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| ひたすらに歩いていく。周りの景色は全てがあの時の記憶に繋がる。 
 そして私に胸が痛くなるだけの思い出を見せつける。
 
 これが、ミコトさんの言っていた『がっかり』する事なんだ。
 
 実はミコトさんは、神様の知り合いだったんだ。
 
 だって、伝説上の生物だって言ってたし…。(よく意味判らないけど。)
 
 多分そうなんだ。
 
 歩きながら少しずつ元気を失いながらも、私は歩いていく。
 
 いつのまにか、レオンが私を追ってきている。
 
 合流して、さらに一緒に歩いていく。
 
 「…なぁ、マリア。」
 
 「何。」
 
 「…いや、やっぱ、何もねー…。」
 
 あまりに沈んだ私を見かねて何か言おうとしたんだろうな。
 
 ただでさえ、目的も果たさず帰るなんて言い出したし。
 
 けど、言葉が浮かばなかった。レオンは馬鹿だから。だけどいい奴だ。
 
 「私…大丈夫。だから、心配しないで。」
 
 「…おう。」
 
 無言で歩いていく。ふと、気付けば見覚えのある家。
 
 「……ここは。」
 
 表札は『宝田』。
 
 …彼の家だ。
 
 「マリア、一応みていかねぇか?」
 
 「…会いたくない。」
 
 「でも、後で後悔するかもしれないぞ?」
 
 「絶対しない。」
 
 「…。」
 
 「…。」
 
 完全に私はレオンの話に耳を貸す気がなかった。
 
 だって、会ったって悲しくなるだけで…
 
 「逃げてんじゃねぇよ。」
 
 「?」
 
 「何があったかしらねぇけど。今まで無茶苦茶な事しながらも、頑張ってきただろ。」
 
 無茶苦茶やったのは殆どレオンだ。
 
 「今更逃げて、無意味にすんな。お前は良くても俺は怒る。無駄にすんな。あの苦労。」
 
 「でも…。」
 
 チラリと家の方を見てみる。明かりもついてるし人は居るようだ。
 
 意を消して、庭へと入っていく。
 
 「マリア。」
 
 レオンがにこりと微笑んで私を呼んだ。それに答えるように私は言う。
 
 「結果は最悪。だけど、それが判ってても全て見なきゃ、進めないよね。」
 
 そっと庭から家の中を覗く。…つもりだったが、偶然にも庭側にある窓が開いてる。
 
 中に入って、彼を探してみよう。
 
 猫らしく私達は華麗に窓から侵入する。
 
 そして、すぐ、見てしまった。
 
 真新しい仏壇を。
 
 
 「・・・え?」
 
 飾られてある写真は、どうみても宝田幸樹。彼だった。
 
 「気持ちは判る。けどねぇ、そろそろ立ち直らないとあなたが…。」
 
 「母さんには判らないわよ!息子に先立たれる気持ちなんて!経験が無いんだから!」
 
 となりの部屋から聞こえてきた声。多分、幸樹の母親と祖母。
 
 「そうはいってもね、もう2年だよ?もう2年もあなたはまともに動かずに…。」
 
 「何もやる気になれないのよ!?しょうがないでしょ!」
 
 2年。それは、私が死んでから生まれ変わって生きてきて、過ぎた年数と同じ。
 
 つまり、彼は私と殆ど同じ時期に亡くなっていた。
 
 「あの子のせいよ!幸樹は…あの子を助けようとして死んだのよ!」
 
 「何を言うの!マリアちゃんは関係…」
 
 "たすけようとして"?
 
 「あの子が事故に遭って、それで助けを呼ぼうと走っていって、あの子も,事故に遭った…。」
 
 「どう考えても、あの子のせいよ!」
 
 「いい加減にしなさい!少し頭を冷やしなさいなあんたは!」
 
 助けに…逃げたんじゃ…無かったの…
 
 嘘よ…。だって、あの時、私の声を聞かずに彼は走り出して…。
 
 「あの子の最後の言葉…『マリアは、助かった?』…。自分より最後まで人を心配して…」
 
 !!
 
