大沢さんに家の場所を教えてもらって、もちろん、お前が風邪だってことも聞いたけど。それで、どうだ?調子は?よくなったのか?」

矢継ぎ早に聞かれ、思考回路の遅い私は、少し頭が混乱してきた。えっと、用は、体調が良いかどうかを聞きたいんだからっと。

「まだ、よくないわね。医者に行って薬もらって飲んだけど、朝よりはマシになったくらいかな。」
「そうか。明日も休んだ方が良いだろうな。無理しないで、ゆっくり休めよ。仕事は、心配しなくても大丈夫だから。」

なんだか、頼もしい言い方だな。安心してゆっくりと休ませてもらおうかしら。
と、ここで、市原君が来た理由がわかった。点数稼ぎだな。心配しているのもあるだろうけど、今まで、家までお見舞いに来てくれたことなんてなかったはず。病気で、休んだことは何度か過去にあったけど、これが初めてだもの。

「風邪うつるといけないから、早めに帰ったほうが良いんじゃない?」
「そうか?・・・そうだな。江田もよく寝たほうが良いだろうし。そろそろ帰るわ。じゃ、お大事に。」

そう言って、市原君が帰っていった。静かになるべく音を立てないようにと気を使っているのか、ドアも静かに閉め、廊下も静かに歩いているようだった。

さてと、眠るかな・・・と思っていると。

ガチャッ

突然、また、ドアが開いた。市原君が忘れ物でもしたのかと思っていると、竜が入ってきた。

「姉ちゃん、今の人って、彼氏?」

お前はマスコミかって言いたいくらいの気持ちになった。私を心配していないのか!と怒りたい気もしたけれど、そんな力が出ない。

「違うわよ。ただの同僚よ。考えすぎだね。」
「本当?別に、隠さなくたって良いじゃんか。」
「本当に違うんだから、隠してなんてないわよ。」
「つまんないなぁ。」
「竜、まさか、盗み聞きなんてしてないわよねぇ?」

ギクッ

竜の肩がかすかに動いた。どうやら図星みたい。竜も優もわかりやすいリアクションをするから、すぐにわかっちゃうのよね。

「盗み聞きしてたの?あの会話で、どうして彼氏だって言えるのよ。」
「・・・確かに。でもさぁ、家の中だからって思ったんだけどさぁ。本当に、違うの?」
「全然違うわよ。そんなこと言ってると、風邪うつすわよ。」
「絶対に、うつすなよ。じゃ、お大事に〜。」

薄情な奴め。しかも、勘違いまでしちゃってさ。これじゃ、風邪の治りも遅くなってしまいそうだわ。

眠りにつこうと思ったけれど、その前に、大事な傘がどこにあるのかが気になってきた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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