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ふたりの回り道 作者:真樹

最終回   仲直り
早希の入院している病室に美優がやってきた。そんな豪華じゃないけどちゃんと花まで持って、神妙が顔をしている。

「み、美優…」
「さ、早希…あたしが突き落としたって思っているんでしょうけど、それは違うわ」
「だって、『滅茶苦茶にしてやる』って…」
「つい、気が立ってそんな事言ったかもしれないけど、あたしあなたとお友達になりたいといつも思っているの」
「えっ、それってほんとに」
「もちろんよ。早希!」病室のベットで美優と早希は抱きしめあった。

「おいおい、早希ったら、何、寝ぼけて!」と、頭をこずかれた。
「痛たたた…」それは、病室のベットでうたた寝をしている時に美優の夢を見ていたのだ。頭をこずいたのは、早希の母だ。

「美優ちゃんの夢を見ていたのね。美優、美優って言っていたわよ」そぉー聞くと早希はゲーゲーと吐くまねをした。
「何であんな奴の夢を見ちゃったんだろう」
「きっと、美優ちゃんと仲良しになりたいって、どっかで思っているんじゃないの?」
「無い無い、絶対にそんな事無いって、美優と仲良しになんて考えれないよ」そんな話をしている所へ父が病室へとやってきた。

「足の具合はどう?」
「もう、そんな痛くないよ。先生も夕方の検診の後、退院してもいいって」
「そうだな。怪我は病気じゃないんだから、そんなに入院している必要もないって事か」先生の検診も終わり、退院が決まった。学校帰りの小太郎と有二にクラスの女子数名と影に美優の姿も見えた。早希は美優をまったく見ようともしない。絶対に突き落としたのは美優だと思っているからだ。

     *

2・3日で早希は学校にも登校できるようになっていた。松葉杖が痛々しく、3階までエレベーターのある棟まで行って大回りをしなければならなかったからだ。

「早希、おんぶしてやるよ」
「やだやだやだやだ。恥ずかしいから、絶対にやだーーーーー!」そう、申し入れた小太郎を断って、大回りをしてエレベーターを使うつもりの早希だ。校舎の裏側を通っていくと、少しは近道となるので、人がほとんどいない校舎裏を歩いていくと美優が一人で朝練をしている所を見かけた。

「なんで、一人で走りこみなんかしているの…」早希は美優に気が付かれないように見ていた。飛び入りの100メートル走の時も、ハードル走の時も早希と良い勝負をしていた。まったく練習をサボってばっかりいたら、実力的に大差がつくはずなのに、練習にも出てこない美優が互角なのは変だと思っていた。
「一人っきりで練習していたって事なの」

     *

授業が始まって、早希は隣の席の美優を見た。階段から突き落としたのが、美優なら何かそれなりの反応があるんじゃないかと覗き込んだりもした。でも、美優はまったく早希を無視しているようにも感じる。放課後まで、ずっと美優を観察していたが、何も分らなかった。放課後に早希は木下を呼んだ。

「ねー、木下くんって美優が好きだよね」
「な、なんだよ。急に!」木下は目を白黒させ、図星にされた恋心を隠そうとしている。
「美優って、小太郎にちょっかいを出しすぎって思わない?」
「まぁー、早希ちゃんと小太郎が付き合ってるって知ってんだし、ちょっかい出すのって良くないっては思うけど、美優が小太郎を好きになるのは自由だしな」
「自由なの?」早希は強い調子で食い下がった。
「そりゃーそうさ。付き合っているって言っても、結婚してる訳でもないんだし、俺達は高校生なんだから、恋愛は自由に決まっているよ」そう、説明され、早希は納得した。

「それじゃー、あたしが間違っていたって事?」
「ヤキモチ?」
「……」
「小太郎は困っているよ。女子を切り離すって事で女子のキャプテンを早希ちゃんにするか、美優ちゃんにするかってさ」
「小太郎が?」
「早希ちゃんと別れるなんて、会議の時にいいだすしまつだし」
「小太郎があたしと別れる?」早希は頭をぶん殴られる思いだ。そんなに小太郎を追い詰めていたなんて思いもよらなかったからだ。早希はうなだれたまま、松葉杖をつきながら部活には出ずに家路についた。

     *

松葉杖を付きながら早希はいろいろ考えていた。美優の事を誤解している事があるのかもしれないと思い出していた。美優が突き落としたと決まったことでもないのだし、そう思い込んでいるのは自分だけなのだ。帰り道にある商店街を抜けていくとスーパーで買い物をする美優を発見した。

「あたしって嫌な女の子だったかもしれない。美優が父子家庭なのをからかったり、お母さんが不倫で離婚したとか…。美優に嫌なこといっぱい言った…。美優にしてみたら、あたしって嫌な奴なんだ、きっと」

早希はコツコツと松葉杖をついて俯きながら帰っていった。その後には涙の雫が点々とついていた。

     *
     
それから、一ヵ月後。病院でギブスを外されている早希は、先生に催促をしていた。

「早く、早くしてください。今日、陸上の大会があるんです」
「ギブスを外してその足で大会に出るって訳じゃないだろうね」
「そうじゃなくて、応援に行くんです。松葉杖で行ったら恥ずかしいでしょう」
「早希ちゃんったら、ほんとうに大会に応援に行くつもりなの?」
「もちろん。みんなと応援に行くって約束したんだもん」

