ビルの陰でファーストフードのドリンクをストローで飲みながらYUIがAIに言う。 「ほんとうに来るかしら」 「こなくったって待つ以外に方法はないわよ」 学校からずっと先生をつけて来ていた。 先生が高校入試問題をどこで手に入れるのかそれをつきとめないとならない。 スヌーピーの腕時計を見て経過時間を計っている。 「もう、30分くらい待っているよ」 「2時間でも3時間でも待つの!」 小さい声だったが、AIの気迫にYUIは圧された。
依頼人は同級生の春原綾。 自分で一生懸命にためた貯金通帳を持参して憧れの先生の疑惑の調査を頼まれたのだ。 先生は数人の生徒に高校の入試問題を大金を受け取り渡していると言うのだ。 それはただの噂でしかない。 そんな曖昧な話からAIとYUIは調査に入ったのだった。 でも、尾行をして3日目、先生はある高校の裏門から中に入っていった。 動かぬ証拠としてペンシルカメラとカバンに仕込まれたデジタルビデオで撮影した。
その後、先生は中から出てこない。 ふたりはうずくまって回りから見えないように監視を続けていた。 「探偵ってけっこう大変ね。なんかの漫画じゃ最初っから犯人が登場していて、とって付 けたように理屈をつけて『犯人はあなたです』だもんね。でも、こっちは犯人かどうかの 証拠を見つけるのに、3日間も付回しているんだもん。全然違うじゃない」 「YUIちゃん。探偵ってそんなに楽なもんじゃないのよ。1に忍耐。2に忍耐。3、4 がなくて、5に忍耐。あと、9まで忍耐。最後の10に、やっと閃きがあればいい。そん なものよ」 YUIはなんとなくAIに納得させられて、こんなことならAIと付き合うんじゃなかっ たと思っている。 YUIは携帯を取り出し、電話をかけた。 「あっ、岡田?ちょっと、差し入れしてくれる?」 「あんた。どこに電話したの?」 「運転手にサンドイッチを届けてくれるように頼んだのよ」 「運転手?」
数十分後、ベンツが到着し銀のお盆に綺麗な装飾を施されたサンドイッチ用の四角いお皿 に乗せられた豪華なサンドイッチが届けられた。ベンツはすぐにそこから立ち去り、一瞬 停車しただけに思われた。 まさか、あのビル影に少女ふたりが忍び込んでいるとは街行く人々も誰も気が付かない。 サンドイッチを頬張るYUIを見ながらAIは文句を言っている。 しかし、サンドイッチの誘惑に負け結局食べてしまった。 「うまい!!」
ついに、数人の男女と先生が校舎から出てきた。 「YUIちゃん!追うわよ」 銀のお盆はそのまま置き去りにし、ふたりはビル陰から飛び出して行った。 親しそうに話すその会話を聞くための秘密兵器はすでに先生の背広の首の後ろの襟の裏側 に貼り付けてあった。 これは、学校にいる間に休み時間を利用して職員室に忍び込み取り付けたものだ。 洗濯されたり、見つかったりしないうちに取り返さなければならない代物だが、高性能マ イクは先生たちの会話の盗聴を可能にしていた。
ウォークマンのヘットフォンを通して会話はふたりに筒抜けだ。 ヘットフォンは片方ずつAIとYUIのふたりに同時に聞き取られている。 傍から見ると流行の音楽を楽しむ普通の光景でしかない、少女ふたりが盗聴をしていると はまったく見えなかった。
「入金はあったか?」 「もちろん、指定金額に色を付けての入金さ」 「名門高校に入学できたら、将来は保障されたも同然だ。金に糸目は付けんだろう」 「親馬鹿は子供がいくつになっても親馬鹿ってもんだな」
AIとYUIは植え込みの陰から全員の顔がはっきりと分るようになんども望遠付きの高 性能カメラで写真を撮る。 ペンシルカメラと違いこっちはばれないように最新の注意をはらい、撮影と同時に顔を隠 す必要があり、ふたりの息が合わないと、すぐに感づかれてしまいそうだ。 「撮れた?」 「うん。大丈夫」 カメラの裏側の液晶画面で今撮った映像を確認する。 「一、二、三、四人。先生を入れて、全部で四人」 「みんな親しそうね」 「同じ位の年齢に見えない?」 「大学かなんかの同級生みたいな雰囲気」 「同級生か」
道行く先生がこっちに気づくように目と目があってしまった。 「感づかれた!」 「こっちに来る」 「何か出しなさいよ!」 AIは植え込みの前のゴミ箱へ青年が投げ込んだ雑誌を拾ってくる。 YUIに渡すAI。 そこには女性のグラビアが開かれた。 「キャッ!」 そこへ、先生が仁王立ちになる。 「あっ、ごめんなさい!これはなんでもないんです」 雑誌を奪い、ふたりを睨みながら先生全とした態度で上からものを言う。 「君等はD組の三上に理事長のお孫さんの保浦結衣さんじゃないですか?」 「なんで、わたしは呼び捨てなの!」 「理事長が心配しますよ。こんなところで…。それと友達は選ばないと」 「ちょっと、ちょっと!!」 「それと、これは没収しますよ」 雑誌を奪われ、AIはYUIの手を引いて逃げ出した。
「あなたの生徒?」 「いや、隣のクラスの生徒達だ」 「どうして、こんなところにいるんだ?」 「偶然だと思うが、怪しまれないようにしないとこっちまで芋づる式にパクられちゃかな わないぞ」 「あんな小娘達に何ができるってもんじゃないだろう」 「一人は問題ないとしても、もう一人は理事長の孫娘」 「われわれの事を話されちゃ、大変だぞ」 「同窓会をしていただけと言うことにしたら、何も問題ないのじゃない」 ただ一人の女性がそう言った。
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