ありすの初出撃から一ヶ月が経った。 その間の戦闘の回数は16回を越えた。 だが、その間で日米韓の連合軍の状況は劣勢に傾きつつあった。 「あー・・・今日は昼過ぎに客人が二人来るからそのつもりで。」 朝のミーティングで石塚がそう言う。 「大佐、その客人はいったい何者だ?」 仁三郎が石塚にそう尋ねる。 「何でも大尉と少尉らしい。少尉の方は海兵隊の所属らしい。」 それを聞いた月宮が顎に手を当てながら言う。 「海兵隊ねぇ・・・」 同じく宗司がニヤリと笑う。 「海兵隊か・・・お手並み拝見って所だな。」 ありすが何のことだかわからず小声で修平に尋ねる。 「修平君、海兵隊って何?」 「米軍の上陸作戦、陸戦専門の精鋭部隊。」 同じく修平が小声で答える。 「大佐、その二人はこの艦に泊まるんですよねー?」 ゆのかがそう言うと石塚はすっかり忘れてたかのように手をぽんと叩く。 「そうだった。赤川大尉と月宮大尉は部屋の準備頼む。居住区の空いてる部屋にやっておいてくれ。」 「了解ー。」 「あいよ。」 二人がそう返事をすると石塚は解散の指示を出し、皆それぞれ部屋を出て行った。
「ねぇ、今日来る人ってどんな人なんだろ?」 部屋のテーブルでお茶を飲みながらありすが同じようにお茶を飲んでいる修平にそう尋ねる。 「どっちの人よ?」 「少尉の方。」 「海兵隊って言ってたしなぁ・・・」 そう言って修平は頭の中にあるそれらしきイメージ像を思い浮かべる。 修平はお茶を吹き出した。 「大丈夫!?」 ありすが慌てて修平にタオルを差し出す。 「ゲホゲホ・・・とんでもない物を想像してしまった・・・」 修平はそう言いながらぞっとする。 「どんなの?」 「こう・・・黒人で、溢れんばかりの筋肉、スキンヘッド・・・そして何故かポーズを決めて紐パン一丁。」 修平が言ったそれをありすは頭の中で思い描く。 ありすの目に涙が浮かび、震える。 「怖すぎるよぉ・・・ガクガクブルブル・・・」 そんな二人の予想は良い意味で裏切られることになる。 数時間後・・・ 昼食を食べ終わるとありすと修平は甲板へと呼び出され、行ってみると甲板のヘリの着陸場所には宗司、月宮、ゆのかが居た。 「お客さんの出迎えにこんなに大勢で出迎える必要あるのかねぇ・・・」 月宮はそう言って海を見る。 「だな・・・何か嫌な予感がするぞ。」 宗司が目を凝らして海を見ながらそう言う。 「黒人で、溢れんばかりの筋肉、スキンヘッド・・・そして何故かポーズを決めて紐パン一丁の海兵隊員なんてやめてくださいよ・・・」 修平がそう言って笑う。 「そりゃイヤだねぇ・・・」 月宮がそう言うと宗司がニヤリと笑って 「どうやらお客さんの到着のようだ。」 と言うと同時にヘリのローター音が聞こえてきた。 数分後、ヘリは長戸に着艦する。 扉が開き、人が二人降りてくる。 降りてきた二人は修平が予想していたのと大きく違った。 一人は白衣を着た黒髪ストレートの若い女の人。 目が物凄く眠そうである。 そしてもう一人は・・・ 金髪碧眼、ツインテール、身長はありすと同じぐらいの女の子だ。 「米軍特殊技術部所属、エリ・ツキモリ少佐です・・・」 眠そうに白衣の方の女の人が言う。 「ご主人さま、今は少佐じゃなくて大尉ですよ。あ、米軍海兵隊第13独立小隊所属キリィ・ツキモリ少尉です。」 金髪碧眼少女はそう言って敬礼する。 「あ・・・そうだった。」 白衣の女の人はそう言って面倒くさそうに頭を掻く。 「ひょっとして・・・ツキモリ大尉ってあの月守先生?」 ありすがそう言って白衣の女の人を見る。 「うん。そうよ・・・ありすちゃんも修平君も久しぶり・・・ふわ〜」 そう言って月守はあくびをしながら倒れそうになる。 「ご主人さま、しっかりしてください!」 金髪碧眼の少女が慌てて月守を支える。 「とりあえず・・・嬢ちゃんと修平で部屋へ案内してやれ。」 宗司が呆れたようにそう言って艦内に入るドアを指す。 「あ、はい。こっちだよ。」 そう言って修平は客人二人を艦内へと案内して行った。
