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夏休み恋愛自由研究 作者:真樹

最終回   恋愛自由研究
恋愛自由研究

◆ 登場人物
黒島遊
滝川めぐみ
神崎まあや
藤井あいか



黒島遊はノートに恋愛対象となるクラスメートの写真を貼り付けリストを作った。
今年の夏休みこそ恋愛を試みようと考えた、黒島遊、高校2年生の夏休み前の事だ。

とある県立高校は夏休みを向え生徒のいない教室に風をいれるために数人の生徒と教師が窓を開けた。締め切られている教室はむっと熱い。だから、女子生徒は黒島遊に先に教室に入るようにと目で合図をした。黒島遊は仕方なさそうに先に教室に入り、堪え切れないように身震いをして「暑ぅーー」と言う。

慌てて、窓を開け放つと熱風が教室の窓から逃げ、それと入れ替りに涼風が入りこんで来る。黒島遊が体を窓から乗り出し、手で団扇替りにあおいでいると、女生徒たちも一緒になって窓を開けながら、爽やかな風を体に受けようと窓から乗り出す。

「わぁー、気持ちいいー」と言う女生徒の横顔をしげしげと眺める。

滝川めぐみ。同級生の女子でなかなかの秀才だ。
髪を後でまとめていて、ピンクのふちの眼鏡をかけている。
ふっくらとしたほっぺとキリリとした鼻筋の通った、眼鏡をコンタクトに変えたらきっと美人である。

ただ、恋愛対象となりうるか疑問もあり、リストにはいれていなかった。
その時、滝川めぐみは眼鏡をはずして思いっきり深呼吸をし、くったくのない顔を黒島遊に見せ言った。

「あと、少しで全部の教室を開けられるわ、頑張りましょう」
その笑顔がたまらなく可愛く感じた。
やはり、眼鏡を外した滝川めぐみは美人で可愛い女の子だった。
その時、滝川めぐみをリストに加える事を決定した。

黒島遊はその日何をしたのか覚えていない。
何故なら、滝川めぐみをずっと見ていた。

滝川めぐみは黒島遊の視線を感じてもニッコリとして笑顔を返してきた。
微笑みに対して、黒島遊も手を振って答えた。
夏休み中の奉仕活動と言うものは、そんな辺がいつもと違う所だ。

先生にいろいろな用事を言い渡され、それをこなしていく。
全校生徒が全員登校するのではなく、図書委員や、生徒会役員や、文化部の者とか、あるグループでそれらは実行されていく。

黒島遊はそのどれにも所属していなかった。
夏休みには、沢山の恋愛を経験してみたかったので、学校に行ったら誰かがいるかもしれないと思いブラブラしていたら、生徒会の役員をやっている滝川めぐみ達と一緒に教室の窓を開けて風を入れる作業を頼まれたのだ。

夕方になるまで、彼等はいろいろな事をしていた。
いらなくなった書類を焼却したり倉庫替りになっている教室の中に置いてある物を整理したりと、次々と仕事があった。

生徒会役員でも無い黒島遊が、そんな事に携わっていて、誰からも何も言われなかったのは、滝川めぐみのお陰だったのかもしれない。
めぐみは、生徒会の副会長をしていし、ちょっと、文句を言えない貫禄があったからかもしれない。

作業が終る頃、先生がケーキと紅茶をご馳走してくれた。どちらかと言うとコーヒー党な黒島遊はちょっと紅茶に満足しきれなかったが、隣に滝川めぐみが座ったことで、大変満足で、なぜかドキドキしたのだ。

先生や周りの人達もそんな二人を祝福でもするかのように見ていた。
もしかしたら、恋愛関係になっているのかもしれないって感じる。
「ヒューヒュー」と、冷やかされたりもした。

