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真樹の短編集 作者:真樹

第3回   星の欠片
星の欠片

「娘の手の中に、どう見ても割れたビンの破片としか思えない薄汚いのもをいくつも握っ
ていたんです。切れそうな破片は、危なっかしくてすぐにでも取り上げて捨ててしまいた
い衝動にかられたんですが、わたし達夫婦が離婚をし娘をどちらが引き取るかで、言い争
いになり娘の意思に任せるとあの人も合意して娘はわたしと一緒に来ることになったんで
す。大好きだったお父さんと別れる事は小さな娘にはとっても辛かったのでしょう。じっ
と堪えていたのが我慢できなくなってずっと泣いていたんです。そんな娘が嬉しそうにし
ているんですもの、取り上げるなんてできなかったんです。」

病院で治療を受けている母親は、腕の傷を縫い合わされながら、医師に説明していた。
手にしたものを、うれしそうに母親に見せる娘は台所に立つ母の足元で一生懸命に話して
いた。

「これ星の欠片なんだ。みどりとか、きいろとかあるの。こうやって見てみるとキラキラ
して綺麗なんだよ」

台所の片付けも一息つき、足の低いテーブルについて、これから、この部屋で生活してい
かなければならないのだと、母親はため息をつき。娘も同じようにテーブルの端っこに、
ガラスの破片をいくつか並べ、破片の割れた部分を見ながら話を続けている。

母は、言い争いや喧嘩の毎日で、娘とこんなに長く話しをしたことがなかったと、今にな
って思っていた。娘も居たたまれなかっただろうと、そんなことを考えているうちに、娘
に申し訳無くなって涙が知らず知らずにあふれてきていた。これからのこととか考えると
ますます辛く思う。娘の着ていた服は、最後だからと言って父が買ってくれたもので、そ
の服を着て入学式に出たのだが、父の姿はそこには無かった。

そのよそ行きのその服は、少し汚れて壁に掛けられていた。それを見ていたら無性に腹立
たしく、立ち上げって父の買った娘の洋服を引き裂き始めていた。

「お母さん、どうしたの。お母さん、せっかくのお洋服を、そんなことしないで」と泣き
叫んでいた。

「お父さんのお洋服が!」

娘のそう言う言葉を聞いて、完全に我を失っていた。あのビンの破片を使って、洋服をズ
タズタにしていた。それで、自分の手も引き裂いてしまっていたのだった。

病院で治療を受けている母の所には、もう、娘は戻ってこない。娘はどちらの親元にも行
かず施設に預けられる事となった。ガラスのビンの中に血の付いたガラスの破片を入れて
大事に持っていた。みんなが危ないから捨てなさいと言っても。

「これは、大事なあたしンちの欠片なの」

このガラスの欠片は父が買ってきてくれたガラスのお皿だった。夫婦喧嘩の時に投げつけ
られて割れてしまったものだった。大切な父からのお土産だったのに、父も母も娘の事を
考えられなかったのでしょう。割れてしまっても娘にとっては大切な宝物には変わりなか
ったのかもしれません。

(おわり)

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Novel Editor by BS CGI Rental
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