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真夏の幻影 作者:真樹

第1回   真夏の幻影(1)
真夏の幻影(1)

杉本曜(すぎもとよう)
梅田繁(うめだしげる)
松枝栄(まつえださかえ)

高校男子3人は、夏休みを使って新潟のキャンプ場に行く。そのキャンプ場で知り合った
人たちと夜の一時に怪談をする。

1980年夏。
台風10号は8月4日に発生した。
中心気圧950ヘクトパスカル。
最大風速40m/s。
最大瞬間風速60m/sと勢力を衰えさせる事なく。
時速20km/hと言うゆっくりした速度で北北東に向って進んできていた。

杉本曜。梅田繁。松枝栄の3人が新潟県佐渡島の二ツ亀キャンプ場にやってきたのは8月
5日の事。男ばかり3人のグループで、杉本曜は中肉中背普通の男子。背の高い梅田繁。
小太りの松枝栄。杉、梅、松の気の置けない仲間である。

3人は広島の原爆記念日の6日から長崎の原爆記念日の9日まで滞在する予定でいた。
台風もそれに合わせ僕らが滞在する佐渡に目掛けやって来ていた。

その日の夕方、キャンプ場を経営しているホテルのロビーで滞在期間を書き、いろいろな
注意点などを聞き、キャンプ場に案内されたのは、日が暮れる前の午後5時過ぎの事だっ
た。トイレや自炊場などを説明を受けた。この日没時間は、午後6:50くらいだ。

8月5日の午後6時半頃の事だ。二ツ亀キャンプ場は岬の突端にあり、夕日と朝日を水平
線に見れる。今、水平線に日没する太陽を見た。コンパスで、北の方向を確認し、日の出
の位置も確認した。正座早見表などもそろえ夜空を想像していた。
杉本が、空に星座を書くように大きく手を振って言う。
「この方向から、この方向に天の川が流れて、だいたいここら辺に、白鳥座が出てくるは
ずだね」
「そうすると、大熊座は?」
「じゃぁー、カシオペアはこっちになるな」
「ペルセウスにアンドロメダだな」
と、まだ出現していない星座を描いていた。

日暮時に、二ツ亀と呼ばれる所以の小島が下の方に見え、夕日に輝いて幻想的に見えた。
我々は、すぐにテントを設営し、持参した食料を軽くたいらげた。キャンプ場でカレーを
作るのは、小学生の林間学校で、彼らはカレーを作りに来たわけじゃないので、レトルト
食品やら、インスタントラーメンなど、また、売店で弁当を買う。または、キャンプ場を
経営しているホテルの食堂に行って食事をする。また、お風呂も入る。だから、野営をし
ていると言う感覚はあまりない。ようするに、野外で星の観測や、友人と一緒の時間を過
ごす事を目的としていて、キャンプそのものに目的を持っているのではない。しかし、そ
の夜は台風の影響で星空を見ることはなく、早々に寝ることとなった。

翌日、滞在者が荷物をまとめ帰り支度をしている風景の中、デーキャンプでやってきてい
る小学生ら千人位が小高い丘の作り付けの巨木を半分に切ったテーブルと椅子が並べられ
た所に見えた。今の時間は、8時すぎだ。そして、今日は広島に原爆の投下された原爆記
念日にあたる。

1945年8月6日未明3:00頃、原爆を搭載したエノラゲイ号は、マリアナ諸島のテ
ニアン基地を飛び立った。そして、長さ3m、直径76cm、重量4tの原子爆弾は、同
日午前8時15分、広島上空580mで炸裂した。一瞬に4000度を越える高熱が、半
径3kmを焼き尽くした。その後、広島市内全土が炎上し燃えつくされたのだった。

千人の小学生はその時間になると、全員が立ち上がり、広島の原爆記念ドームで行われて
いる式典を放送するラジオが流され、平和の鐘を一緒に聞き、黙祷を捧げた。我々もそれ
にならい、一緒に黙祷した。ざわめきとともに、緊張感はほぐれ、いつも同様になる。

二ツ亀キャンプ場は、岬から海岸線まで広大な土地をキャンプ場としているので、それら
を見て回るだけでも一苦労だ。
彼らが設営している場所は、丘の上の10階建てのホテルの見える坂の中腹ほどの所。
そこからは、炊事場所も近く、トイレやシャワールームも目の前にあり、便利な所だ。