遊は、思い切ってめぐみに告げた。
「帰りは一緒に帰ってもいい」
「う、うん」と、こっくりとした。
どんな話しをしたのかもまったく覚えていなかった。

確かに、次に会って話しができるのは、いつだったか。
こんな事では、恋愛自由研究にならないと叱咤する遊だった。
自宅に帰りつくなり、生徒名簿で滝川めぐみの自宅に電話をかけた。

「黒島と言いますが、めぐみさんはいらっしゃいますか」
と、めぐみを呼び出した。
少しすると、めぐみが出た。
「遊くん?」
「ご、ごめん。電話なんかしちゃって、でも、今度いつ会えるかなって思って」
「今度の奉仕活動の日は8月4日よ」

奉仕活動の日じゃないんだと、頭で思っていた。
「奉仕活動の日じゃなくって」
「えっ?」
「ふたりっきりで会えないかなって」
「ふたりっきりじゃないけど、明日。海に行くんだけど、一緒に行く」
「えっ、いいの?」
「みんなと一緒だよ」
「いいよ。行く、行くよ」
と、言うわけで滝川めぐみと海に行く約束をした。

次の日、約束の時間に約束の場所に行った。
するとまだ誰も来ていなかった。
まもなく、滝川めぐみが来た。
右からも左からも女の子がやってくる。
「えっ、何人?」
「女の子3人よ」
「男子は?」
「遊くんだけ」
「ほんと……」

なんと女子3人のお供をする事になってしまった。
しかし、遊はめぐみだけが本命だと他のふたりの事は気にしないと決心した。

夏休みの田舎の駅は人がまばらだ。
小さな子供がやはり海に行くのだろうホームを浮き輪を持って走り回っている。
他の2人は遊にとっても同級生だ。
「めぐが遊を連れてくるなんて意外」
「遊って、あんまり女子と話をしないのになんでめぐと仲いいの?」
「いつからそんな仲になったんだろうねぇー」
などと、話していた。

女子3人とはちょっと離れたベンチに一人で腰掛けていたら、他のふたりに押されめぐみがやってきた。
なんだか、他のふたりの女子もめぐみを遊に押し当てているようだ。
「カップル成立だ」などと冷やかされていた。
この場合、喜ぶべきなんだろうと遊は思った。

「座っていい?」
「も、もちろん」
遊はおどおどしたところがあったが、めぐみは親切にした。
「あの……」と、口篭もるめぐみ。
「同級生なのに、滝川さんと話しをするのってあまりなかったから、まさか一緒に海に行くなんて信じられないな」
「うん」と、めぐみは他のふたりを横目でチラチラ見ている。
ふたりは、何かをせかしているように見えた。
めぐみが遊の事を好きで、告白でもするのかとドキッとしたが、まさかまさかである。

遊は恋愛自由研究のために、めぐみに近寄っているなんて、気付かれてはいけないと考えていた。
だから、平静を保っていられたのかもしれない。
女子に好かれるにはどうしたらいいのかと、いろいろと考えていた。
まずは、軽いプレゼントと思い自分が一番大切にしている手作りのフィギアを持ってきていた。
「これ、滝川さんにあげようと思って」と、フィギアをバックから取り出した。
それは、テレビでも人気の少女漫画のキャラクターのフィギアだ。
高校生でこんなものを持っている方がキモイなんて思われるかもしれない。

遊は自分が大切にしているフィギアだし、手作りである事を強調した。
「これって、遊くんが作ったの?」
「そうなんだ。将来はおもちゃメーカーに勤めたいって思っているんだ」

めぐみは凄く感心しているようにそれを受け取ってくれた。
なんとか、めぐみは遊に好意を持ってくれているように感じた。
ふたりの女子は遠巻きにそれを見ていて、なかなかのお似合いだとお互いにピースサインをしている。

電車はゆっくりとホームに入ってきて遊達は乗り込んだ。
そこから、ふた駅を越えるともう、海のある駅に着く。
それほど大きな駅ではないが、やはり海水浴客がワンサカいた。
人の波に飲みこまれ、リアス式海岸手前の崖ッ淵まで追いやられて来た。