月守は部屋に着くなり、ベッドに倒れて深い眠りについてしまった。 「案内してもらってすぐに寝ちゃうなんて・・・ごめんなさい。」 そう言ってキリィはペコリと頭を下げる。 「いやいや、気にしないで。」 「それよりキリィちゃん、さっきから日本語話してるけど・・・キリィちゃんってアメリカ人だよね?」 ありすが不思議そうに首をかしげながらそう尋ねる。 「えっと・・・ご主人さまが日本語で話してるんで私も日本語で話せるんです。と言うよりも普段は日本語で話してます。」 「へぇ・・・」 修平が感心したように頷く。 「キリィちゃん、もう友達なんだから敬語じゃなくても良いよ?」 ありすがそう言うとキリィは頷く 「うん。よろしくねありすちゃん。」 そう言って二人は握手をする。 「ところでキリィちゃん、名前の綴りどう書くの?」 修平がそう言うとキリィは困った顔をしてあわてる。 「えっと・・・えっと・・・前にご主人さまに聞いてみたら漢字も英語もなくて平仮名しかないって言われたんです・・・」 「月守先生らしいなぁ・・・・」 修平はそう言って頷く。 てな訳で目の前の金髪碧眼ツインテール少女の名前は「キリィ」ではなく「きりぃ」らしい。 それから3人は適当に雑談を続けた。
「なぁ月宮・・・お前何か隠してるだろ?」 夕食後、宗司が部屋でビールを飲みながら同室の月宮に尋ねる。 「別に何も隠してないよ?」 月宮はいつもどおりの笑顔で書類を見ながらそう言う。 「お前、俺の目をごまかせると思ってるのか?」 「騙すも何も何も隠してないって。」 「そんなことはないだろ。あの二人が来てからお前の態度がおかしいぞ?」 「やだなぁ・・・僕の何処がおかしいんだ?いつもどおりじゃないか。」 月宮がそう言うと宗司は険しい目つきで月宮を睨みつける。 「確かに俺以外の奴にはいつも通りに見えるだろ。だが・・・つきあいの長い俺がお前の態度がおかしいのに気づかない訳ないだろ。」 宗司がそう言うと月宮はため息をついて観念した様に言う。 「はぁ・・・君の目はごまかせないか。」 「動揺してる理由は何だよ?」 宗司がビールを飲みながらそう言う。 「月守大尉だよ。」 「あの眠そうな白衣女か?」 「ひどい言い方だね。まぁそうだけどさ・・・ところで、君ばかり飲んでないで僕にもくれる?」 月守がそう言うと宗司は手元の缶ビールを一本投げた。 「ほれ。」 「ありがと、で、何が悩みの原因かと言うとね・・・」 月宮はそう言って缶を開けて飲む。 「ああ。あの女のいびきがひどいとか言うんじゃないだろうな?」 「そんな単純じゃない理由じゃないよ。あの人は実は・・・僕の妹なんだ。」 「へぇ・・・って、おい・・・ちょっと待て、苗字が違うだろ?」 「まぁね・・・いろいろあってね・・・」 「で、何でその妹のことで悩むんだよ?」 「あいつは眠そうにしてる時はいいんだけど、目が覚めてる時はど末恐ろしいんだ・・・・」 「あー・・・そういうことか。」 宗司はそう言って頷く。 いろいろな人々の感情が深く交差するストライクイージス艦長門であった。
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