高校二年、初夏。
梅雨の終わりを告げる雨が、僕の頭上を襲った。 止むどころか、次第に激しく降り始めた雨に、捨てられた猫のようになってしまった僕。 通学途中に流れる川も、いつもより激しさを増しているようで、この大降りの雨にも負けないほどの音を生み出している。 一瞬、水の音しか今はない世界の筈なのに、全く別の音が耳に飛び込んで来た…気がした。 雨ではない、小さな小さなメロディー。 “この雨の中、そんな音が聞こえる筈がない。” そう自分に言い聞かせて再び帰路につく…が、またしても雨以外の音が僕の耳に届いた。 聞き間違いじゃなく、今度はしっかりと聞こえたのだ。 「…バイオリン?」 すでに通行人などいない道の途中、誰にでもなく問い掛けてしまった。 雨音に紛れて聞こえる音楽は、僕も聞いた事のある曲だった。 「when you wish upon a star…」 音楽に合わせて軽く口ずさんでようやく、何の曲か分かってしまった。 “星に願いを”僕も大好きな曲だ。 曲名は判明したところでもう一つの疑問に取り掛かりたい。 奏でてる本人は一体、どこにいるのだろうか。 心地よいバイオリン。懐かしい感じがしてしまうのは、離婚した母がバイオリン を弾いていた人だった…らしいという事もあるのだろか。 耳だけを頼りに僕は、何かにとり憑かれたかのように演奏してる人を探した。 果たして、バイオリンの主はバス停近くでこの雨の中気にもせずに弾き続けていた。 楽しそうに、嬉しそうに。濃いチョコレート色した長い髪を濡らし、薄紫の長いスカートまでびしょ濡れになっているにも関わらず…弾き続けた。 弾いていたのが女だった事よりも、雨の中続けている神経に驚かされた。 “すごい神経を持った女だ…。” それが後に自分の最愛の人となる君への…第一印象だった。 けれど、既に魅了されていたのかもしれない。
雨に負けず、バイオリンで踊る…そんな君に。
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