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真夏の幻影 作者:真樹

最終回   真夏の幻影(4)
真夏の幻影(4)

【幸せかい】
海岸をカップルで幸せそうにあるいていると、その仲を嫉んで割り込んで来る妖怪がいる
って聞きました。
男性が本気で女の子を幸せにしようと思っていない場合、その妖怪は男性のアソコに食ら
い付くそうなんです。
女の子が遊びだった場合には、数十匹の黒い影が現われ、砂に押し倒され全裸にされた上
妖怪に強姦されるといいます。

「幸せかい」と、海岸で声をかけられたら男性は「世界一幸せにしてあげる」と言い。
女性は「幸せになります」と、言うと妖怪は去って行くと聞きました。

海岸にも円陣ができていた。
そこにもまた燎が焚かれ、何か調理されているようで、美味しそうな香がここまで漂って
来ていた。
数人が駆け出して行き、様子を見ていた。
杉と梅と松もその中にいた。

小さな老婆が五目ご飯を炊いているのだ。
その脇には中年の男性たちのキャンプの焚き木同様に魚が捧に刺され焼かれていた。
「もうそろそろ、できるからみんなを呼んできて食べなされ。フォフォフォ」
歯の無い笑いを上げた。

霧のように降っていた雨は次第に強く降って来る。
「台風が来ているようじゃのぉー」
老婆はものおじする気配もなく、五目を炊きながら言う。

【台風の目】
台風の目の中には妖怪が住んでいる。
各地で被害者が増えるたびに霊魂を受けて被害も大きくなるのだ。
どんなに台風の勢力が大きかろうが、被害者の少ない台風では多くの犠牲者はでない。

また、台風の勢力の強い内に犠牲になったものの怨念が大きければ、その後の被害も大き
くなるのだ。
今、近づいてきている台風での犠牲者は1人。
沖縄で老婆が雨戸を閉めようとして吹き飛ばされ頭を強く打って亡くなっている。
霊的勢力はこれから増すと感じる。

「さぁーさぁー、食べなされ。食べなされ」
雨は強くなっている割りに老婆のまわりにはあまり降っていないようにも感じた。
キャンプの皆も老婆に五目をご馳走になり始めていた。
海坊主のような連中にも老婆は五目を惜しげも無く食べさせている。
目を擦って見ていると、まだ、波が荒くなっていない海から黒い人影のようなものが這い
上がって来ているようにも見えた。

遠くでラジオの台風情報が流れていた。
勢力を温存したままの台風10号は北北東の進路のまま沖縄から九州南部にゆっくりした
スピードのまま進んでいます。
雨も風も両方が強いまま各地で犠牲者の連絡が入っています。
熊本で用水路の水かさを見に行くと行って出た2人の男性が川に流され、消防で行方を捜
索中です。
また、同県で川にボートを繋留していた男性が誤って川に転落し大量の水を飲んだとみえ
救助されましたが、まもなく亡くなったもようです。

五目を食べている中に漁師風の男性と、2人連れの男性が流木に腰掛け食べている。
あのラジオで言っている人達なのじゃないかと、その時感じた。
それじゃー、五目を作っているこの老婆は沖縄で亡くなったと言う老婆かもしれないと、
杉やんは感じた。

雷が遠くで鳴り出した。
雷鳴は微かに聞こえる程度で本当に遠くで鳴っているようだ。
夜の空はやけに明るく感じた。
雲の流れも凄く早い。
真っ黒な雲が端から崩れ落ちているように見える。

「きっと、あの下は大雨が降っているのだろうな」
雨の降っていないのは自分たちの上だけのようにも感じた。
キャンプ地の皆は心配そうに寄り添っていた。

所が海岸では太鼓が持ち出され、踊りが始まろうとしている。
やはり、どこかおかしい。

【星の雫】
誰かがかける台風情報の後、台風の被害や各地の状況などが知らされていた。
新潟県佐渡の二ツ亀キャンプ場へ向う道が土砂崩れの為封鎖されました。
県の職員が食料とガソリンなどを持って、現地の様子を見に行く手はずとなっています。
また、キャンプ場に電話で確認したところ、キャンプ地ではさほど雨量もなく、平静を保
っているようで、心配はいらないとの事でした。
では、次ぎのニュースと、自分たちのキャンプ場が閉鎖された事を知った。

「ならあの人達はどこからやってくるのかしら……」
女子大生が不思議そうに、海岸で繰り広げられている状況を見ながらいった。
燎は数を多くして、太鼓や踊る人たちも増えている。

