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きゃっと・メモリー 〜人だった猫の恋〜 作者:糊塗霧 隙羽

第11回   11
「ハァ、ハァ、ハァ・・・。」

「ちょっと、マリアちゃん?そんなに急がなくても・・・待ってよ―・・・」

「お、おいマリア!聞いてるのか!マリアー!」

がむしゃらに私は走った。

彼に会いたい。すぐに、すぐに会いに行かないといけない。

何故か、私の中の何かがそう叫んでいた。

海を通り過ぎ、長い坂道を下り、道路を渡って、走っていく。

そして、辿り付いたのは、私の家だった。

「谷口・・・」

そしてまた思い出す。私の名前。

谷口 茉莉亜 (やぐちまりあ)

あの日までと変わらず,私の家はそこにあった。

家族も皆、家に居るようだ。

「・・・。」

私が・・・・・・

ワタシガ、イナクテモ、カワラズ、コノカゾクハ・・・。

「ハァハァハァ・・・ま、マリアちゃん・・・やっと追いついた・・・。」

「ゼーゼー・・・ココが・・・その、男の家なのか・・・?」

「違う・・・。ここは、私の家・・・。」

「マリアの家か・・・。」「うん・・・」


『カスめが!』『何で産まれて来たの?』

『妹の方が優秀』『期待外れ。』

『もう必要ない。』『死ね。』

『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』

頭の中に流れる罵声達。前世の記憶の一部であろう、誰かの言葉。

これは、一体誰の声?そして、私は・・・

「おい、マリア!どうした、マリア!?」

「マリアちゃん!」

私は・・・何で・・・この家が嫌いなの・・・・・・?





























『また、やられたのかよ。』

『うるせー。あたしだって好きでやられてんじゃないんだよ。』

『だったらやり返せばいーじゃんか。変なのー。』

『そんな簡単に行くもんなら,とっくにやってるわよ。バーカ。』

『あ、また馬鹿にしやがった!この野郎!!』

これは・・・私と・・・誰?一体、誰との記憶・・・?

『なぁ、お、俺さ!ぜってー、でっけぇ男になるぜ!』

『はぁ?何いってんの突然。馬鹿か。』

『馬鹿にすんな!マジだ!ぜってぇ、でっかくなってよ!色んな奴守れるようになるんだからな!』

『あっそー。せいぜい頑張りなー。その頭で出来るんなら―。』

『・・・お前も守ってやるよ。茉莉亜。』

『ブッ!!何!?何言っちゃってんのあんた!頭打った!?』

『ちげーよ馬鹿!!本気だよ!!』

『・・・幸樹。』

もしかして・・・私と・・・彼・・・?

