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Fantasy・asterisk(ファンタジィ・アスタリスク) 作者:糊塗霧 隙羽

第9回   【特別読切『オレがだれだかわかるか?』】
「オレがだれだかわかるか?」

「……」

学校の帰り道、突然,白い服を来てサングラス、マスクをした変な男に声をかけられた。

「…さぁ、…どなたでしょうか?」

思いっきり自分の姿を隠すような身なりをしながら『おれがだれだかわかるか』なんて

聞いてくるような変人,少なくとも私の知り合いには居ない。つまり、関わるべきではない。

とりあえず答えないといつまでもついて来そうな気がして、素っ気無く私は答えると

逃げるようにその場を去った。

「そーか・・・うーん服装が違うから判らないのか?いや、元々覚えてないのか?」

自分の正体を判って貰えず、男はその原因を考えていた。

そして、考えながら私の隣を歩き始めた。結局ついて来てしまうようだ。

自分の勘を疑う。ちぇっ、答えてもついてくるじゃん。

「なぁ、さっちゃん。」

私の気持ちとかはお構いなしに、男は話し掛けてきた。でも私は、気分が悪いので答えない。

……あれ?何でこの人…私の名前を知ってるんだろう。知らない人のはずなのに…。

背格好、身長、声…。この範囲内では、私の知ってる人ではないはずなのに…。

「さっちゃん。さっちゃんは、学校に行ってて楽しいか?」

「…はい。でもアナタは誰ですか?」

「…やっぱり、判らないんだな。」

男は少しうつむいてしょんぼりした様子を見せた。が,すぐに立ち直り

「じゃ、ヒント!これで少しは判るんじゃないか?」

「ヒント…?」

「さっちゃんの誕生日は1994年の6月24日で、体重が2672kg。」

!?

「お母さん、帝王切開の手術で大変だったんだよね…。」

そんなに詳しく、私の誕生を知っているの!?

私でも、知らないことなのに…。

「あー、余計、判らなくなった?」

「・・・・はい。」

「うそーん。マジで判らないの?もうどうすればいいんだろ。」

何か手詰まりになったらしく悶絶する男。てか,ヒントそれ以上にないの?

「・・・所で、学校で困ったこと、ある?」

「え?困ったこと・・・?」

「そう、こまったこと。あるかな?」

「えーっと・・・えーっと・・・。」

いきなりの話題転換ですぐには答えが出ない。

「慎君がいっつも授業中うるさいです。」

「おー・・・そっかぁ。じゃ、注意しておく。」

え?知り合いなの?

「他には。」

「えっと・・・。」

おかしいな…なんで私、普通にこの人と話してるんだろう。

知らない人で,変な人で、絶対いつもなら話たりしないのに…。

それに・・・・なんかこの人…古い記憶の中で…知っている気がする。

友達?芸能人?親戚?家族?…いや、うちの家族には、男はいない。

お母さんとお姉ちゃんと私の3人家族だから。

「…。」

「どうした?」

「…アナタは…生きてない…。アナタは死んでいる…」

「…オレが,だれだかわかるか?」

「アナタは……お父さ・・ん?」

「正解だ。よく、思い出してくれたな。」

そういって父はサングラスとマスクを外した。

その顔は、今では仏壇に飾ってある写真でしか見れない、父そのものだった。

「もう、時間だ。答えるのが遅いぞ。さつき。」

「そんな…自分で名乗り出ればよかったじゃん!」

「神様の命令で出来なかったんだよ。じゃ、そう言うことで…。」

お父さんはゆっくりと消え始めた。

「母さんによろしく伝えてくれ。」

この一言の後,完全に父は姿を消した。






家に帰って、母にこの事を伝えた後父さんの死んだ時の話をしてもらった。

「さつきが2〜3歳の頃にお父さんは、車に轢かれかけた子猫を助けようとした・・・子供をたすけようとした子供の母親を助けようとして車に轢かれてしまったの。」

なんとややこしい。

「お父さんの命と引き換えに、子猫も子供もその母親も命を救われた。」

「そのときの子供は既に高校生。猫も成猫になっていて、子供の母親は白髪だらけのおばさん。」

「お父さんのおかげで,二人と一匹の未来が続いたのよ。お父さんの行動はとても素晴らしかった。今でも尊敬してるわ。」

そう言った後、母は泣き崩れてしまったのでこれ以上の話は聞けなかった。

正義感が強く、他人思いの父。そんな父が私の前に現れたのは私を心配してのことだろう。

学校で起こってる問題を全て私から聞いていったのだから。

しかもその後、学校に行くと、慎君は妙に静かで、いじめグループは解散しており,

不登校者は全員着席。いつもだらけた担任の先生もしゃきっとしていた。

驚いて何があったのか皆に聞いたが「何も無い。断じて何も無い。」と

震えながら全員口を揃えて言うのだった。父は一体何をしたのだろう。

無理矢理ながらも、問題を解決した父。そんな父の仏壇に向かって私は一言つぶやいた。

「…ありがとう。でも、ちょっと強引すぎ。」

その後、もう『オレがだれだかわかるか?』と父が聞きに現れることは無かった。


おしまい。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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