「上だ!」と、中年の男性が空を指差した。
自分たちの頭上だけぽっかりと穴が開いているように星が見えた。
星の雫のようにチラチラと光るものが降注いでいた。

風は相変わらず生暖かく不気味さを持っている。
ブルブルと震えながら、体が霧状の雨で湿っていて少し冷え始めている事に気が付いた。
「どうした。皆おどらないか」

【盆踊り】
仏教行事である盆踊りは死者を迎える踊りで、今現在のような祭りと合体した、余興のよ
うになっているが、実は死者と共に踊るのが、盆踊りなのだ。
女子大生も踊りの輪の中に入って行った。

台風は長崎を通過しなお北北東に進路を進め若干スピードを増していた。
長崎の原爆の日でもある。
その数、無数の光が降注いでいた。
あれらはみな原爆の被害者の霊なのだろうか、それらが星の雫のように降っていたのかも
しれない。

高知では観測史上最大の雨量を記録し、消防団の数名が川に流され尊い命を落していた。
海岸ではやぐらを建てるためかハッピを着た消防団らしき人たちが現われた。
トントントントンと手際良く盆踊りの準備が進められて行く。

提灯を持って現われる人達もいた。
「この上の穴と台風の目が繋がっているって事……」
杉は先ほど聞いた台風の目の話を思い出して言った。
「まさか……」
まっちゃんが、杉を突っついてからかうように言う。
「おい、あれを見ろ」

海岸に道ができてきていた。
二ツ亀の並ぶ海に白い砂浜が現われてきた。
降注ぐ光でそれが映し出されていたのだ。
何やらが海を渡ってやってくる。
「おいおい、どうなっちまうんだ。俺たち」
心配そうにしている若者3人組みに中年の3人組みの一人が話出す。

「われわれもあの中に入ってしまいましょう。呪い殺されるなら、多いに騒いだ方が得っ
てもんですよ」
そんなもんかと顔を見合わせるのだった。

【金縛り】
われわれは天体観測をするためにそのキャンプにテントを張ったのだった。
だから、あまり人がいる次期よりいない次期を狙ってキャンプをした。
夏が終り夏休みもあとわずかになった週の事。

すでに、秋風が吹き始めていた。
「誰もいないキャンプ地って寂しいな」
そう、誰かが言った。
子供達の遊びはしゃぐ声やバーベキューを楽しむ家族などの影が見えるような気がする。
日中に望遠鏡をセットし、われわれのグループだけのキャンプだ。
男女数名子供も数名いた。

一日目の夜。
天体観測のため8時頃から望遠鏡を覗き始め一晩中覗いていた。
子供達は疲れて寝ていた。
しかし、大人は夜明けまで観測を続け、太陽を見て就寝する事にした。
その次の日の事だった。

地震なのだろうかと地面がゆれるようで目が覚めた。
時計を見ると午後の1時頃だった。
そっと、テントから外を見ると女性が食事を作ってくれていた。

「目が覚めましたか」
と、仲間の奥さんに声をかけられた。
「あっ、そろそろ起きようと思っていたんです」
わたしは何も無い様にしている奥さんに聞いた。
「今、地震ありませんでしたか」
「いいえ」

確かに地面がゆれたように感じたのだが……。
もう一度、テントにもぐり込み、まだ寝ている仲間を見ても誰一人地震だと飛び起きる者
もいないから、何かの間違えか夢でも見たのだろうとわたしは思って、目を閉じた。
所がまた地面がゆれる思いがして目を開ける。

すると、テントに大きな人影が映っていた。
テントの窓の網越しに大男が覗いていたのだ。
その大男と目があってしまい、わたしは言葉を無くした。
ギョロギョロとテントの中を覗き込む大男。
声は出ない、体も身動き一つできない。
金縛りと言うヤツかもしれないと思った。

必死に声を出そうとしていたが声はでない。
大男はテントの両端を持ちグラグラとゆすっていた。
地震と思ったのはこの大男がゆすっていたののだ。
「うぅぅ、わぁぁーーーーっ」
搾り出すように声を上げた。
男はガサガサと林の中を駆けて逃げ去った。
あれは、いったいなんだったのだろうと、今でも思う。

1980年と言えば北朝鮮の工作員が頻繁に佐渡や新潟に接近していた時期と重なる。
原爆記念日の狭間であった、6日から9日までのこの時期だけに、考えさせられることも
多かった。また、台風の接近は工作船の接近を邪魔していたのかもしれない。自分達は、
台風のおかげで拉致されなかったのかもしれない。そう言う事は推測だけで、今となって
考えると、少し無謀なキャンプだったと、思うのだ。

(おわり)

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Novel Editor by BS CGI Rental
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