 「態度は悪いけどいい子だった!あの子は私の最高の息子だった!!」
 
 この言葉は、祖母に対して母親が愚痴って言っている言葉。
 
 だけど、途中からは,今ココに居る私に向けて、言われてるように思えた。
 
 「…。もう、あの子は帰らない。もう今更判ってるでしょ。誰を責めても、無駄なのよ?」
 
 「…うぅっ・・・うぁああ〜!うぅー…!」
 
 母親はまるで、子供のように泣きじゃくっていた。
 
 「マリア。」
 
 「うん、レオン。私間違ってた。やっぱり彼に謝らないと」
 
 「例え、もう居ない人でもね。」
 
 「…。」
 
 レオンは何も言わずに頷いた。
 
 「ごめん、幸樹…。私は…」
 
 言いかけた所で、ガラッ!とふすまが開いた。
 
 「!」
 
 「おや、猫が迷い込んでるみたいだね…。」
 
 「いや!私猫嫌いなのよ!母さん、追い払ってよ!」
 
 「何てこというんだい。こんな可愛いのに追い払うなんて…」
 
 「母さんがやらないなら私が!」
 
 そういうと私達はほうきで思いっきり叩かれた。
 
 「フギャァ!」
 
 「ギャァ!!」
 
 しかも、レオンは思いっきり頭を叩かれてその場に倒れた。
 
 「レ,レオン!」
 
 「な、なんてことを!判ったよ、私が追い出すから止めな!こら!」
 
 そういうと祖母は母親を止め、私達2匹を掴むと、そのまま外へと歩き出した。
 
 
 
 
 そして玄関前に私たちを降ろすとそっと撫でながら呟く。
 
 「ごめんね…痛かったかい?あの子、ちょっと、息子死んでおかしくなっててね…。」
 
 レオンはかろうじて生きてるようだ。ズルズルと引きずりながらその家を後にする。
 
 ある程度はなれたところで、レオンに声をかけた。
 
 「レオン。レオン!大丈夫?レオン!」
 
 「うぅ…」
 
 かろうじてどころか、特に大した怪我は無かったようだ。
 
 レオンは少し声をかけただけで目を覚まし、自分の足で立った。
 
 「あんな所行かなきゃよかった。ごめんね?大丈夫?」
 
 「ああ…大丈夫。いや、行ってよかったと思うぞ。判らない事も判ったし。」
 
 「?」
 
 突然良く判らない事をいわれて,私は思わず首を傾げてしまった。
 
 しかし、その説明は結局レオンから行われる事は無かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 空き地に戻る。
 
 するとミコトさんは普段通りに穏やかな顔で私を迎えてくれた。
 
 「どう?何か見つかった?」
 
 「はい…。ミコトさんが時間をくれたおかげで…。間違いを見つけました。」
 
 「そう。それは良かったわ。で、帰るんでしょ?」
 
 「はい。」
 
 「帰りは飛ばすわよ。早く帰りたいでしょうしね。」
 
 「はい。」
 
 
 
 こうして私達は、旅の目的地だった大分を後にし、大阪へと帰ったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 数日後。
 
 
 
 「まーりあー。あそぼーぜ。」
 
 レオンはよく、私の所を訪ねてくるようになった。
 
 未だに家出はしたままらしい。
 
 そして、縄張りとか気にしないからいつもボロボロ。(他猫と喧嘩の跡)
 
 「まぁとりあえず、何か、食い物ない?」
 
 …飯をたかるために来てるともいえるな。これじゃ。
 
 「適当にその辺の人に懐いて貰って来るしかない。」
 
 「えー。ここには何も無いのかよー。」「ねぇよ。」
 
 つーか、貰う、盗む、奪うは野良猫の常識。
 
 「ま、しょうがねー。行こうぜ、"谷口"。」
 
 「―――え?」
 
 「…あ、いや、マリア。行こうぜ。」
 
 本当はしっかり聞こえていた。
 
 けど、必死に隠そうとする彼を見て、私は聞こえなかったふりをする。
 
 正直、薄々気付いてはいたけど、まさかと思って彼自身に聞きはしなかった。
 
 でも、多分、きっと、間違いなく。
 
 彼は、幸樹の生まれ変わりだ。そして、その記憶が戻っている。
 
 「マリアー。はやくー。」
 
 …。
 
 「うん、ごめんね。」
 
 そう言って、私は自分の思いを胸に閉まっておく。
 
 彼がいつか、自分で私に言うまでは。
 
 私は、何も知らない、野良猫のマリアで居たいと思う。
 
 いつか来る、新しいあの日まで。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 おわり
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