ゲホッゲホッ
朝から、せきやらくしゃみやら鼻水やらで、大変なことになっていた。昨日、雨の中をさまよいすぎたからだろう。
ピピピ
体温計が鳴った。自分の部屋に体温計があるので、すぐに熱を測ったのだ。すると、39度3分もある。今日は、休むかな。急ぎの仕事があるわけでもないし。
食卓へと移動すると、母が、私を見て言った。
「風邪ひいたの?熱は測ったの?」 「うん・・・39度あったよ・・・。」 「そう。じゃ、今日は仕事を休んで、家で寝てなさい。あとで、医者に行ったほうが良いわね。」
そう言うと、すぐにおかゆを作ってくれた。それを食べて暖まったら、すぐに部屋に戻って横になった。誰かが職場に居そうな時間になったら、電話をしよう。大沢さんが出てくれると、一番楽なんだけどなぁ。
しばらくして、電話をしてみた。
トゥルルルル・・・
大沢さんが出ないかなぁ。
ガチャッ
「もしもし。」 「あ、大沢さん?」 「先輩じゃないですか。どうしたんですか?朝来たら、先輩が居なくてびっくりしたんですよ。」 「風邪こじらせちゃったから、今日は、休むことにするから。」 「風邪ですか?うつさないで下さいよ〜。じゃ、お大事に。」
電話したくらいで、風邪はうつらないでしょう!なんて、思いつつも、大沢さんが出てくれてよかった。一番楽な相手なだけに。
電話をかけ終えると、眠ることにした。
夕方になると、母に突然、起こされた。
「咲子、お客さんが来たわよ。」
お客?まさか、大沢さんがお見舞いに来てくれたのかしら?かわいい後輩じゃないの。わざわざ心配して来てくれるなんてねぇ。
ガチャッ
ドアが開くと、大沢さんが・・・と思いきや、そこに居たのは、市原君だった。
「市原君!?どうしたのよ、突然。」
何で、どうして、市原君が?熱のせいか、それ以上のことが浮かばない。思考回路がゆっくりと動き出し、大沢さんがしゃべったことが少ししてから浮上した。
「どうしたって、風邪ひいたって言うから、見舞いに来たんだよ。」 「見舞いって・・・、まさか、大沢さんじゃ・・・。」 「あぁ、大沢さんに家の場所を教えてもらって、もちろん、お前が風邪だってことも聞いたけど。それで、どうだ?調子は?よくなったのか?」
矢継ぎ早に聞かれ、思考回路の遅い私は、少し頭が混乱してきた。えっと、用は、体調が良いかどうかを聞きたいんだからっと。
「まだ、よくないわね。医者に行って薬もらって飲んだけど、朝よりはマシになったくらいかな。」 「そうか。明日も休んだ方が良いだろうな。無理しないで、ゆっくり休めよ。仕事は、心配しなくても大丈夫だから。」
なんだか、頼もしい言い方だな。安心してゆっくりと休ませてもらおうかしら。 と、ここで、市原君が来た理由がわかった。点数稼ぎだな。心配しているのもあるだろうけど、今まで、家までお見舞いに来てくれたことなんてなかったはず。病気で、休んだことは何度か過去にあったけど、これが初めてだもの。
「風邪うつるといけないから、早めに帰ったほうが良いんじゃない?」 「そうか?・・・そうだな。江田もよく寝たほうが良いだろうし。そろそろ帰るわ。じゃ、お大事に。」
そう言って、市原君が帰っていった。静かになるべく音を立てないようにと気を使っているのか、ドアも静かに閉め、廊下も静かに歩いているようだった。
さてと、眠るかな・・・と思っていると。
ガチャッ
突然、また、ドアが開いた。市原君が忘れ物でもしたのかと思っていると、竜が入ってきた。
「姉ちゃん、今の人って、彼氏?」
お前はマスコミかって言いたいくらいの気持ちになった。私を心配していないのか!と怒りたい気もしたけれど、そんな力が出ない。
「違うわよ。ただの同僚よ。考えすぎだね。」 「本当?別に、隠さなくたって良いじゃんか。」 「本当に違うんだから、隠してなんてないわよ。」 「つまんないなぁ。」 「竜、まさか、盗み聞きなんてしてないわよねぇ?」
ギクッ
竜の肩がかすかに動いた。どうやら図星みたい。竜も優もわかりやすいリアクションをするから、すぐにわかっちゃうのよね。
「盗み聞きしてたの?あの会話で、どうして彼氏だって言えるのよ。」 「・・・確かに。でもさぁ、家の中だからって思ったんだけどさぁ。本当に、違うの?」 「全然違うわよ。そんなこと言ってると、風邪うつすわよ。」 「絶対に、うつすなよ。じゃ、お大事に〜。」
薄情な奴め。しかも、勘違いまでしちゃってさ。これじゃ、風邪の治りも遅くなってしまいそうだわ。
眠りにつこうと思ったけれど、その前に、大事な傘がどこにあるのかが気になってきた。
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