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忘れ得ぬ人 作者:愛田雅

第17回   時計
ふぁ〜あ!

昨日は、なかなか寝付けなかったなぁ。結局、どれくらい寝たんだろう?最後に時計を見たのが、2時でしょう・・・起きたのが、6時・・・。と言っても、時計を見た後、なかなか寝付けなかったんだから、普段と比べると、かなり眠れてないなぁ。

足が重い。市原君と顔をあわせたくないなぁ。でも、大丈夫。きっと、何とかなるはずだから。

「おはようございます。」

人気の少ない職場に入ると、大きな声で、挨拶をした。
真っ先に、自分の席に着いた。何だか、市原君の席を見たくない気分。もう来ているのかどうかも確認が出来てない状態。それくらいはって、思うんだけど・・・。

コトッ

ひざの上に、まだ、かばんを置いた状態で、突然、机の上にカップが置かれた。

まさか・・・。

きっと、大沢さんだわ!って、大沢さんが、朝からお茶を入れてくれるなんてこと、あったっけ?

頭の中で、いろんなことが駆け巡るけれど、それよりも、一言忘れる前に・・・。

「ありがとう。」

そちらを見ずに、言うと・・・。

「どう致しまして。」

低い声が、返ってきた。これは、まさしく市原君の声だ・・・。どう声をかけていいのかわからないなぁ・・・。

何も言葉が出ないので、かばんを整理して、パソコンをつけて、女子トイレへと向かった。
その間、一度も市原君を見なかった。と言うよりも、見られなかった。昨日の今日だもん。私には、無理だよ。

気分を入れ替えて、すぐに自分の席に戻ると、大沢さんが来ていた。

「おはよう。」
「あ、おはようございます。」

大沢さんが、何かを探しているらしい。そうだ!返さないとね。

「大沢さん、昨日、時計忘れていったでしょ?」
「あー!良かった。無くしたかと思っちゃいましたよ。どうもすみませんでした。」

苦笑いしている大沢さん。時計を受け取ると、腕につけずに、机の上に置いていた。また、忘れなければいいんだけど。

「ねぇ、先輩・・・。」

お昼休みに、二人でいつものように、誰もいない会議室でお弁当を食べていると、大沢さんが、不気味な笑顔で話し掛けてきた。

「な、何よ。一体、どうしたの?」
「昨日・・・、聞いちゃったんですよねぇ・・・。うふっ。」

うふって、一体、なんのこっちゃ?全く、想像がつかない。

「どうしたのよ。はっきり言ったらどう?」
「実は・・・、市原さんと先輩が、話しているのを聞いちゃってぇ。」

話?昨日?嫌な予感がしてきた。

「話って・・・まさか・・・。」
「先輩ったら、隅に置けないんだからぁ。もう、やっぱり、市原さんとそう言う仲だったんじゃないですかぁ。」

そう言う仲!?って、一体、どういう仲だ???

「ち、ちょっと待ってよ。何をどこまで聞いたのかはわからないけど、勘違いしてない?」
「勘違いって?だって、私、市原さんが、先輩に告白してるのこの耳で、聞いちゃったんですからね!」

そう言えば・・・、何か物音が聞こえたんだったっけ。あれって、大沢さんだったのか。まさか、聞かれていたとは・・・。

「言っておくけど、私は、市原君のことは、何とも思ってないんだから。」
「えぇっ!?じゃあ、付き合ってないんですか?」

私の言葉を聞くと、大沢さんの表情が、見る見るうちに暗くなっていった。しかも、驚きの表情も覗かせていた。

「もちろん。断ったわよ。」
「そうだったんですかぁ・・・。」

何故か、大沢さんは、肩を落とした。そんなに、私と市原君に付き合ってもらいたかったんじゃ?

それは、無理ね。きちんと終わらせてないものがあるんだから、私には。無理な話だけど、終わらせられるものなら、終わらせたい。

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Novel Editor