「何故そんなことをした。まじめに働いていて、不自由はないだろう。」
ノイジは怒りながらも,冷静に彼に問い掛けました。
その問いに対し、グレーは少し黙った後、ゆっくりと話し始めました。
「僕が財布を盗んだ奴…あいつはかねかしをやっているんだ。」
「…ほう、それで羽振りが良さそうだったから盗んだ訳か。」
「そうじゃない。」
「何?じゃぁ、どういう・・・・」
「奴は悪徳高利貸しで、人々を苦しめてるんだ。だから…」
「じゃぁ、あの金は…」
「奴のせいで苦しんでた人にこっそり渡したさ。とても喜んでたよ。」
「…でも、それじゃぁお前、悪者になってしまうぞ。泥棒に変わりは無いし…」
「いいんだ。」
「!?」
「たとえ、悪者になっても僕はこうして皆を助ける。」
それを聞いたノイジはさらに彼に憧れました。
凄い…。自分を犠牲に町の皆を助けるなんて…なんて奴だ!
でも…
「お前のやってることは、いい事だが悪いことだ。自分が犠牲になるなんて。」
「そうかい?まぁ、意見は人それぞれだろうけど…。」
「少しは自分を大事にしろ。後は俺に任せるんだ。」
そうしてノイジはグレーからスリ業を引き継ぎました。
彼にとって,いい事は難しいですが,悪い事が含まれると簡単なのです。
しっかりきっちり仕事をこなし、陰ながら町の人々を助ける。
それがノイジの仕事となりました。
こっそり、橋を直したり、色んな仕事を手伝ったり…
彼は、今までと比べて変わっていっていました。
少し『良心』が芽生えたようです。
人を助ける事に楽しさを感じるようになって来た…そんな時でした。
町に少人数ではありますが、兵隊がやってきたのです。
多分,他国からの侵略の下見でしょう。
しかし、あからさまに兵隊っぽい格好をしていて、偵察がばればれです。
もう殆ど、町の人々を馬鹿にしているような感じでした。
しかし、実際町の人々は、彼らを恐れ、偵察を野放しにしてました。
しかし、ノイジは…「ふざけるな。侵略などさせるか!」と
兵隊達を追い出しました。この、勇気ある行動により、
ノイジは町の皆から称えられました。そして、ノイジを知らないものは
町に一人も居なくなったというほどノイジは有名になりました。
「…だから,私も知ってるわけです。」
「…そうか。」
店長の補足に、どうでもよさげに受け答える旅人。
「あ、すいません。話を続けますね。」
それを察したのか、店長は話の続きを語り始めた。
兵隊達を追い返したノイジでしたが,実は、それはとてもノイジの体に負担をかける事でした。
そもそも、ノイジは戦うために出来ておりません。
強度もまぁ普通の人形程度。無数に出来た体の傷はとても無理をしていたのを物語っています。
がむしゃらに暴れて何とかなったような今回の戦い。
次に、兵隊が来たら、戦っても確実にすぐ壊されてしまう。
しかし、ノイジは自分を犠牲にしようとも戦う覚悟でした。
皆を幸せにし、人形師に自分を認めてもらいたい。その一心で…
ここまで彼は旅をしてきたのかもしれません……
ノイジは、ある事を考えてました。まぁ、さっきの兵隊のことなんですが…
彼らに,人間のような生気を感じなかったのを、ノイジは不思議に思い、
ずっと考えてました。感情も意思すらも無いような、
誰かに操られて動いているかのような動き。
全員同じ刺青。さらに気になることに,
その刺青は、ノイジの肩にもありました。
いったい彼らは何者なのだろうか…
ノイジはそれをずっと考えていました。
でも、答えは全然出てきませんでした……
つづく
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