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真夏の幻影 作者:真樹

第2回   真夏の幻影(2)
真夏の幻影(2)

そして、夜。
海岸に集まって、お墓の真ん中の一番大きな墓石のところに置いてある札を取って戻って
来ると言う肝試しが始まったのだった。

カップルで向う人や家族全員で向う人もいた。
キャーキャーと盛況に肝試しは終了し参加した人達も何事も無く解散となったのだった。

ところが、後片付をしているはずの主宰側の一人が戻って来ない。
様子を見に墓地に行く事にした。
懐中電灯で照らしながらでも墓地は気味が悪かった。
肝試しを主宰した者がその晩に肝試しをされる事になるとは思いもよらなかった。

「幽霊なんかいない」
と、声を出して恐怖を打ち消して墓地の中を帰らぬ一人を探しにやってきていた。
墓地は静まりかえっている。
肝試しの時、あちこちで聞こえた悲鳴や話し声は平静を保つ事ができた。

だが、その静寂も数人の黒ずくめ達に襲われ一瞬の内に怒涛の渦中に遭遇したのだ。
「なんだ、お前ら!」
そいつらは、黒い袋を担いで海辺に走り去ろうとしていた。
肝試しの時にはちゃんと閉まっていたはずの墓石の石が外され大きな穴が開いていた。
奴らはこの中から出てきたのだろう。

あれは、北朝鮮の工作員だったのかもしれない。
海岸線から遠ざかる閃光は何かの合図だったのだろうか。
いなくなった人は海岸からヨロヨロと戻ってきた。
「何がなんだか、さっぱり分からない」
と、当時は言っていた。

「佐渡島で肝試しだなんて、今考えると凄い恐怖だったな」
「贄の河原の話は知っているかなぁー」
と、二人目が話し出した。

【心霊スポットガイド】
確かに北朝鮮の拉致も恐いけど、テレビ番組の収録する側も意外と怖い事が多いんだ。
テレビを見ている側は、怖いとかヤラセだとか言っているけど、ブラウン官の外で安全は
確保されている。

でも、実際にロケに行って深夜に撮影したり、土地でやってはならないって事をやったり
するもんで、幽霊なんかでないとか、心霊現象なんかあるわけないとか言いながら、実際
には、御払いや霊媒師の除霊を頼んだりと、内心は穏やかじゃないものだ。

心霊スポットガイドなどと言うテレビ番組を作ったスタッフの話を聞いた事がある。
その場所が、ここ佐渡島だ。
佐渡はいろいろな聖人が島流しになったりと、心霊スポットとしては有名な場所でもある。
恐山の贄の河原に次ぐ、有名な河原がここのキャンプ地のすぐそばにあるんだ。

と、話手が言うと、円陣から悲鳴が聞こえた。
「贄の河原の石を自宅の持ち帰ると、石が自ら元の場所に戻ろうとするって言うんだ」
「そんな石を持ち返っちゃ駄目じゃない!」
「ところが、番組制作側としては、やってはならないって事をしなければ、番組にならな
いだろう。だから、幽霊や心霊現象なんか信じていないって人を募集して、贄の河原の石
を自宅に持ち返らせて、その後どうなるかってのをやるんだ」
「それで、どうしたの」

番組の募集で、3人の若い男性が応募して来た。
東京、埼玉、千葉の面識の無い3人が佐渡に渡ってそれぞれが贄の河原から石を自宅に持
ち帰る事になったのだ。

「一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため」
と、石を積み上げる小さな子が無情な石積みをするあの贄の河原を皆さんはご存じだろう。
あれは、三途の河原の事なんだ。
ところが、そんな心霊スポットには霊が集まる。
船幽霊って知っているかな。

船にしゃもじで海の水を入れて船を沈める腕だけの幽霊の事。
海で死んだ人達の魂が贄の河原にぼやっと浮かぶ人魂となって現われるとか。
ようするにその河原にある石には霊魂が憑依している事があるって事なんだ。

若い男たちは、ふざけ半分で石を拾った。
一人はマジックで顔を石に描いた。
最初は、漫画チックにふざけた顔を描くつもりだったらしい。
でも、描いている本人がその顔を見てビックリして石を放り投げてしまったんだ。
「俺、こんな顔を描くつもりじゃなかった」ってね。
苦痛に満ちた、恐ろしい顔が石には描かれていた。
「なんだ、怖がっているんじゃんない」
「持ち返らずに、企画から降りた方がいいぞ。アハハ」と、ふたりはバカにした。

