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探偵少女AI 作者:真樹

第6回   (5)最悪の日
その日のAIは運が非常に悪かった。
目覚まし時計が鳴り布団から手を伸ばしてベルを止めようとしたら、ベットから転げ落ち
箪笥の上に置いてあった置物が脳天を直撃したんこぶができた。
「おぉーいた」
寝ぼけていた目をこすりながら頭をさする。
マンションは平屋みたいなもので、階段は玄関の外にあるだけで、部屋の中には無い。
それなのにトイレに向かう途中に2段の段差がある。まさか、そんなところで落ちるなん
て考えもしなかった。
ズドドドーッと、大きな音がマンションの上下階に響いたことだろう。
あわてて、パパママが顔を覗かせたほどだった。
「今日は大事をとって学校をお休みにした方がいいんじゃない?」
母の言うのもまったくだったが、AIは学校にいかなければならない理由があった。
隣のクラスの先生の疑惑を証明する依頼が入っていた。
それも、前金で報酬は受け取り済みだったし、もちろん、調査しだいでは全額の報酬を返
すこともあるだろうと思っていたが、今の時点では間違いなく黒星だと確信していた。
その結果、不正に入学している生徒もいるはずだ。
現場と、証拠の品をなんとかして見つけ出さなければと思っている。
始業式、入学式と新入学生を迎えて、部活の勧誘も始まっている。AIも部活の進入部員
を勧誘しなければならないこともあり、脳天のこぶと、しこたま打ったお尻の両方をさす
りながら、中学校へと向かった。

AIの通う中学校は名門とまではいかないが、ちょっとしたお金持ちの通う私立中学校で
AIの両親は大変無理をして学費を支払っている。探偵の依頼金が高いのはAIの学費の
ためかもしれない。YUIの祖父が理事長を勤めるこの中学校の校風をそこねているのは
他ならぬAI達だった。中学校だけではなく高校まである、中高一貫教育をしている学校
なのに、中学を卒業して名門の高校に進学したい生徒がいるのだ。この中学から高校へそ
のまま進級していては、その上の大学へ行く学力が得られないと言うのがその理由なのだ
ろう。もっと学力重視で教育すべしと言う教師の声も聞かれるが、理事長の温和な教育方
針が学力の低下と生徒達を甘やかしている理事長批判をする者もいるようだ。

AIの所属する部活は、探偵研究会。
実際の部活にそんな部は存在しないのだが、AIとYUIが勝手に看板を掛けてしまった
のが、その始まりだった。もともとは、読書図書部だった。部室は図書室の図書準備室で
図書室の整理や管理を任されている。それは、部活とは別の図書委員がやっている別の組
織なのだが、図書室に来る生徒もまばらで、図書委員もサボりがちなので、AI達の独壇
場となっている。最近では、探偵研究会が正式な部活だと信じている生徒すらいるほどで
先生達も容認し、正式に承認しようと言う傾向すらあると言う。

新学期が始まったばかりと言うのに、しっかりと授業は6時間目まであった。
腰をさすりながら、探偵研究会の扉を開き、整理整頓のされた真っ白なテーブルにうつぶ
せになり倒れこむAIだ。
いつもなら、すでにやってきているYUIに声を掛けられるはずなのに、今日に限ってY
UIは研究会に来ていない。
「あれ?YUIは…」
AIとYUIふたりっきりの研究会なのに退部届けがテーブルの上に置いてある。
あわてて、それを開くと、YUIの退部届けだ。
「まさか、YUIが退部だなんて」
AIは身動きすらできなかった。

気落ちしたAIはそれ以上考えを巡らすこともできず、そばにあった1m物差しを杖代わ
りにして研究会から出、帰宅することにした。
「先生たちの尾行を始めてもうそろそろ1月が経つ、YUIのお爺様が、YUIに探偵ご
っこなんて中学生の女の子がやるもんじゃないとか、先生たちに監視されるようになった
のは、3日目に尾行が見つかってしまってからだ」
探偵としては、とんだ失態。
でも、YUIが探偵研究会を退部するなんて信じていない。これも、お爺様や先生たちか
らの妨害に決まっている。
「あっ!YUIの名前」

探偵研究会発足のその日の事。
三上愛と保浦結衣の名前をAIとYUIと暗号化することにした。
お互いに危険なことがあったり、嘘をつかなくてはならない時、それが、真実か嘘かを判
断するために、ふたりの間の連絡や交換日記などでは、AIとYUIとしようと、AIの
提案でそれ以降は本名は研究会に関しては使っていなかった。
手帳やプリクラ、携帯のアドレスなどもそれで統一されている。

退会届の署名は保浦結衣と書かれていた。
「これは、嘘だ」
退会届けを胸にあててAIは考え込んでいる。
「YUIの身に何かが起こっている」
その時、岡田の乗ったベンツに後部座席にYUIの姿は無かった。

そう言えば、今日一日、頭のたんこぶとお尻をかばってYUIとあまり話しをしなかった
し、YUIもわたしのところにこなかった。
わたしも行かなければ、YUIも来なかったから、あまり変と思わなかったけど、YUI
がわたしの所へ何だかんだっておしゃべりに来なかったのは、すごく変な事なんじゃない
かと考えている。
「だって、あの子ったら、いつだってわたしの周りにまとわり付いていて、学校にいる間
中、金魚のうんこみたいにくっ付いているんだ。

「ぜったいに変!!」
退部届けの匂いをかいだ。
「いい香りがする!!」
AIは心臓がドッキリした。
痛いお尻をかばいながら家に帰った。
ガスコンロであぶり出しを始めた。
退部届けに別の文字が現れた。
「SOSYUI」

心臓が凍りついた。
YUIからのSOSがあぶり出しに浮き上がったからだ。
「YUIったら、家にいるんじゃないの?」
ガスコンロを消し、あわてて自分の部屋に戻り、携帯からYUIの携帯に電話を掛けた。
「ただいま、電話にでれないか電源が入っていません。ピーとなったらご用件をどうぞ」
メッセージをいれないですぐに電話を切った。
「そうだ、こっちはYUIからのSOSを知らないふりをしなけりゃだめだ!」
「どうしよう。どうしよう」

AIは考えを巡らせていた。
「そうだ。パパママに相談しよう!」
AIは自分ひとりじゃ解決できないと、三上探偵事務所に駆け込んで行った。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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