タクシーで競技場までやってきた。高校の陸上競技は応援にはそんなに生徒はやってきていない。でも、ブラスバンドと応援団が盛り上げている。体育会とはちょっと雰囲気は違う大会だ。いろんな学校の制服姿が見られるのと、応援する生徒より出場する生徒の方がはるかに多いことだ。何々学校のプラカードや円陣を組む生徒の輪が入場ゲートまでぎっしりとふさがっている。タクシーでやってきた早希は自分の学校のプラカードを探したが、まったくどこに陣取っているのか見当も付かなかった。母が応援席で応援しようと言うので、そうすることにした。応援席の地図に学校名が書いてあり、その場所で応援するのだと分り、自分の学校の応援席に向った。

「あっ、あれは星野早希だよ」よその学校の生徒が早希を指差してコソコソと話をしていた。超高校級と言われ期待されていたのに、怪我で欠場している早希が応援に来たので、サインなどをねだられたりしたのだ。
「ゴメンね。あたしそんなに期待されるほどの選手じゃないんでサインなんかできない」そう断って、早希は応援席に向った。小太郎は自分の競技と選手の世話でずっとグランドで忙しくしている。顧問の先生も小太郎に頼りっきりで自分の出番もままならないほどに忙しくしていた。

「あたし手伝ってくる」と、早希は小太郎を発見してすぐにグランドへ降りて行った。
「早希ちゃん。お弁当はここで食べるからね!もし、よかったら美優ちゃんも連れてきなさいね」
「えっ?美優」早希はまぁーいいかと思えるようになっていた。

     *

大忙しの小太郎をほっておいて、木下は他校の生徒の中で挨拶をしていた。

「あーははは、美優ちゃんだって、ぜったに負けるもんか!」
「なんだと、星野早希以外にお前達の学校で超高校級の選手がいるのか?」
「あたりまえだ。うちの学校は選手層があついんだぜ!」中学時代の同級生なのだろうか、木下は馴れ馴れしく話しをしている。

「星野早希だけが怪我をしたら、うちの学校が予選とっぱだと思ってのに…」
「な、なんだと!」木下はその中学時代の同級生の腕を掴んで大喧嘩を始めていた。

      *

グランドにやってきた早希は選手のリストを小太郎から受け取り、それぞれの選手の出番を告げる役を買って出た。

「早希ちゃん。足は大丈夫なの」と、女子の選手が心配気に聞いてきた。
「もう、完全に直っているよ。出場したって大丈夫なくらいなんだけど、秋の大会まで我慢するわ」と、ニッコリとした。美優はうつむいたままだった。

「美優。ちょっと話があるの」美優は自分を無視続けていた早希が話しかけてきたのにビックリしてオドオドしていた。
「あなたのお母さんの事、悪くいったりしてごめんなさい」と、謝った。
「な、何言ってんの、今は大会の最中なのに…」
「美優が一人で練習しているところも見たし、買い物をしているところも見たわ。あたしなんかよりずっと美優の方が大人なんだもん。あたしもいつも美優に嫌なことばっかり言ったと反省しているのよ」
「それじゃー、ふたりで握手して」小太郎がふたりの間に入ってきた。
「ちょっと、小学生じゃないんだから、そんな事恥ずかしくてできないよ」そう早希が言う。でも、美優は手を出してきた。
「怪我してから、早希が話しをしてくれないんで、『あんたの人生滅茶苦茶にしてやる』なんて言わなけりゃよかったって、ずっと…ずっと…」顔をグシャグシャにして泣き出してしまった。その時、グランド内で放送が入った。

「○○高校の陸上部の選手はネット裏に集合してください」それを、聞いた早希たちは怪訝な顔をしていたが、そのまま競技は終了し、昼食に美優を自分の席に招いて一緒にお弁当を食べた。その時、また放送が入った。

「○○高校の陸上部に不正があった事が判明しました。よって、今大会の競技の不参加となりました。行われた競技はそれぞれが繰り上げされます」

「何?」早希、美優、小太郎や母もがその放送に聞き入っていた。そこへ、木下がやってきてその理由を教えてくれた。

「早希ちゃん」
「ハイ」
「早希ちゃんを階段から突き落とした犯人を大会役員に突き出してきた。俺の中学時代の同級生だったんだよ。早希ちゃん。スマン」木下は男泣きに涙をボロボロとこぼして謝った。

「オイオイ、それってホントなの?」早希は、美優をずっと疑っていた。仲直りをしたけど、それでも、美優だと思っていた。気まずい、スゴク気まずい。早希の母だけは大きな声を上げて大笑いをしていた。

「やっぱりね。『若くて綺麗なお母様で羨ましい』って言ってくれたもの」と胸をはるのだった。

     *

美優は予選を勝ち抜いた。この次は夏休みの初めにある県大会に向けての練習が始まった。早希は美優のコーチとなり、ふたりで県大会に挑むことになった。いままでお互いに理解しあえなかったけど、これからは、なんでも話のできる親友となるだろう。美優は木下の勇敢さにメロメロとなり、小太郎と早希、美優と木下のカップルが成立した。四角関係はめでたく解消されたのだった。

     おわり

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Novel Editor by BS CGI Rental
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