あまり大きな海岸ではないが、砂浜が広がっている。
両サイドには崖が迫っていて、砂浜の全長は2・3百メートルほどだろう。
女子三人に連れられやってきた海だ。

小さな砂浜を囲うように露店や海の家がひしめき合っている。
女子達は水着に着替える必要があり、どこかの更衣室を借りるのだろうと考えていた。
遊は家から海パンを履いてきているから、脱いだものを置いておくロッカーがあればよかった。

「どこで着替える」
などと女子達は見回していた。
「あそこ」と、一人が指差した。
そこは、崖の下の窪地だ。
女子三人に連れてこられ、シートを持たされた。
「中を覗かないでね」
「ここで、着替えるの?」
「だって、下に水着て来たから、上着を脱ぐだけなんだもん」

女子達も遊と同じだった。
でも、ドキドキする遊だ。
女子三人のボディーガードとしても遊は役立っているようだ。

荷物を持って砂浜に向った。
もう、あまり空いている場所がない。
他人のシートの隙間をぬって空いている場所を探して海岸線にまでやってくる。
波打ち際よりかなり上だが、自分達の場所を見付けてシートを敷いた。

「荷物をどこかに預けないの」と遊が聞くと「見張り番よろしく」などと女子三人は海に行ってしまった。
「そう言うこと……」
ボディーガード兼見張り番だった。

走り去る女子達のお尻を見ながら、がっかりする遊だ。
でも、彼女達を眺めているだけでも幸せだ。
目の前にある三つのバックの中にブラジャーやらパンツやらが入っていると考えてもドキドキした。

それほどの時間は経っていないが、女子達はすぐに戻って来た。
どうやら、午前中の海はまだ冷たいらしい。
遊の周りに彼女等は寝そべった。
これって、ハーレムと、遊は密かに思うのだった。

めぐみは黄色いビキニで背中に細い紐で結び目がある。
それを、持ってスルスルとほどいてみたい衝動にかられる。
遊は喉をゴクリと鳴らすのだ。

他の女子も露出度バツグンだ。
三人の女子を眺めていると数人の人達が遊を羨ましそうに眺めて通って行った。
「お兄ィーちゃん。極楽だなぁー」
などと、冷やかして通り過ぎる連中もいた。

めぐみがこっちをチラリと見た。
他の子が、「虫除けの役にたっているじゃん」などと、遊の事を言っている。
めぐみはその会話を聞いて、顔を曇らせていた。

何だ。虫除けって……。
ボディーガードの次は虫除けにされてしまった。
がっくりとうな垂れる遊だった。
ジリジリジリジリと、日中は過ぎていく。
女子達は楽しく海水浴を楽しんでいる。
そんな時も遊は押し黙って、彼女達の荷物番。

「あーあ。飛んだ目に合っているようだ」
と、照りつけて陽炎が立ち上る砂浜をぼんやりと眺めていた。
見ると、ふたりの女子が遊の元にかけてくる。
胸も波打たせ、海水の雫を撒き散らし、左右に崩れ落ちた。
「遊くん。めぐみがクラゲにさされた!」
「えっ」
遊は、女子ふたりに指差された方向に走って行った。
見送る女子達は、遊を心配そうに見送る。
波の中にめぐみの顔が泣きべそをかいているように見えた。
遊は波を蹴散らしてめぐみを抱き上げ、背中に背負った。

海水で冷んやりとする。
胸が背中に当る。
そんな感触はしっかりと記憶にとどめ後で楽しむ事にして、やっぱり、どこかの休憩所に行かないといけないだろうと遊は海岸線を見た。

見ると監視所の小屋があった。
遊はめぐみの体重を感じながら足場の悪い砂浜を駆け登って行く。
胸の膨らみも背中を直撃する。
必死で監視所まで走ってきた。
他ふたりの女子達も心配そうに見守っている。

