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きゃっと・メモリー 〜人だった猫の恋〜 作者:糊塗霧 隙羽

第12回   12
ひたすらに歩いていく。周りの景色は全てがあの時の記憶に繋がる。

そして私に胸が痛くなるだけの思い出を見せつける。

これが、ミコトさんの言っていた『がっかり』する事なんだ。

実はミコトさんは、神様の知り合いだったんだ。

だって、伝説上の生物だって言ってたし…。(よく意味判らないけど。)

多分そうなんだ。

歩きながら少しずつ元気を失いながらも、私は歩いていく。

いつのまにか、レオンが私を追ってきている。

合流して、さらに一緒に歩いていく。

「…なぁ、マリア。」

「何。」

「…いや、やっぱ、何もねー…。」

あまりに沈んだ私を見かねて何か言おうとしたんだろうな。

ただでさえ、目的も果たさず帰るなんて言い出したし。

けど、言葉が浮かばなかった。レオンは馬鹿だから。だけどいい奴だ。

「私…大丈夫。だから、心配しないで。」

「…おう。」

無言で歩いていく。ふと、気付けば見覚えのある家。

「……ここは。」

表札は『宝田』。

…彼の家だ。

「マリア、一応みていかねぇか?」

「…会いたくない。」

「でも、後で後悔するかもしれないぞ?」

「絶対しない。」

「…。」

「…。」

完全に私はレオンの話に耳を貸す気がなかった。

だって、会ったって悲しくなるだけで…

「逃げてんじゃねぇよ。」

「?」

「何があったかしらねぇけど。今まで無茶苦茶な事しながらも、頑張ってきただろ。」

無茶苦茶やったのは殆どレオンだ。

「今更逃げて、無意味にすんな。お前は良くても俺は怒る。無駄にすんな。あの苦労。」

「でも…。」

チラリと家の方を見てみる。明かりもついてるし人は居るようだ。

意を消して、庭へと入っていく。

「マリア。」

レオンがにこりと微笑んで私を呼んだ。それに答えるように私は言う。

「結果は最悪。だけど、それが判ってても全て見なきゃ、進めないよね。」

そっと庭から家の中を覗く。…つもりだったが、偶然にも庭側にある窓が開いてる。

中に入って、彼を探してみよう。

猫らしく私達は華麗に窓から侵入する。

そして、すぐ、見てしまった。

真新しい仏壇を。


「・・・え?」

飾られてある写真は、どうみても宝田幸樹。彼だった。

「気持ちは判る。けどねぇ、そろそろ立ち直らないとあなたが…。」

「母さんには判らないわよ!息子に先立たれる気持ちなんて!経験が無いんだから!」

となりの部屋から聞こえてきた声。多分、幸樹の母親と祖母。

「そうはいってもね、もう2年だよ?もう2年もあなたはまともに動かずに…。」

「何もやる気になれないのよ!?しょうがないでしょ!」

2年。それは、私が死んでから生まれ変わって生きてきて、過ぎた年数と同じ。

つまり、彼は私と殆ど同じ時期に亡くなっていた。

「あの子のせいよ!幸樹は…あの子を助けようとして死んだのよ!」

「何を言うの!マリアちゃんは関係…」

"たすけようとして"?

「あの子が事故に遭って、それで助けを呼ぼうと走っていって、あの子も,事故に遭った…。」

「どう考えても、あの子のせいよ!」

「いい加減にしなさい!少し頭を冷やしなさいなあんたは!」

助けに…逃げたんじゃ…無かったの…

嘘よ…。だって、あの時、私の声を聞かずに彼は走り出して…。

「あの子の最後の言葉…『マリアは、助かった?』…。自分より最後まで人を心配して…」

!!