『な、何だよ!』

『それは告白・・・ってことでいいんだよね?』

『あ、ああ!そうだよ!』

『んじゃ、宜しく。』

『へ?』

『返事はOKだよ。本当に守ってよね?死んでも』

『死んでもは無理だろ・・・。』『無理じゃない!やれば出来る!』『マジかよ・・・。』

そうか・・・私達はこうして・・・友達から、恋人に変わったんだね・・・。

そして・・・そして・・・。










「マリア!おい、マリア!!起きろって!!マリア!!」

「うぅ・・?」

目を覚ますと、私はすぐ近くの空き地に寝ていた。

レオンもミコトさんもずっとついててくれたようだ。

「大丈夫か?突然倒れたりして。何があったんだよ?疲れたのか?」

「ううん。思いだしてただけ。」

「思いだしてた・・・?」

「うん・・・。私の、人間だった頃の・・・記憶・・・。」

「そうか。」

相変わらず、あんまり理解はしてないようだけど、レオンは静かに頷いた。

それにしても、コイツはよくこんな所までついてきてくれたもんだな。

色々あったけど・・・おかげでもう,"ゴール"に着いた・・・。

「レオン。」

「ん?何だよ。」

「今まで、有難うね。」

特に他意の無い素直な私の気持ちだった。

「何だよ・・・急に・・・。」

「ねぇ。何で、私に着いてきてくれたの?」

「え?」

「私が元々人間とか、信じられなかったでしょ?」

それでも、レオンは最後まで着いて来てくれた。

「なんで?」

「んー・・・。やる事も無かったし・・・。俺は野良なりたてだったしさ。飯も食えたし。」

それでかよ。

「それに・・・マリア可愛いしな・・・。」

「え?」

本当は聞こえていたが、思わず聞きかえした。だが、レオンは

「い、いや・・・何でもねーよ。」

といって誤魔化してしまった。この意気地なしめ。素直になれよ。

「で、どうする?今から行くのか?その彼の所。」

ついには話を摩り替えやがった。でも、まぁいいや。本人が言わないなら・・・。

それに『彼』の話か・・・。

「・・・いかない。」

「お?」

私の意外な答えにレオンは思わず驚いた。そりゃさっきまでの勢いとは随分違うんだから当然だ

「ま、まぁ今日は疲れてるもんな!明日にでも・・・」「行かない。もう帰る。」「へ?」

「マリア・・・お前・・・?」

「・・・。」

・・・私はさっき、夢の中であの時の事を思い出したのだ。あの、事故の時の事を。完全に。











『ねぇ、幸樹。お願い。私を連れて・・・一緒にこの街から逃げよ?』

『は、はぁ!?お前、何言ってんだよ!そんなの出来る訳ねぇだろ!』

『出来るよ!2人で働いて・・・何とかすれば!ね!お願い!もうここは嫌なの!』

『俺の母さん、寝込んでるんだ・・・。置いていけない・・・。』

『・・・何よ!私よりお母さん!?このマザコン!!』

『お、おい、待てよ茉莉亜!どこに行くんだ!』

『一人でも・・一人でもここを出て行ってやるんだから!こんな所・・・本当に嫌なんだから!!』

『あ、おい!待て!道路渡るときは前を見て・・・』

『ふざけないでよ!』

キキ――ッ!!

『あ・・・・』

ドンッ・・・ガシャァーー!!

『ま・・・茉莉亜・・・』

『幸樹・・・た、助け・・・』

『う、うわあぁああ!!』

『幸樹!こうき!おいてかないで!おいて―――』











彼は、私を見捨てて目の前の私から逃げた・・・・・・。

そして、私はそのままそこで息を引き取ったわけだ・・・。

「ミコトさん。」

「ZZZzz・・・」

居たのに静かだと思ったら寝てたのか。

「・・・まぁいいや。レオン。明日、帰るよ。」

「何でだよ・・・。何で、突然・・・。」

「もういいの。私は猫。あの頃とは違うんだから。あの頃と別の生活がある。」

「・・・。」

そうして私達は眠る事にした。





次の朝。

とても寝覚めは悪かった。

やっぱりレオンが上に乗っかっていたから。

「おも・・たい!!」

もちろん、ぶんなげて起こす。

「いっでぇ!なんだよ!」

「相変わらず寝相悪いのよ!重いから少しは気をつけて!」

「無茶言うな!!」

別にいつもと変わらない朝。しかし、なんとも今日は嫌な感じがしていた。

「あら、2人とも早いじゃない・・・。ふあぁ・・」

昨日一番早く寝ていたはずなのに、一番遅く、ミコトさんが起きた。

「まぁね。」

「私が早いだけです。レオンは私に投げられたから起きただけ。」

「そう。」

ミコトさんはまだ眠たそうだ。

「それで、今日、帰りたいんですけど・・・。」

寝ていて昨日はいえなかったことをすぐさま言う。

「え?どこに?」

寝ぼけてるのだろうか。どこにって・・・。

「オオサカ・・・私が住んでいた国に。」

「そう・・・え!?もう帰るの?しかも、まだ彼に会ってないんじゃ・・・」

「もういいんです。」

はっきりと答える私の姿を見て、ミコトさんは少し悲しい顔をした。

そしてその後、ゆっくりと口を開く。

「なら、しょうがないわね。帰りましょう。」

「はい。」

内心、私は複雑な気持ちだ。あれだけ言っていたのに引きとめもされない。

いや、別に引き止めて貰わなければならない訳でもないんだけど・・・何だか・・・寂しい。

「じゃぁ、早速・・・って言いたいんだけど、私の体を貸した人と連絡取れないの。だからまだ時間かかるわ。」

「そうですか・・・。」

ホッとしたような、違うような・・・。

「その辺、っ見て回ったりしたらどうかしら?折角来たんだから。」

「はぁ、そうですね・・・。」

特に何も見て回りたくないんだけど・・・時間潰さないとならないし仕方が無い。私は歩き出した

「・・・ミコトさん・・・だっけ。」

「あら、何かしら。レオン君。」

「あんた、昨日言ってたよな?『体を貸してる人とはテレパシーで連絡できる』って。」

「ええ、言ったわね。事実、今連絡とって帰って来るように言ったわ。」

「だったらなんで、マリアにあんな・・・」

「彼女には、まだ見つけないといけないものがある。」

「はぁ?」

「って、神様が言ってたわ。ま、心配なら着いて行きなさい。レオン君。」

「はぁ・・・判った・・・。」

レオンもマリアを追って走り出した。

「・・・。頼むわよ。」





続く

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Novel Editor by BS CGI Rental
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