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忘れ得ぬ人 作者:愛田雅

第22回   資料室
「牧野と大沢さんは、緊急会議のために会場のセッティングに協力してくれ。俺と江田は、資料室の整理だ。」

市原君が仕切った。今日は、緊急会議が入り、また、資料室の資料が、整理されていないと指摘されたために、私と市原君が、何故かそちらに回された。

部長もどうして、市原君に仕切らせたんだか・・・。その部長は、すでに会場のセッティングやらなんやらで、忙しいんだけど。

仕方なく、市原君と一緒に資料室の整理をすることに。

資料室には、他には誰もいない。二人きりかぁ・・・嫌だなぁ。こう言うときって、普通、男と女の二人きりにさせる?と言うよりも、私がすでに女性として扱われているかどうかも問題だけれども・・・。

「私は、奥をやるから、市原君は、ここらへんをお願いね。」
「わかった。」

妙に素直に返された。なんだか、変な感じ。


ゲホッゲホッ!

ほこりの積もった資料に悪戦苦闘しながら、黙々と整理整頓に励んだ。

「なぁ!江田!この間のことなんだけどさぁ。」

出たよ。その話をするために、私をこっちに回したのね。嫌な予感はしてたけど。

「何?今、忙しいんだから。」
「やっぱり、諦めたくないんだよなぁ。今度、映画でも見に行かないか?」
「遠慮しとくわ。」
「素っ気無いなぁ。じゃあ、どうしたら、誘いに乗ってくれるんだ?」

嫌な質問だ。何て応えるのがいいのかな?はっきりと言う?それとも?

「なぁ!これじゃ、距離が縮まらないじゃないか!」

強引な感じ。それが苦手なのよねぇ・・・って、これだ!

「強引なのは、好きじゃないの。」
「・・・。」

おっ!静かになった!これで、もう付きまとわれないで済むかな?

「よっ!」

声のする方を向くと・・・。

「うわぁっ!」

ドまん前に、市原君が来ていた。付きまとわれないどころか、悪化してるじゃない!長年、市原君と一緒に仕事してきたけど、ここまで強引だったとは・・・。

「恋愛感情を持ったことがないのは仕方がないとしても、これから先、ずっとそうだとは思えないんだよ。」
「止めてよ。私には、そんな気は全くないんだから。」
「あんな理由じゃ、諦められない。可能性が、ゼロだとは言えないから。」

ゼロでしょう!仕事仲間であって、仕事のパートナーであって、恋愛が出来るような関係じゃない!この理由じゃ、諦められないって・・・どうしよう。それは、困る。

「他に好きな人がいるのか?」

ドキッ

他に好きな人・・・答えは、Yesだよね?そうよ、忘れられない人が、いるじゃない。

「えぇ、そうよ。」
「本当か?どんなやつだ?俺の知ってるやつか?」
「あなたの知らない人よ。あなたには、全く関係のない人だから。これで、気がすんだ?私、忙しいんだから。」

渋々持ち場に戻っていった市原君。これで、付きまとわれることは、無くなるだろう。あの落ち込み方を見て、確信した。あの肩が、そう言っている気がした。

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Novel Editor