「すみません。クラゲにさされました」
遊が叫ぶと中からライフセーバーの水着を着た若い女性が出て来て中に入るようにと言われ遊はめぐみを背負ったまま中に入った。

「ここへ」と、めぐみを椅子に座らせる。
「ここを刺されました」と、めぐみは太股の内股あたりを見せる。
遊はゴクリと喉をならした。
女性に外へ出るようにと言われシブシブめぐみを残し外へ出た。
ふたりの女子は中に入れ替りに入って行った。

「チェッ」と、心の中でぶーたれたが、仕方が無い。
でも、背中に感じためぐみの胸の膨らみの感触は残っている。
小屋の中で何がされているのか分からなかったが、しばらく待たされた。
まだまだ、午前中の海は人出も少なかった。
でも太陽はギラギラしている。
そろそろ、いい加減、飽きてきた。
捧を拾って、砂に悪戯描きを始めた頃、ふたりの女子に支えながらめぐみは監視所から出て来た。

「脚は、どう?」と、凄く心配そうに言った。
そんな遊を見て女子達は合格だと、言わんばかりに納得して言う。
「心配いらないって」
でも、めぐみの太股は包帯で痛々しい。
話しに聞くと、クラゲに刺されると脚が2倍に膨れ上がるとか言う。
「せっかく、海に来たばっかりなのに……」と、残念そうなのはめぐみだ。
遊は、気の毒そうに言った。

「今頃にクラゲなんて、ちょっと早過ぎるよね」
「ゴメンね。遊くんをひとりっきりで見張り番なんかさせていた罰だよ」
と、めぐみは遊を覗き込んでいった。

もともと、見張り番や荷物運びをさせようと思って連れて来たのだろうと、諦めていた遊は、その言葉にびっくりした。
「そんな事はないよ。僕も楽しんでいるよ」と、言ったがそれは嘘だった。
海に来たら、水着の女子たちとビーチボールで遊んだり、一緒に海に入ってはしゃいだりそんな期待も持ってやってきたはずだ。
でも、女子達はまったく遊の事をかまってくれなかった。

「ゴメンね。だからこれから遊くんを楽しませてあげるから」と、女の子達は遊の左右にべったりとひっついた。

荷物も預かり所に持っていって、身軽になった所で砂浜から離れ磯へと渡っていった。

女の子達3人に囲まれ岩場にやってきた。
磯は砂浜とは違って人がほとんどいない。
岩影に隠れたらいろんな事ができそう。

波は穏やか、まだ午前中の涼しい風がやってくる中、それほど海には人は入っていない。
遊は期待しながら、彼女たちに付いてきた。
三人が並んで、声を合わせ遊に言った。
「さて、遊くんはこの三人の中の誰を選びますか」
後ずさりをしながらおろおろしたが、なぜか、脅迫めいていて誰かを指名しなければいけない状態に追い込まれていた。
まさか、めぐみ以外の女子を指名する事はできない。

顔をそむけながら、太股に包帯を巻いているめぐみを指差した。
めぐみはほっとしたように微笑んだ。

「ふたりともやめてくれよ。僕はめぐみ以外の女の子に興味ないんだ」
パッと、明るい顔をするめぐみだ。
「ま、合格ってところか」
「面白くないけど、めぐみだけ彼ができたって事ね。そんじゃ、お邪魔なようだから、あっちに行くよ」

ふたりの女子達は遊とめぐみを置いて行ってしまった。
体の力が抜けたように、遊は岩にもたれ座り込んだ。
めぐみもその隣に座って来た。
「あのふたり何考えているんだか」

遊とめぐみふたりで岩陰に座って遠い海を見ていた。
夏休み恋愛自由研究はこれだけでも十分な成果になったと言えた。
たくさんの女子と夏休みを過ごすと言う計画はめぐみとふたりで過ごすことになるのだろう。


      (おしまい)

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Novel Editor by BS CGI Rental
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