彼ら3人はテントを張り、ラジオをかけ、台風情報を聞いていた。
見回りに来たホテルの人が、やってきて言う。

「台風が心配ですね。でも、今夜もなんとかもちそうですけど、明日はこちらにまで影響
がでるかもしれませんね」
と、心配そうにしていた。
そして、帰り際に言う。

「ほら、あそこに女の子ばっかりのグループがいるでしょう。あなたたちと同じだけの滞
在なんですよ。彼女たちは大学生のサークルで17・8人もいるんです。お友達になれる
と楽しいでしょうね」
などと、笑いながら帰って行った。
キャーキャーとはしゃぎ回る女子大学生達。
と、言っても彼らは高校生だから、お姉さん達と言う表現の方がいいのだろう。

ふと、気付くと中年の男性ばかり3人のグループが、静かに炉に火を入れ、トウモロコシ
を焼きながら、ビールやウイスキーなどを飲んでいるグループ。
その内の一人が、こっちにやってきて言う。

「どう、トウモロコシ食べない」
と、香ばしく焼けたトウモロコシを持ってやってきた。
彼ら3人は、それを丁寧にお辞儀をして貰った。
「キャンプって、こんなふうに垣根の無いところがいいんだな」
と、梅が言った。
杉本はヨウちゃんと呼ばれ、梅田はウメさん。松枝は、マッチャンと呼ばれていた。

キャンプ地での楽しみはいろいろある。
観光や温泉、お土産や穴場での美味しいもの。
それらもあるが、何よりもキャンプ地ならではなのが、人とのコミュニケーションだろう。

それも、夜。
また、夏ともなると怪談だ。
楽しい一日は、海水浴や大自然を満喫し、じょじょに夜のとばりが降りてくる。
自炊はほとんど終った。
片付けも済、小学校のキャンプファイアーやダンス、花火大会なども終り、消灯を知らせ
る「夜は静かに他人に迷惑がかからないようにして、自動車のエンジンなどは停車中アイ
ドリングを続けませんように」などと放送も入った。

女子大学生などが、浜辺に遊びに出かけて行く。女子のはしゃぐ声は彼ら3人をかきたて
る。彼ら3人は女子大学生を追いかけるようにテントからのこのこ出てきた。

しかし、お酒などを飲み静かなギターの音色を立て、ウエスタンチックにハーモニカなど
を吹く、中年の男性3人のテントの前に来て足が止まった。
中年男性3人のキャンプもまた渋くてよい。
梅田と松枝は女子大学生を追いかけて浜辺に行った。
杉本は日中に釣った魚の入ったバケツを自分達のテントに戻って取って来た。

中年男性3人のテントの横にはられたタープテント、骨組みに屋根だけの夜露をしのぐた
めのあずまや的テントにおじゃまして言う。

「昼間はトウモロコシありがとうございます。お礼にこれ」
手に日中の魚釣り獲物をバケツに入れて中年男性3人に渡した。
「おぉー大漁だったんだね。こりゃー凄い」
中年男性3人は魚の口から捧を刺し込み、石を炉のように組んで焚き火をしている回りに
5本ほど刺しこんで焼き始めた。

香ばしい焼き魚の香が立ち登り、その香に釣られてやってくる女子大生もいた。
魚は大漁で6本、7本とその数を増やしていく。

ビールやウイスキーを片手にその輪に入りこんでくる人達も幾人かいた。
もちろん、自分達のテントで夕食のおかずを持参してくる。
中年男性3人は誰が輪に入ろうが、心地よく迎え入れた。
輪の中には、小学生の低学年の女の子さえいた。
優しく串刺しの魚を取って与え、まったくの他人とは思えない情景だ。
他にも炉辺には、トウモロコシや生のイカまで串刺しに刺し込まれた。

ギターはプロ級。ハーモニカもエキゾチックで酔いしれてしまいそうに聞き入っていた。
中年男性のリーダー格なのだろう男性は静かに話出した。
「若い頃、よくユースに宿泊して旅行したもんだ」
ギターの男性はあいずちうって言う。
「そうそう、こうやってみんな集まって、ゲームや話しをしたもんだ」
「こう暑いとやっぱり怪談ですよね。わりとこれだけの人が集まるとひとつや二つはマジ
恐い話しを聞かせてくれる人がいるもんだ」

パチパチと薪が火の粉を弾かせていた。
キャンプ地の夜は明け方まで長い夜を迎えようとしていた。
台風の接近に伴い暗雲が渦巻いている蒸し暑い異様な雰囲気の夜になってきた。

【肝試しの夜】
小佐渡の日本海側、バンガローが立ち並ぶ海岸線のキャンプ地にやってきた男性たちの2
5年前の話だった。

男女数人のグループで5棟のバンガローを借りていた。
その中には恋人同士もいたし、家族もいた。
小学生から御年寄りまで、年齢も様々だ。
そのキャンプ場のド真ん中に岩海岸の見える所に墓地があった。
だから、誰とも言わずに夜になったら、肝試しをしようなどと言う事になったのだった。

(つづく)

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Novel Editor by BS CGI Rental
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