1ヶ月前に、僕はこのアパートに引っ越してきた。
「引越しと言えば、引越しそば。でも・・・、どこまで配ればいいんだろう?」
幸い、僕は角部屋で、隣は一部屋しかなく、僕は、隣にだけ配ればいいだろうと思い、引っ越してすぐに隣の部屋を訪ねた。
隣の郵便受けには、苗字しかなく、何人分そばを配るべきかわからなかった。しかし、自分の部屋を思い返して見ると、同じ間取りだとすれば多くても二人だろうと思い、二人分を持っていくことにした。
ピンポーン
「はーい!」
中からは、甲高い声が聞こえてきた。そして、すぐに、小走りしているだろうと思われる、かわいらしい足跡が聞こえてきた。
ここには、女性が住んでいるのだと確信した。
ガチャッ
ドアが開くと、そこにはすらりと背の高い、華奢な感じで目がとても印象的な女性がいた。その瞳にうっとりと見とれていると・・・。
「あら、どちら様?」
ポーッ
その声を聞いた途端に、顔が熱くなってきた。声も華奢な感じで、僕は一瞬で恋に落ちてしまったのだ。
「あ、あの・・・。隣に引っ越してきた、丸山です。これ、もしよかったら、どうぞ。」
そばを差し出すと、女性はすぐにそばに手をかけると・・・
トクン・・・
かすかに指と指が触れ合った。僕の鼓動は、言うまでもなく早くなっていたのだが、女性は冷静にそばを受け取っていた。
「ありがとうございます。」
にっこりと笑って、そう言ってくれた。その笑顔が、たまらなく愛しく思えた。
「あ、はい・・・。あ、あの・・・、よろしくお願いします。」
軽く頭をさげて、そう言うと、女性はまたもにこりと微笑んでくれた。
それからはと言うと、大して話をすることはない。たまに朝、ゴミ捨て場でばったりあったときに、挨拶をしたりするくらいだ。
もっと近付きたいのだが、どうしたらよいのだろうか?
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