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Nightmare Genocide Classmate 作者:糊塗霧 隙羽

第3回   殺害の序章
津田は走る。誰よりも早く、美術室につかねばならない。

きっと彼女は、そこいるから―――・・・

由紀が行った方向を見ていた人も、流石に途中からは判らなかったらしく、

4階の部屋を探したり、2階まで降りて行ったりしていた。

津田はホッとする。これなら、誰も美術室には・・・

いや、一人向かっている奴が居る。

あれは、井上明彦(いのうえあきひこ)・・・由紀を一番苛めた男子だ。

「おーい!」

津田は明彦に声をかける。振り返った明彦は少し顔をしかめて応答する。

「・・・なんだよ、津田じゃねぇか。お前、アイツを助けに?」

「・・・いや。」

津田の答えに、明彦は笑う。

「何だよ!お前ら仲良しだったじゃねぇか!命が掛かった途端、それかよ!ハッハッハ!」

津田が拳をギュッと握っている。明彦は気づかない。

津田が"嘘"を言っていると。

「じゃ、一緒に行くか?ん?」

明彦は、普段仲良くない津田を、仲間と認識し、馴れ馴れしく詰め寄る。

「いや、僕一人で行くよ。だから、井上君は待ってて。」

その答えに井上は応じない。

「お前じゃやられるかも知れねーだろ。俺も行くって。援護でよ。」

そこで津田が拳銃を抜いた。

「来なくていいって言ってるんだよ!!」

パァンッ!!

銃弾は、井上の身体を貫き、致命傷を与えた。

「お前・・・やっぱり・・・アイツの味方・・・」

ドシャッ。

最後まで言い終わる前に、井上は息絶えた。血がドクドクと溢れ出る。

しかし、津田は全く動じず、その顔面に蹴りを入れた後、

後ずさりで美術室の方へと向かって行った。

「・・・彼女を守れるのは・・・僕、だけなんだ・・・。」

「でも、僕は彼女の命を脅かすモノでもある・・・。」

津田は一人呟くと、井上の死体に背を向け、走って行った。





パァン!!

「な、じゅ、銃声!?」

多分、誰かが近くで撃った。仲間割れだろうか。

「良かった・・・。やっぱり、そういう人も居るんだ・・・。」

いや、もしかしたら全員殺そうと思ってる奴かもしれない。

私も、危ないかもしれない。

しかも、その撃った奴は恐らく近くに居る。逃げ場は無い。

見つかる事は無いと思って落ち着いていた私も、流石に慌てる。

もしかしたら・・・もしかしたら・・・

ずっと、色んな、最悪の事態が頭の中をよぎる。

そこへ・・・・

ドンドンドン!!ドンドンドン!!

扉を叩く音。

「ひぃ!?」

ヤバイ、来た!ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ、ヤバイ!

「由紀ちゃん!僕だよ!居る!?」

!この声は・・・津田君!!

「助けに・・・・?」

「そうだよ!だからここを開けて!」

いや、信用できない。彼だって死にたくないはず。

私を殺して命拾いはするが、私を生かして、何の得も無い。

そんな状況下でまで、私の味方で居てくれるとは思えない。

人間なんてそんなものなんだ。

苛められ続け、人間不信に近かった私の脳では、そんな言葉ばかりが流れた。

しかし・・・・

「由紀ちゃん!」

「・・・今・・・開けるね・・・・。」

私は、やはり彼を心から信用していた。扉は塞いでいて、開かないので

スーッと窓を開ける。するとそこには銃を持った、少し血の付いた津田君。

「ひっ!!」

まさか・・・・さっきの銃声は・・津田君が・・・・

彼の姿に恐怖する。この状態で平気で居れるのがわからない。

何故、平然と津田君はそこに立っているのだ。

怪我なのか、返り血なのかは見ただけでは定かじゃないが、

私はただ、平然と立っている津田君に怯えた。

「由紀ちゃん!やっぱり居たんだね!」

ガバッと私を抱く津田君。怖いけど・・・やっぱり、いつもの津田君だ・・・。

私も力強く、抱き返した。

「津田君!!」

「由紀ちゃん・・・・。」

抱き合ったまま、数分、時間が過ぎる。今にして思えば、不自然だ。

これだけ騒いでいるのに、誰も、ここに私が居るのに気づかないなんて。

今は私達クラスの他に人が居ず、とても静かな学校。

そんな中で、気づかないなんて。

「津田君、一緒に戦ってくれるの!?」

「うん、由紀ちゃんを殺させる訳にはいかないよ!」

「有難う・・・じゃぁ、中に入って?」

「え、いや・・・ここに篭ってる方が危険じゃない?」

・・・・確かに。

何故気づかなかったのだろうか。入り口殆ど閉鎖してあるから、

開けられたら逃げる道は無い。この教室は外側の窓と廊下側の窓とあるのだが、

ここは4階だ。外側の窓から逃げるって訳にもいかない。

廊下側の窓から逃げるにも、先に回りこまれるだろう。

窓から出るなんて事、いつもしないから、もたつくだろうし。

それ以前に、何人にも囲まれて、窓から一気に入られたらどうする。

それを考えると、自分がした行動が、情けなくなってくる。

墓穴を掘ってどうするのだ、と。

「僕と一緒に、校内を動き回って逃げ続けよう。」

まぁ、その方が無難だ。体力に心配はあるけども。

「行こう。」

そういうと津田君は私の手を引こうとした。だが私はそれを止める。

「どうしたの?」

「出て行く前に、ちょっと細工をね。」

「早くしないと誰か来るよ?」

「うん、すぐ終わらせる。」

この細工が役に立つとは思えないが、まぁ、誰か引っかかってやられるよう祈ろう。

細工を終えた後、私と津田君は、すぐにその場を離れた。





「ふー・・・忘れてた。小笠原は美術部で部長なんだよな。」

「そして美術部は鍵を貰えるんだよな。美術室の。」

由紀と津田の二人が居なくなって数十分。

その場にやってきたのは布田聡(フダサトシ)だ。あだ名は『ブタ』である。

「おー、人影発見ー。やっぱり居たかー・・・。」

美術室に目をやると、誰かが暴れている様子。

「いやぁああ!いやぁああ!!」

声は、由紀のようだ。

「へへへ、心臓と頭にぶち込んで、おしまいだ」

布田は銃を構えると二発、頭と心臓に向かって撃った。

「いやぁあxdxだびう!!」

声が聞こえなくなった。どうやら、上手く命中したらしい。

「よし、死体の確認だ。」

しかし、ドアは両方開かず、面倒になった布田。

「・・・まぁいいか。確実に死んだだろうし。報告だ。」

そのまま布田は先生が居る、『視聴覚室』に向けて、歩き始めた。

今撃ったものが、張りぼてにテープレコーダーをくっ付けたものとも知らずに。

「いy・・ザザッ・・・いやぁあ・・・ブツッ・・ザー・・・・」

まだ完全に壊れてなかったテープレコーダーが誰も居ない4階、美術室内で、

決められた台詞をただひたすら流そうと、動いていた。

だが、途中で息絶え、音はそこで切れてしまった。

つづく

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Novel Editor by BS CGI Rental
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