彼は企画を断念した。
その日、彼は高熱を出して当日に佐渡から帰るはずだったのだが、両津の病院で入院する
事になってしまったからだ。
「おいおい、あんな根性の無い奴を連れてきちゃ駄目だよ」
「まったく、馬鹿げている。こんな石に何ができるって言うんだ」
と、馬鹿にしながら他のふたりは石を持ち帰ったのだった。

その後、すぐに一人からテレビ会社に石が送られてきた。
その中の便箋に、企画から降ろさせてもらうと書かれていた。
石は贄の河原に返して欲しいと。

スタッフは彼の家に出向いた。
でも、彼はスタッフと話しをしたくないと断ったそうだ。
石を持ち帰ってから、家族の者が交通事故で死亡したり、自分も今は病気になってしまっ
たと言う。
それが、石のせいだと彼は思いたく無かった。
自分がそんな企画に参加したのが、原因で家族を亡くしたとは誰にも言えなかったのだろ
う。

残る最後の一人だが、彼には何も起こらないように皆は思っていた。
ふたりがそんな目に遭っているのにひとりは何も無い。
そう、誰もが思っていた。
ところが……。

「そうそう、その彼だけど、わたしが会ったのは」と、中年の3人の内の一人が言う。
「えっ、その話って本当の事なの?」
と、女子大生から恐ろしい声があがった。
「もちろん、本当の話だよ。今日みたいな台風の迫って来るような時だったな」

話は、3人目に移っていた。

【消えた轍】
そうそう。
この場所だよ。
まだ、若かった頃の話さ。
どうしても、その日の内にここへ辿り付きたかったんだ。
そうでなければ、大雨が降ってくるかもしれないって思ってね。

と、中年の男性の一人が話だした。
かれこれ、30年も前の事らしい。
その年は台風のあたり年だった。

台風で道が寸断されてしまって、ホテルの従業員やここ二ツ亀の住んでいる人たちの安否
を確認するために男性はやって来ていた。
岩が道路を塞いでいた。

電気や電話さえ不通になっていた。
今のように携帯電話も無い時代だ。
住民の安否は実際に行く以外に確認の方法が無かったのだ。

だから、道の脇の土手を上ってホテルに向かっていた。
午後4時頃だったろう。
夕日に照らされ、ホテルはそこに被害も無く立っていた。
台風が多くの被害をもたらせていたはずなのに、二ツ亀キャンプ場につくなり、そんな事
はなかったかのように美しく静まり帰った海が広がっていたのだ。

「まさか、こんな事が……」と、わたしは自分の目を疑っていた。
フロントに行くと、従業員が出てきた。
「食料とかどうですか」
と、聞くと住民の方々もホテルに非難しているし、一週間程度の食料があるので、道が復
旧されるまで、持ちこたえられると、実に落ち付いた話をしていたと言う。

初老の従業員はまだ先にライトアップされているホテルで働いている事だろう。
「それで、石を持ち帰った男の人とどうつながるの」と、せきたてる声がした。
「ま、話はこれからなんだ」

ゴクリの女子大生は生唾を飲み込んだ。
わたしは、その足で住民や被害の状態を確認するために二ツ亀の岬や周辺を調べて回って
いたんだ。
それが、ここの場所にテントが張ってあってね。
「ここですか」
と、ヨウは言う。
「そうそう、キミが座っているその場所だよ」
ヨウはドキッとした。

一人用の小さなテントの隣にバイクが駐車されていた。
まだ、オートキャンプなんて事が盛んじゃなかった昔の事で、バイクでテントとは珍しい
と思ってね、声をかけたんだな。

「台風が来ているんで、誰もいなくて寂しいですね」ってね。
「あはは、そんな事はないですよ。さっきまで、女子大生のグループが騒がしくしていた
んですよ」
と、男性が指差した先には人影はなかった。
「あれ、もう帰っちゃったのかな」
「そんなはずは無いここに来る道は寸断されていてわたしもやっとのこと辿り付いたんだ
から」
「えっ、そうなんですか」
と、バイクの男性はキョトンとしていた。
だから、わたしもその男性に忠告をしておいたんだ。
「二つ目の台風が近づいているんで、先の台風でゆるんだ地盤にまた雨が降って土砂崩れ
をおこすかもしれないから気を付けないといけないよ」と、その場は彼をそこに置いてホ
テルに戻ったんだ。

(つづく)

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Novel Editor by BS CGI Rental
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