「態度は悪いけどいい子だった!あの子は私の最高の息子だった!!」

この言葉は、祖母に対して母親が愚痴って言っている言葉。

だけど、途中からは,今ココに居る私に向けて、言われてるように思えた。

「…。もう、あの子は帰らない。もう今更判ってるでしょ。誰を責めても、無駄なのよ?」

「…うぅっ・・・うぁああ〜!うぅー…!」

母親はまるで、子供のように泣きじゃくっていた。

「マリア。」

「うん、レオン。私間違ってた。やっぱり彼に謝らないと」

「例え、もう居ない人でもね。」

「…。」

レオンは何も言わずに頷いた。

「ごめん、幸樹…。私は…」

言いかけた所で、ガラッ!とふすまが開いた。

「!」

「おや、猫が迷い込んでるみたいだね…。」

「いや!私猫嫌いなのよ!母さん、追い払ってよ!」

「何てこというんだい。こんな可愛いのに追い払うなんて…」

「母さんがやらないなら私が!」

そういうと私達はほうきで思いっきり叩かれた。

「フギャァ!」

「ギャァ!!」

しかも、レオンは思いっきり頭を叩かれてその場に倒れた。

「レ,レオン!」

「な、なんてことを!判ったよ、私が追い出すから止めな!こら!」

そういうと祖母は母親を止め、私達2匹を掴むと、そのまま外へと歩き出した。




そして玄関前に私たちを降ろすとそっと撫でながら呟く。

「ごめんね…痛かったかい?あの子、ちょっと、息子死んでおかしくなっててね…。」

レオンはかろうじて生きてるようだ。ズルズルと引きずりながらその家を後にする。

ある程度はなれたところで、レオンに声をかけた。

「レオン。レオン!大丈夫?レオン!」

「うぅ…」

かろうじてどころか、特に大した怪我は無かったようだ。

レオンは少し声をかけただけで目を覚まし、自分の足で立った。

「あんな所行かなきゃよかった。ごめんね?大丈夫?」

「ああ…大丈夫。いや、行ってよかったと思うぞ。判らない事も判ったし。」

「?」

突然良く判らない事をいわれて,私は思わず首を傾げてしまった。

しかし、その説明は結局レオンから行われる事は無かった。















空き地に戻る。

するとミコトさんは普段通りに穏やかな顔で私を迎えてくれた。

「どう?何か見つかった?」

「はい…。ミコトさんが時間をくれたおかげで…。間違いを見つけました。」

「そう。それは良かったわ。で、帰るんでしょ?」

「はい。」

「帰りは飛ばすわよ。早く帰りたいでしょうしね。」

「はい。」



こうして私達は、旅の目的地だった大分を後にし、大阪へと帰ったのだった。









数日後。



「まーりあー。あそぼーぜ。」

レオンはよく、私の所を訪ねてくるようになった。

未だに家出はしたままらしい。

そして、縄張りとか気にしないからいつもボロボロ。(他猫と喧嘩の跡)

「まぁとりあえず、何か、食い物ない?」

…飯をたかるために来てるともいえるな。これじゃ。

「適当にその辺の人に懐いて貰って来るしかない。」

「えー。ここには何も無いのかよー。」「ねぇよ。」

つーか、貰う、盗む、奪うは野良猫の常識。

「ま、しょうがねー。行こうぜ、"谷口"。」

「―――え?」

「…あ、いや、マリア。行こうぜ。」

本当はしっかり聞こえていた。

けど、必死に隠そうとする彼を見て、私は聞こえなかったふりをする。

正直、薄々気付いてはいたけど、まさかと思って彼自身に聞きはしなかった。

でも、多分、きっと、間違いなく。

彼は、幸樹の生まれ変わりだ。そして、その記憶が戻っている。

「マリアー。はやくー。」

…。

「うん、ごめんね。」

そう言って、私は自分の思いを胸に閉まっておく。

彼がいつか、自分で私に言うまでは。

私は、何も知らない、野良猫のマリアで居たいと思う。

いつか来る、新しいあの日まで。










おわり

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Novel Editor by BS CGI Rental
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